
偶発的に茶色いクマが出現したわけではなく、西部に生息するアメリカグマに多く見られる特徴なのだそうだ。
『Current Biology』(2022年12月16日付)に掲載された研究によれば、遺伝子の変異によって長い年月を経て、アメリカグマたちは新しい毛色を獲得しつつあるという。
アメリカンブラックベアが黒から茶色へ 今回調査されたのは、米国とカナダに生息する「アメリカグマ(Ursus americanus)」151頭だ。
そのDNAを分析したところ、ネバダ州・アリゾナ州・アイダホ州をはじめとする米国西部の州に生息するクマは、黒よりも、赤みを帯びた被毛である傾向が明らかになった。
その原因は、メラニン合成酵素である「チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)」という遺伝子に「R153C」と呼ばれる変異が起きていることだ。
これが真っ黒なはずの被毛の色素を変化させて、茶色(シナモン)のような色にしているという。
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茶色くなったアメリカグマ photo by iStock
研究の筆頭著者である米メンフィス大学のエミリー・パケット氏によると、TYRP1は「色素形成遺伝子」で、「ユーメラニン(黒や茶色の色素)」や「フェオメラニン(赤や黄色の色素)」を作り出す前駆体分子に関係しているのだという。
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本来のアメリカグマは黒色をしている photo by iStock
西部のアメリカグマにのみ発生している理由 毛色を茶色に変える変異体は、およそ9360年前に登場したまだ新しいもので、米国の西部地域、とりわけ南西部で誕生した可能性が高いことがわかっている。
茶色のクマがアメリカ西部地域に集中し、五大湖や北東部などに広まっていないのは、誕生からまだそれほど時間が経過していないためだという。
これには地形なども関係している。パケット氏は、「アメリカグマはグレートプレーンズを通りません」と説明する。
「グレートプレーンズ」は米国中西部を南北につらぬく台地状の平原だ。
これがあるために、西部で暮らすアメリカグマが東へ行くには、まずカナダまで北上し、そこに広がる大草原を横断して五大湖を迂回し、そこから南下しなければならない。
それは実際に起きていることだが、変異体が東部で広まるまでには長い時間がかかる。
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photo by iStock
なぜ黒から茶色に?有利な突然変異が優勢になっている可能性 パケット氏らは、この茶色の突然変異は、何かに適応するためのものだと考えている。
そこで米国西部のアメリカグマにこの色が広まっている背景に、「体温調節」や、やはり茶色をした「ヒグマとの競争」が関係するかどうかも調べているが、まだどちらからも変異体の広まりを裏付ける結果は得られなかったとのこと。
パケット氏らは目下、「選択的優位のメカニズム(有利な突然変異のみが優勢になっていく)」が背景にあるのではと睨んでいるそうだ。
興味深いことに、この茶色の変異体は、人間では「眼皮膚白皮症3型(OCA3)」という髪や皮膚の色を薄くする変異体とよく似ているそうだ。
これは人間では視力を低下させることもあるが、幸いにもクマではそのような症状は出ていないそうだ。
ちなみにアメリカではアルビノではない白変種の白いアメリカグマの個体も確認されている。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州内の島々に生息する個体数の10~20%は、時々白や金色の毛を持って生まれることがあるという。
人間が様々な毛色を持つように、アメリカグマも被毛も多様化しているようだ。
References:Genetic architecture and evolution of color variation in American black bears: Current Biology / American black bears are evolving to have cinnamon-colored coats, study finds | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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