
現時点で「地球でもっとも強靭」な素材が開発された。科学者が驚愕する最強の材料が、クロム、コバルト、ニッケルの合金「CrCoNi」だ。
変形しにくく、それでいて耐えられる力の限界を超えても、壊れることなく柔軟に変形する。この「強度」と「延性」の2つを合わせた性能のことを「靭性(じんせい)」という。
靱性は、材料の粘り強さと言ってもいいが、CrCoNiはそのチャンピオンだ。特に低温下で真価を発揮し、宇宙のような極限環境での応用が期待されている。
強度と延性を兼ねそろえた強靭な合金 CrCoNiは、5種類以上の元素で構成され、しかもそれがほぼ同じ割合である合金「高エントロピー合金(HEA)」の1つだ。
じつはCrCoNiは低温になるほど強靭になるという特徴があり、その真価は絶対零度に近い超低温で発揮される。
研究の共同リーダーであるオークリッジ国立研究所のイーソ・ジョージ氏は、「構造材料の設計においては、強度を高めると同時に、延性(材料の延ばしやすさ)を高め破壊に対して強くさせたい」とプレスリリースで説明する。
しかし一般的には、それらを両立するのは難しく、どこかで妥協することになる。ところがCrCoNiは、その両方を兼ね備えており、外力に抗して破壊されにくい性質「靭性」も高い。
しかも低温でもろくなるどころか、いっそう強靭になるのだ。
[画像を見る]
20ケルビン(-253.15℃)での応力試験中のCrCoNi合金の破断の経路とそれに伴う結晶構造の変形をナノメートルのスケールで示す顕微鏡画像。亀裂は左から右へ伝播している / image credit:Robert Ritchie/Berkeley Lab低温で最強の威力を発揮する合金「CrCoNi」 研究チームがCrCoNiとまた別の合金(CrMnFeCoNi)の開発に着手したのは、10年近く前のことだ。
これらの性能を液体窒素温度(-196度)で試すと、かなり優れた材料であることがわかった。だが、もっと過酷な条件でその性能を試すには、さらに何年も研究を続ける必要があった。
その甲斐あって、CrCoNiの性能は別格だったという。
たとえば、CrCoNiは液体ヘリウム温度(20ケルビン/-253度)付近では、500メガパスカル ルートメートルという靱性を発揮する。
参考までに言うと、シリコンの靭性は1(単位は同じ)、旅客機に使われるアルミなら約35、最高級の鋼ですら100程度だ。500という数値がどれほどのものかわかるだろう。
[画像を見る]
走査型電子顕微鏡による画像。(A) CrMnFeCoNi と (B) CrCoNi 合金の結晶構造と結晶格子の向きを示している。(C)は293ケルビン、(D)は20ケルビンでのCrCoNiの破断の例 / image credit:Robert Ritchie/Berkeley Lab宇宙の極限環境でにも耐えうる素材 CrCoNiが変形すると、「魔法の連鎖」と呼ばれる相互作用が起きる。これによって、まず延性が生まれ、次に強度を生まれる。
最初の段階では、粒でできた非常にシンプルな構造だが、変形するとこれが複雑になって、破壊に抵抗するのだそう。
その破格の性能はさまざまな用途に有効だが、開発コストがかかるために、現時点では宇宙のような極限環境での使用が有望視されるとのことだ。
この研究は『Science』(2022年12月1日付)に掲載された。
References:Say Hello to the Toughest Material on Earth - Berkeley Lab – News Center / written by hiroching / edited by / parumo
追記:(2022/12/28)本文を一部訂正して再送します。
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変形しにくく、それでいて耐えられる力の限界を超えても、壊れることなく柔軟に変形する。この「強度」と「延性」の2つを合わせた性能のことを「靭性(じんせい)」という。
靱性は、材料の粘り強さと言ってもいいが、CrCoNiはそのチャンピオンだ。特に低温下で真価を発揮し、宇宙のような極限環境での応用が期待されている。
強度と延性を兼ねそろえた強靭な合金 CrCoNiは、5種類以上の元素で構成され、しかもそれがほぼ同じ割合である合金「高エントロピー合金(HEA)」の1つだ。
じつはCrCoNiは低温になるほど強靭になるという特徴があり、その真価は絶対零度に近い超低温で発揮される。
研究の共同リーダーであるオークリッジ国立研究所のイーソ・ジョージ氏は、「構造材料の設計においては、強度を高めると同時に、延性(材料の延ばしやすさ)を高め破壊に対して強くさせたい」とプレスリリースで説明する。
しかし一般的には、それらを両立するのは難しく、どこかで妥協することになる。ところがCrCoNiは、その両方を兼ね備えており、外力に抗して破壊されにくい性質「靭性」も高い。
しかも低温でもろくなるどころか、いっそう強靭になるのだ。
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20ケルビン(-253.15℃)での応力試験中のCrCoNi合金の破断の経路とそれに伴う結晶構造の変形をナノメートルのスケールで示す顕微鏡画像。亀裂は左から右へ伝播している / image credit:Robert Ritchie/Berkeley Lab低温で最強の威力を発揮する合金「CrCoNi」 研究チームがCrCoNiとまた別の合金(CrMnFeCoNi)の開発に着手したのは、10年近く前のことだ。
これらの性能を液体窒素温度(-196度)で試すと、かなり優れた材料であることがわかった。だが、もっと過酷な条件でその性能を試すには、さらに何年も研究を続ける必要があった。
その甲斐あって、CrCoNiの性能は別格だったという。
たとえば、CrCoNiは液体ヘリウム温度(20ケルビン/-253度)付近では、500メガパスカル ルートメートルという靱性を発揮する。
参考までに言うと、シリコンの靭性は1(単位は同じ)、旅客機に使われるアルミなら約35、最高級の鋼ですら100程度だ。500という数値がどれほどのものかわかるだろう。
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走査型電子顕微鏡による画像。(A) CrMnFeCoNi と (B) CrCoNi 合金の結晶構造と結晶格子の向きを示している。(C)は293ケルビン、(D)は20ケルビンでのCrCoNiの破断の例 / image credit:Robert Ritchie/Berkeley Lab宇宙の極限環境でにも耐えうる素材 CrCoNiが変形すると、「魔法の連鎖」と呼ばれる相互作用が起きる。これによって、まず延性が生まれ、次に強度を生まれる。
最初の段階では、粒でできた非常にシンプルな構造だが、変形するとこれが複雑になって、破壊に抵抗するのだそう。
その破格の性能はさまざまな用途に有効だが、開発コストがかかるために、現時点では宇宙のような極限環境での使用が有望視されるとのことだ。
この研究は『Science』(2022年12月1日付)に掲載された。
References:Say Hello to the Toughest Material on Earth - Berkeley Lab – News Center / written by hiroching / edited by / parumo
追記:(2022/12/28)本文を一部訂正して再送します。
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