ナマコがお尻から発射する白い糸状の器官はもともとは呼吸器だった可能性
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 ナマコに白い糸が絡みついているように見えるがそうじゃない。これはナマコ自身がお尻から発射した内臓の一部、「キュビエ器官」と呼ばれるものだ。


 ナマコは危険を感じると、このネバネバした糸状のキュビエ器官を発射する。これが捕食者を撃退する効果があるのだ。

 研究によると、意外にもこの器官は「呼吸器が進化」したものだと考えられるという。

 なぜ呼吸器がお尻から発射されるのか? ここではナマコの不思議な体の仕組みを見てみよう。

クモの糸のようなネバネバしたキュビエ器官 外敵に襲われたナマコが身を守るためにお尻から放出する白い糸は「キュビエ器官」と呼ばれている。。その名称はフランスの動物学者ジョルジュ・キュヴィエにちなむものだ。

 キュビエ器官は、水中で膨らんで粘着性のある糸状の構造に変化する。このネバネバした糸が、捕食者のエラや口に絡みついて呼吸を妨げたり、動きを制限したりする。

 また、キュビエ器官には毒性や刺激性のある物質も含まれているという。

 だが、そもそもナマコはそんなユニークな防御テクニックをどうやって身につけたのだろう?

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 その謎に迫るべく、中国科学院南海海洋研究所のチームは、「ニセクロナマコ(Holothuria leucospilota)」の遺伝子を調べてみることにした。

 まずわかったのは、キュビエ器官には繊維状のタンパク質があり、そのおかげで効果的に敵を絡めとれることだ。


 このタンパク質のDNAには長い繰り返し(タンデムリピート)がある。これはクモの糸やカイコの絹のタンパク質にも見られる特徴であるという。

 クモの糸は同じ太さの鋼鉄よりも丈夫なことで知られている。それと同じような特徴がナマコの糸にもあったのである。

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捕食者であるカニにキュビエ器官を発射するナマコキュビエ器官はもともとは呼吸器だった可能性 ナマコの種類によっては、数十本から数百本も持っているというキュビエ器官だが、危険を感じるとお尻からパッと飛び出る仕組みは、「アセチルコリン」が関係していることもわかったという。

 アセチルコリンは私たちの体でも働いている「神経伝達物質」で、脳の神経細胞同士のコミュニケーションや筋肉の動きなどに関わっている。

 そしてもう1つ意外な発見もあった。お尻から出るものなのに、キュビエ器官はおそらく呼吸器系の組織から進化したものらしいのだ。

 じつはナマコの中には、お尻で呼吸する仲間がいる。私たちが口や鼻から空気を吸うように、ナマコはお尻から海水を吸い込んで、そこに含まれる酸素を呼吸器(呼吸樹)に送るのだ。

 そのためにお尻の穴がいつも開いたり閉じたりしており、魚の中にはちゃっかりお尻を隠れ家として拝借するものもいるくらいだ。キュビエ器官の驚異の再生能力 キュビエ器官を発射した後、ナマコは自分の内臓を失ったことになるが、それでも死なない。
キュビエ器官は再生することが可能なのだ。

 ナマコは一般的に再生能力が高く、切断された部分や失われた部分を元通りに再生することができる。キュビエ器官も例外ではなく、発射後には新しいキュビエ器官が成長し始める。

 再生にかかる時間は種類や条件によって異なるが、約1ヶ月から3ヶ月程度で完全に回復すると言われている。

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Sea Cucumber, Bohadschia Sp., Expelling Toxic Cuvierian Tubules
キュビエ器官の科学的な研究 キュビエ器官は、ナマコの防御術としてだけでなく、科学的な研究対象としても注目されている。

 キュビエ器官は、水中で急激に膨らむことで物理的な強度や粘着性を高めている。このような特性は、人工的に再現することが難しく、バイオミメティクス(生物模倣)やバイオインスパイアード(生物啓発)という分野で応用可能性が期待されている。

 ナマコのお尻は、研究者も魚も魅了してやまない魅惑の穴ということだ。この研究は『PNAS』(2023年2月4日付)に掲載された。

References:Sea Cucumbers Kill Predators By Firing Sticky Organs Out Their Butts | IFLScience / Sea Cucumbers Shoot a Weird, Sticky Organ From Their Butt to Fight Off Predators : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

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