偽薬なのに効く「プラセボ効果」が悪用され、怪しい療法がはびこる結果に
 「プラセボ効果(偽薬効果)」とは、効果などないはずの偽の薬(プラセボ)を効く薬と信じることで、本当に効果が発揮されてしまう現象のことだ。

 不思議な話だが、それが実際に起きることは科学的に証明されている。


 だが、トリノ大学医学部の神経科学者ファブリツィオ・ベネデッティ氏によれば、プラセボ効果が科学的にお墨付きを得たことで、怪しい療法がはびこる結果になっているのだという。

科学的に証明されたプラセボ効果 プラセボ効果は本当にある。それは人間の脳のメカニズムが関係しているようで、効くと期待するだけで、痛みを和らげるオピオイドや気分がよくなるドーパミンなど、脳内のさまざまな化学物質が活性化することが科学的に確認されている。

 プラセボ効果は、使い方次第では頼りになるもので、患者の生活の質を向上させる場合がある。

 その一方、利益を追求する企業や個人が悪用することもできる諸刃の剣だ。

 彼らが売り出したい治療法の有効性を実証することなく、治療効果の源泉はプラセボ効果と主張しさえすればいいからだ。

 ただのお守りや適当な調合薬などを、「痛みが軽くなる」や「元気が出る」といった専門家のお墨付きと一緒に売り出したらどうだろう?

 本当は効果などないのに、信じさせさえすれば宣伝文句通りの効果が発揮されるのだ。

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プラセボは適材適所。有効利用で威力を発揮 パーキンソン病の痛みや筋肉のこわばりといった症状を緩和するなど、確かにプラセボ効果で患者の生活の質を向上させられることはある。

 だが、1つ大きく誤解されているのは、病気の進行(パーキンソン病なら脳細胞の変性)までは止まらないということだ。

 その意味で、プラセボは治療ではないと、ベネデッティ氏は指摘する。

 科学的に証明されたプラセボの効果はほかにもある。


 たとえば、プラセボとオピオイドは、脳内の同じ痛み抑制系に作用する。パーキンソン病の患者にプラセボを使うと、覚せい剤に指定されている「アンフェタミン」と同じようにドーパミン濃度が2倍になる。

 また不安障害やうつ病の患者に使えば、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と同じ脳領域に作用する。

 さらにプラセボと本物の薬を併用することで、プラセボだけでも治療効果を得られるよう”訓練"することもできる。

 たとえば、特定の味とインターロイキン-2(免疫系の白血球を制御するタンパク質)を組み合わせて使い、患者にその味には薬効があると思い込ませる。すると、その味だけでインターロイキン-2の効果が発揮されるようになる。

 なにしろ、患者がプラセボと知っていても効くのだ。ホラー映画の身の毛もよだつようなシーンが偽物とわかっていても、恐ろしさのあまり鳥肌が立ってしまうようなものだ。

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プラセボ効果の悪用が引き起こす問題 ということは、セールスマンが「このお守りで痛みが軽くなりますよ」と言ったとしても、プラセボ効果で脳の鎮痛回路が作動する可能性はあるので、必ずしも嘘ではないのだ。

 だが、それには限度というものがある。それなのにセールスマンは、しばしば効果を誇張する。

 「軽くなりますよ」ではなく、「治りますよ」と言ってみたりする。
さらに悪いことに、がんなど深刻な病気の代替治療として紹介することもある。

 またプラセボで痛みなどを緩和できるのだとしても、それが必ずしも最善の方法とは限らない。

 たとえば、ちょっとした痛みが、じつはもっと深刻な病気のサインである可能性もある。その場合、痛みを消してしまえば、隠れた本当の病気の発見を遅らせてしまいかねない。

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プラセボ効果が直面している問題 核エネルギー然り、遺伝子工学然り、新しい科学的発見の利用は、しばしば社会的・倫理的な問題を引き起こす。

 そうしたとき、利便性と倫理の折り合いをどうつけるのか、必ずしも簡単には決められない。

 そして今、プラセボの科学も同じ問題に直面しているのかもしれない。どうすれば社会が危険な方向に進んでしまうことを止められるだろうか?

 ベネデッティ氏は、医療にとって大切なのは、教育・コミュニケーション・誠実さだと説明する。プラセボには何ができて、何ができないか、患者や医療関係者には知る権利があるという。

 また研究・医療業界の透明性を高める必要もあるだろうという。

 従来の薬や治療法の中には、本当に効くものも、そうでないものもある。業界はそれをきちんと認めるべきだと、ベネデッティ氏は主張する。


 結局のところ、医療に対する患者の信頼を高め、怪しい療法を追放するには、正直さが最善の方法なのだ。

References:The science of placebos is fueling quackery / written by hiroching / edited by / parumo

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