
白亜紀の王者、恐竜ティラノサウルスの口元からはナイフのような巨大な歯がギラリとのぞいているイメージがあるが、実際にはそうではなかった可能性が浮上してきた。
『Science』(2023年3月30日付)に掲載された研究では、ティラノサウルス科の恐竜の歯と顎を調べたところ、その口が薄い唇でしっかり閉じられていたというのだ。
それによるとティラノサウスの口は、外から鋭いキバが見える現在のワニより、むしろ歯がうろこ状の唇におおわれたオオトカゲに似ていたのだという。
なぜ唇があったのかって?どうやら唇で歯を乾燥から守っていたというのだ。
ティラノサウルスには唇があったとする新説 最近の研究によって、白亜紀の頂点に立っていたであろう恐竜「ティラノサウルス・レックス」のイメージがどんどん変わりつつある。
考えられている以上に大きかったという説や、嚙む力と引き換えに目が極小になった説など、様々な研究結果が報告されている。
この恐竜に唇があった可能性もそういった研究の1つで、これを巡って古生物学者の間で熱い議論が交わされているところだ。唇がある理由は歯を乾燥から防ぎ守るため ティラノサウルスに歯がある理由は恐竜同士で濃厚なキスをするためではない。
じつは歯のエナメル質は水分が失われると脆くなってしまう。だから丈夫な歯を保つには、唇でおおい乾燥しないように守ってやる必要があるのだ。
実際、唇がなくいつも外からキバが見える現代のワニの歯はそれほど頑丈ではなく、すぐに折れてしまう。
一方、トカゲや両生類の口は、唇でしっかり閉じられている。顎のフチから皮膚とウロコが伸びており、歯をおおっているのだ。
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ティラノサウルスの頭蓋骨と頭部の構成 / image credit:Mark P. Witton
はたしてティラノサウルスの口は、唇のないワニと唇のあるトカゲのどちらに似ているのか?
少なくとも今回の研究の主執筆者である米オーバーン大学のトーマス・カレン氏らは、ティラノサウルスには薄い唇があったと考えている。
ただし頬の皮膚を後ろに引くような筋肉はなかったため、ニヤリとした冷たい笑顔で歯をのぞかせ相手を威嚇するようなことはできない。
かわりに、上の歯茎を見せるような、それほど怖くない笑い方ならできたかもしれないという。
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ティラノサウルスのナイフのような歯は薄い唇で隠れていたかもしれない / image credit:Mark P. Witton
カレン氏らが調べたのは、ティラノサウルス・ レックスと同じくティラノサウルス科だが、やや小型の「ダスプレトサウルス」の上顎の歯だ。
現代のワニやトカゲのように、じつは恐竜の歯は一生のうちに何度も生え変わる。ティラノサウルスの場合、2年に1度は生え変わったと考えられている。
そこでカレン氏らは、それなりに使いこまれた500日経った歯を選び、摩耗の具合を調べてみることにした。それが歯が唇でおおわれていたのかどうか推測するヒントになるかもしれない。
その結果、ダスプレトサウルスの歯は非常にキレイなことがわかったという。
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ダスプレトサウルスの予想図 / image credit:iStock
研究チームの1人、英ポーツマス・大学のマーク・ウィトン氏によれば、「エナメル質も何もかもが、いわば焼きたてのような新鮮さ」だったのだそうだ。これは歯が湿気で守られていただろうことを示している。ティラノサウルスの唇は歯を覆うことができたのか? では、ティラノサウルスの唇は、巨大な歯を実際におおうことができたのだろうか?
これを調べるために、研究チームは、ティラノサウルスとオオトカゲの歯冠(歯ぐきから見えている部分)の高さと顎の長さを比較してみた。オオトカゲの歯は頭蓋骨に比べてかなり大きいが、それでも唇におおわれている。
その結果、ティラノサウルスとオオトカゲの歯冠は同じような高さで、歯と顎の比率もほぼ同じだったという。だとすると、ティラノサウルスの歯が、オオトカゲのように唇でおおわれていたとしても不思議ではない。
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ストルチオミムスを追いかける、成長途中のティラノサウルス / image credit:Mark P. Wittonティラノサウルスの唇論争の決着にはさらなる研究が必要 ただ、ティラノサウルスに唇があったという説については、専門家の間でも意見が分かれている。
たとえば、英エディンバラ大学の古生物学者スティーブ・ブルサット氏は、第三者の立場から「ティラノサウルスの歯は、ワニよりも唇でおおわれていたとは思いますが、オオトカゲほどだったかどうかについては、まだ判断しかねています」と語っている。
現代のワニのように、ティラノサウルスに唇はなかったと考える意見もまだある。
たとえば、2017年の研究では、ティラノサウルスの頭蓋骨にある皺が、ウロコによって作らレたものであることを明らかにしている。
これは現代のワニと同じで、頭蓋骨が顎のラインからはみ出していないということだ。このことから、この研究では、ティラノサウルスの口は現代のワニに似ていたと推測している。
はたしてティラノサウルスに唇はあったのか? 議論を決着するには、さらなら研究が必要であるとのことだ。
タイムマシーンがあれば、当時にタイムスリップして直接確かめることができるのにね。
References:T. rex had thin lips and a gummy smile, controversial study suggests | Live Science / Jurassic Makeover: Revealing the True Faces of Predatory Dinosaurs Like T. rex / written by hiroching / edited by / parumo
