
イラク南部の砂漠にある古代都市「ギルス」で、長らく失われていたシュメール文明の宮殿と神殿が発見されたそうだ。
遺跡は紀元前3000年代中頃までさかのぼるもの。
これを発掘した考古学者は、誰も信じない中、己の信念を貫き通して忍耐強く発掘を続け、ついに大発見をすることになった。
シュメール文明発祥の地「テルロー遺跡」 シュメール人は紀元前3500~前2000年に、世界で初めて文字を発明し、最初の法律を制定したといわれている。
科学技術や芸術など、さまざまな分野で彼らがもたらした革新は、メソポタミア周辺地域で興った文化の基礎となった。
イラク南部にある「テルロー遺跡(Telloh)」は、世界最初期の都市であり、シュメール文化の中心でもあった伝説の都市「ギルス(Girsu)」があったことろだ。
あまり知られていはいないが、ここは「文明の発祥地」として世界有数の重要な遺産である。
2015年、大英博物館・イラク考古遺産委員会・ゲッティは、イラクやシリアにある貴重な人類の遺産をイスラム国による破壊から守る共同プロジェクトを開始。
古代メソポタミア文明の専門家セバスチャン・レイ博士らによる今回の発掘もその一環として行われたものだ。
[動画を見る]
これほど重要な遺跡でありながら、ギルス発見から1世紀以上もの間、ほとんどまともな発掘調査がされてこなかった。
ギルスがフランス人考古学者によって発見されたのは1877年のこと。
だがそれ以来、くさび形文字が刻まれた粘土板が10万点も持ち去られるなど、遺跡は荒れに荒らされ、もはや何も残されていないだろうと思われるようになっていたのだ。
くわえて20世紀にイラクで戦争が繰り返されたことも、まともな調査が行われなかったことの背景にある。
[画像を見る]
ギルスで発見されたくさび形文字が刻まれた粘土板(紀元前2350年)。毎月大人と子供に配られた大麦の配給について記されている / image credit:public domain/wikimedia失われた宮殿と神殿を発見 こうした状況で、ギルスの発掘調査に大きく貢献したのが航空測量技術だ。
2022年、ドローンで上空からテルロー遺跡を撮影したところ、これまで知られていなかった地下遺跡の存在が明らかになった。
これをきっかけに、ギルスの中枢にあったかつての王宮の泥レンガの壁が発見されたのである。
さらに、200点以上のくさび形文字の粘土板も発見されている。
それらは19世紀の発掘調査で捨てられた瓦礫の山の下に埋もれていたもので、ギルスの行政記録であることがわかっている。
だが特筆すべきは、シュメールの最高神「エンリル」の息子である戦争の神「ニンギルス」をまつった神殿が発見されたことだ。
ここは古代メソポタミア世界で、もっとも人々が訪れたであろう神聖な建物だったと考えられている。
じつは神殿自体が発見されたのは2015年のことだが、その全容が明らかになったのは、ようやく2022年になってのことだ。
レイ博士は、このニンギルスの神殿について、ローマに囲まれた現代のバチカンに匹敵するような古代都市の中心になぞらえている。
そこで発見された石の碑文には、「グデア王がニンギルス神のために建立した」とあり、これによってその建物が神殿だったことが明らかになった。
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ギルスの王宮の再現イメージ / image credit:British Museum信念をつらぬいた末の大発見 発掘を指揮したレイ博士にとって、これは古代メソポタミア考古学上の重要な発見であるだけでなく、己の正しさの証明でもある。
というのも、2016年当時、テルロー遺跡は荒らされ尽くされていると考えられており、そこに何かがあるというレイ博士の話を誰も信じなかったのだ。
とある国際会議に出席したときは、大英博物館のお金をムダにしていると、キツい言葉ばかりもらったそうだ。
だが彼を信じたごく少数の人たちの支えもあり、忍耐強く発掘を続けたところ、ついにその努力が実を結ぶことになった。
儀式的な祝宴や宗教的な生け贄に使われた神聖な場所からは、ボウルやカップなど、300点以上の遺物が見つかった。いずれも紀元前2950~前2350年のシュメール初期王朝時代のものだと考えられている。
大英博物館の館長ハートウィグ・フィッシャー博士は、「大英博物館、イラク考古遺産委員会、ゲッティによる共同プロジェクトは、国際的な文化遺産プロジェクトを行う重要で新しい方法を体現しています」と述べている。
「シュメール世界については今もあまりわかっていませんが、ギルスでの発掘と失われた宮殿・神殿の発見は、この重要な文明を理解し、過去を照らし、未来を知るうえで大きな可能性を秘めています」
References:British Museum heritage initiative helps discover remains of lost palace in Iraq - PA Media / 4,500-Year-Old Sumerian Palace Uncovered in Iraqi Desert | Ancient Origins / written by hiroching / edited by / parumo
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遺跡は紀元前3000年代中頃までさかのぼるもの。
