イタリア、実験室で作られた培養肉を禁止する動き。自国の食文化を守るため
 アメリカでは2社目の培養肉企業が米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けたばかりだが、イタリアでは自国の豊かな食文化と国民の健康を守るために、培養肉の禁止が検討されているという。

 先月末、イタリアのフランチェスコ・ロロブリジーダ農相は、「イタリアは合成食品の危険性から解放された最初の国家」とTwitterで発言した。

 伝統的なイタリアの生産者を、政府が守ろうとしているのだと説明した。

 こうしたイタリア政府の対応は、豊かな食文化と国民の健康を守ることが目的とされているが、より安全で持続可能な食品に関心を持つ人々からは批判の声も上がっている。

培養肉の生産や販売を違法に。違反すれば860万円の罰金 イタリア政府が検討しているのは、実験室で作られた培養肉をはじめとする合成食品の生産や流通を違法とすることだ。

 この培養肉禁止法案が可決されれば、国内で「脊椎動物に由来する細胞培養物や組織」から食品や飼料を作れなくなるという。違反者には6万ユーロ(約860万円)の罰金を科される可能性もあるとのこと。

 その目的は、世界的に有名な「イタリアの食文化と国民の健康を守ること」だと説明されている。 現時点で、培養肉が従来の食肉よりも危険とする根拠はない すでに流通している代替肉としては、大豆などの植物性タンパク質から作られる植物由来肉があるが、「培養肉」は動物の細胞から作られている点で大きく違う。

 すなわち、動物の体から細胞を取り出し、これに適切な栄養を与え、最適な環境で増殖させて作ったものだ。

 イタリア政府は今回の動きの理由の1つを国民の安全を守るためだというが、そもそも現時点で、培養肉が従来の食肉よりも危険であることを示す証拠はない。

 その一方、従来の食肉と違い、動物の命を奪わなくていいという点で、培養肉がより倫理的であることは確かだろう。

 また食肉を生産する畜産業は、エサの生産や施設運営から排出される二酸化炭素や、家畜自身が排出するメタンなど、温室効果ガスの主な発生源でもある。

 それとは対照的に、家畜を育てる必要がない培養肉は、環境への負荷が小さく、抗生物質を減らせることから、世界的に大問題となっている耐性菌の出現を抑えられるとも期待されている。

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イタリアは世界の流れから逆行していると批判の声も このような恩恵を無視して、一律に培養肉を禁止すれば、イタリア国民にかえって悪い結果になるとも考えられる。

 それゆえに、食の持続可能性や経済成長のチャンスを重視する人たちからは、今回のイタリア政府の動きを批判する声が上がっている。

 たとえばGood Food Institute Europeのアリス・レイブンズクロフト氏は、培養肉を禁止すれば、イタリア国内での研究が妨げられ、より持続可能で安全な食品の提供に取り組んでいるヨーロッパや世界から取り残されることになると声明で懸念を表明している。
このような法律が可決されれば、イタリアでのこの新しい分野の経済的可能性が失われるばかりか、科学の進歩や温暖化防止の取り組みが妨げられ、消費者の選択肢までが制限されてしまいます
 彼女によるなら、政府は消費者の自由を縛るのではなく、イタリア人が何を食べたいか自分たちで決められるようにすべきであるとのことだ。

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昆虫食も、チャットGPTも規制 ちなみにイタリア政府は、培養肉だけでなく、コオロギなどの昆虫から作られた小麦粉を、ピザやパスタに使用することにも厳しい規則を設けた。

 昆虫タンパク質を含む食品には情報表示を義務付けることを求めている。「消費者は情報に基づいて選択できる自由がある」とジョルジャ・メローニ首相はTwitterに投稿した。

 さらにイタリアでは、OpenAIが開発した対話型AIサービス「チャットGPT」へのアクセスを一時利用禁止したことが発表された。

 膨大なデータ収集が個人情報保護法に違反する可能性があるとして調査を開始し、OpenAIに対策を講じ、報告するよう求めている。

 チャットGPTの規制は欧米諸国で初めての事例となる。

References:Italy Is Looking To Outlaw Lab-Grown Meat To Protect Its Food Heritage | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo

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