古代ローマのコンクリートが何千年も持ちこたえた理由がついに判明

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 世界最大の無筋コンクリートのドーム「パンテオン」や、現在も一部が使用されている「ローマ水道」など、古代ローマの建造物の中には2000年たっても当時の姿のままのものがある。

 一方、現代のコンクリート建築は、数十年もすれば崩壊してしまう。

なぜ古代ローマの建造物はこうも耐久性が高いのか?

 『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.add1602?adobe_mc=MCMID=91196085935417329474603991401538090131%7CMCORGID=242B6472541199F70A4C98A6%2540AdobeOrg%7CTS=1672798947&_ga=2.4327667.1163520329.1672696164-1154345832.1638937760]』(2023年1月6日付)に掲載された研究によって、これまでずっと謎とされてきた「古代コンクリート」の超耐久性能の秘密がついに解明された。

 それによると、古代ローマ人は特殊な方法でコンクリートに「自己修復能力」を与えていたのだそうだ。

古代ローマ時代のコンクリートに優れた耐久性の秘密

 「ローマン・コンクリート(古代コンクリート)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88]」と呼ばれる古代ローマの建造素材が優れていることは、彼らの建造物を見ればわかることだ。

 世界最大の無筋コンクリートのドーム「パンテオン」や、現在も一部が使用されている「ローマ水道」など、古代ローマ建築の中には2000年たった今も崩れることなく当時の姿を残すものがある。

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コンクリートに混ぜ入れた石灰岩の粒に自己修復能力

 これまで、古代コンクリートの耐久性の秘密は、その主原料である「ポッツォラーナ(ポッツォラン灰)」というポッツオーリ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%83%E3%83%84%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AA] (Pozzuoli) の地層から得られる火山性の砂にあると考えられてきた。

 だが詳しく調べてみると、古代コンクリートには「ライムクラスト[https://kotobank.jp/word/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88-779123]」というごく小さな石灰岩の白い粒が含まれていることもわかっている。

 これまで、ライムクラストは、原料の混合がずさんであるか、原料の質が悪い証拠とみなされることが多かった。

 だがMITやハーバード大学をはじめとする研究チームの今回の調査では、それが欠陥どころか、超耐久性能の秘密であることが明らかとなった。

 なんとこの小さな石灰の塊は、コンクリートに「自己修復能力」を与えているようなのだ。

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高温でコンクリーを混ぜ合わせていた

 コンクリートの原料を混ぜるとき、そこに石灰を入れると水と結合して反応性の高いペースト状の物質になる。だがこれだけでは、ライムクラストを入れた理由を説明できない。

 そこで研究チームは、古代ローマ人は「生石灰」というより反応性の高い石灰をあえて使っていたのではないかと推測した。

 これを検証するために、高解像度マルチスケール撮像と化学マッピング技術で古代コンクリートの解析が試みられた。

 その結果、ライムクラストはさまざまな形態の炭酸カルシウムからできていることがわかったのだ。

 さらにライムクラストが形成されたとき、かなりの高温だったろうことも判明した。

 このような高温は、ただの石灰ではなく、生石灰の発熱反応でなければ生じないものだ。

 つまり古代コンクリートは、生石灰を使い、ポッツォラーナなどの原料を高温で混ぜ合わせることで作られていたと考えられるのだ。

 高温混合のメリットは2つある。1つは、コンクリート全体が高温になることで、普通の石灰ではありえない化学反応が起こること。

 もう1つは、高温で反応が促進されるため、コンクリートの養生と硬化の時間が大幅に短くなり、速やかな工事を行えることだ。

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古代ローマ人の知恵と工夫が驚異の自己修復コンクリートを生み出した

 こうして作られた古代コンクリートには、なんと自己修復能力があることも明らかになっている。

 高温で混合する過程で、ライムクラストはもろいナノ粒子構造を形成し、反応性の高いカルシウム源になる。

 またライムクラストは表面積が大きいので、古代コンクリートに入るヒビ割れは優先的にここを通過しようとする。

 するとヒビに進入してきた水がカルシウムと混ざり、再び結晶化する。これがヒビ割れを埋めたり、ポッツォラーナと反応したりして、古代コンクリートをさらに強化するのだ。

 この自己修復能力は実験でも確かめられている。

 研究チームが生石灰で作ったコンクリートにヒビを入れそこに水を流すと、2週間もしないうちに完全にふさがることが確認されたそうだ。

 一方、生石灰を使わないコンクリートでは、そのような自己修復機能はまったく見られなかった。

 まさに古代ローマ人の知恵と工夫が生み出した現代に通じる技術なのだ。

 現在研究チームは、この発見をもとに現代の自己修復コンクリートの開発を進めている。

 セメント(コンクリートの原料)の生産から排出される温室効果ガスは、全体の8%を占める。だから自己修復コンクリートは、ただ建物の耐久力を上げてくれるだけでなく、セメント生産を減らすことで温暖化対策にもなるのだそうだ。

References:Riddle solved: Why was Roman concrete so dura | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/975532] / Riddle solved: Why was Roman concrete so durable? — ScienceDaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2023/01/230106144441.htm] / written by hiroching / edited by / parumo

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