古代シュメール人の手によって文明が興った、まさに人類文明の黎明期のものだと考えられている。
これを発掘した考古学者は、誰も信じない中、己の信念を貫き通して忍耐強く発掘を続け、ついに大発見をすることになった。
シュメール文明発祥の地「テルロー遺跡」 シュメール人は紀元前3500~前2000年に、世界で初めて文字を発明し、最初の法律を制定したといわれている。
科学技術や芸術など、さまざまな分野で彼らがもたらした革新は、メソポタミア周辺地域で興った文化の基礎となった。
イラク南部にある「テルロー遺跡(Telloh)」は、世界最初期の都市であり、シュメール文化の中心でもあった伝説の都市「ギルス(Girsu)」があったことろだ。
あまり知られていはいないが、ここは「文明の発祥地」として世界有数の重要な遺産である。
2015年、大英博物館・イラク考古遺産委員会・ゲッティは、イラクやシリアにある貴重な人類の遺産をイスラム国による破壊から守る共同プロジェクトを開始。
古代メソポタミア文明の専門家セバスチャン・レイ博士らによる今回の発掘もその一環として行われたものだ。
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これほど重要な遺跡でありながら、ギルス発見から1世紀以上もの間、ほとんどまともな発掘調査がされてこなかった。
ギルスがフランス人考古学者によって発見されたのは1877年のこと。
だがそれ以来、くさび形文字が刻まれた粘土板が10万点も持ち去られるなど、遺跡は荒れに荒らされ、もはや何も残されていないだろうと思われるようになっていたのだ。
くわえて20世紀にイラクで戦争が繰り返されたことも、まともな調査が行われなかったことの背景にある。
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ギルスで発見されたくさび形文字が刻まれた粘土板(紀元前2350年)。毎月大人と子供に配られた大麦の配給について記されている / image credit:public domain/wikimedia失われた宮殿と神殿を発見 こうした状況で、ギルスの発掘調査に大きく貢献したのが航空測量技術だ。
2022年、ドローンで上空からテルロー遺跡を撮影したところ、これまで知られていなかった地下遺跡の存在が明らかになった。
これをきっかけに、ギルスの中枢にあったかつての王宮の泥レンガの壁が発見されたのである。
さらに、200点以上のくさび形文字の粘土板も発見されている。
それらは19世紀の発掘調査で捨てられた瓦礫の山の下に埋もれていたもので、ギルスの行政記録であることがわかっている。
だが特筆すべきは、シュメールの最高神「エンリル」の息子である戦争の神「ニンギルス」をまつった神殿が発見されたことだ。
ここは古代メソポタミア世界で、もっとも人々が訪れたであろう神聖な建物だったと考えられている。
じつは神殿自体が発見されたのは2015年のことだが、その全容が明らかになったのは、ようやく2022年になってのことだ。
レイ博士は、このニンギルスの神殿について、ローマに囲まれた現代のバチカンに匹敵するような古代都市の中心になぞらえている。
そこで発見された石の碑文には、「グデア王がニンギルス神のために建立した」とあり、これによってその建物が神殿だったことが明らかになった。
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ギルスの王宮の再現イメージ / image credit:British Museum信念をつらぬいた末の大発見 発掘を指揮したレイ博士にとって、これは古代メソポタミア考古学上の重要な発見であるだけでなく、己の正しさの証明でもある。
というのも、2016年当時、テルロー遺跡は荒らされ尽くされていると考えられており、そこに何かがあるというレイ博士の話を誰も信じなかったのだ。
とある国際会議に出席したときは、大英博物館のお金をムダにしていると、キツい言葉ばかりもらったそうだ。
だが彼を信じたごく少数の人たちの支えもあり、忍耐強く発掘を続けたところ、ついにその努力が実を結ぶことになった。
儀式的な祝宴や宗教的な生け贄に使われた神聖な場所からは、ボウルやカップなど、300点以上の遺物が見つかった。いずれも紀元前2950~前2350年のシュメール初期王朝時代のものだと考えられている。
大英博物館の館長ハートウィグ・フィッシャー博士は、「大英博物館、イラク考古遺産委員会、ゲッティによる共同プロジェクトは、国際的な文化遺産プロジェクトを行う重要で新しい方法を体現しています」と述べている。
「シュメール世界については今もあまりわかっていませんが、ギルスでの発掘と失われた宮殿・神殿の発見は、この重要な文明を理解し、過去を照らし、未来を知るうえで大きな可能性を秘めています」
References:British Museum heritage initiative helps discover remains of lost palace in Iraq - PA Media / 4,500-Year-Old Sumerian Palace Uncovered in Iraqi Desert | Ancient Origins / written by hiroching / edited by / parumo
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