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『Science』(2023年3月30日付)に掲載された研究では、ティラノサウルス科の恐竜の歯と顎を調べたところ、その口が薄い唇でしっかり閉じられていたというのだ。
それによるとティラノサウスの口は、外から鋭いキバが見える現在のワニより、むしろ歯がうろこ状の唇におおわれたオオトカゲに似ていたのだという。
なぜ唇があったのかって?どうやら唇で歯を乾燥から守っていたというのだ。
ティラノサウルスには唇があったとする新説 最近の研究によって、白亜紀の頂点に立っていたであろう恐竜「ティラノサウルス・レックス」のイメージがどんどん変わりつつある。
考えられている以上に大きかったという説や、嚙む力と引き換えに目が極小になった説など、様々な研究結果が報告されている。
この恐竜に唇があった可能性もそういった研究の1つで、これを巡って古生物学者の間で熱い議論が交わされているところだ。唇がある理由は歯を乾燥から防ぎ守るため ティラノサウルスに歯がある理由は恐竜同士で濃厚なキスをするためではない。
じつは歯のエナメル質は水分が失われると脆くなってしまう。だから丈夫な歯を保つには、唇でおおい乾燥しないように守ってやる必要があるのだ。
実際、唇がなくいつも外からキバが見える現代のワニの歯はそれほど頑丈ではなく、すぐに折れてしまう。
一方、トカゲや両生類の口は、唇でしっかり閉じられている。顎のフチから皮膚とウロコが伸びており、歯をおおっているのだ。
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ティラノサウルスの頭蓋骨と頭部の構成 / image credit:Mark P. Witton
はたしてティラノサウルスの口は、唇のないワニと唇のあるトカゲのどちらに似ているのか?
少なくとも今回の研究の主執筆者である米オーバーン大学のトーマス・カレン氏らは、ティラノサウルスには薄い唇があったと考えている。
ただし頬の皮膚を後ろに引くような筋肉はなかったため、ニヤリとした冷たい笑顔で歯をのぞかせ相手を威嚇するようなことはできない。
かわりに、上の歯茎を見せるような、それほど怖くない笑い方ならできたかもしれないという。
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ティラノサウルスのナイフのような歯は薄い唇で隠れていたかもしれない / image credit:Mark P. Witton
カレン氏らが調べたのは、ティラノサウルス・ レックスと同じくティラノサウルス科だが、やや小型の「ダスプレトサウルス」の上顎の歯だ。
現代のワニやトカゲのように、じつは恐竜の歯は一生のうちに何度も生え変わる。ティラノサウルスの場合、2年に1度は生え変わったと考えられている。
そこでカレン氏らは、それなりに使いこまれた500日経った歯を選び、摩耗の具合を調べてみることにした。それが歯が唇でおおわれていたのかどうか推測するヒントになるかもしれない。
その結果、ダスプレトサウルスの歯は非常にキレイなことがわかったという。
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ダスプレトサウルスの予想図 / image credit:iStock
研究チームの1人、英ポーツマス・大学のマーク・ウィトン氏によれば、「エナメル質も何もかもが、いわば焼きたてのような新鮮さ」だったのだそうだ。これは歯が湿気で守られていただろうことを示している。ティラノサウルスの唇は歯を覆うことができたのか? では、ティラノサウルスの唇は、巨大な歯を実際におおうことができたのだろうか?
これを調べるために、研究チームは、ティラノサウルスとオオトカゲの歯冠(歯ぐきから見えている部分)の高さと顎の長さを比較してみた。オオトカゲの歯は頭蓋骨に比べてかなり大きいが、それでも唇におおわれている。
その結果、ティラノサウルスとオオトカゲの歯冠は同じような高さで、歯と顎の比率もほぼ同じだったという。だとすると、ティラノサウルスの歯が、オオトカゲのように唇でおおわれていたとしても不思議ではない。
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ストルチオミムスを追いかける、成長途中のティラノサウルス / image credit:Mark P. Wittonティラノサウルスの唇論争の決着にはさらなる研究が必要 ただ、ティラノサウルスに唇があったという説については、専門家の間でも意見が分かれている。
たとえば、英エディンバラ大学の古生物学者スティーブ・ブルサット氏は、第三者の立場から「ティラノサウルスの歯は、ワニよりも唇でおおわれていたとは思いますが、オオトカゲほどだったかどうかについては、まだ判断しかねています」と語っている。
現代のワニのように、ティラノサウルスに唇はなかったと考える意見もまだある。
たとえば、2017年の研究では、ティラノサウルスの頭蓋骨にある皺が、ウロコによって作らレたものであることを明らかにしている。
これは現代のワニと同じで、頭蓋骨が顎のラインからはみ出していないということだ。このことから、この研究では、ティラノサウルスの口は現代のワニに似ていたと推測している。
はたしてティラノサウルスに唇はあったのか? 議論を決着するには、さらなら研究が必要であるとのことだ。
タイムマシーンがあれば、当時にタイムスリップして直接確かめることができるのにね。
References:T. rex had thin lips and a gummy smile, controversial study suggests | Live Science / Jurassic Makeover: Revealing the True Faces of Predatory Dinosaurs Like T. rex / written by hiroching / edited by / parumo
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