
寄生虫はやっかいで狡猾なイメージがある。事実、寄生されるとゾンビ化され、自由自在に操られ、使い捨てされるといった事例がいくつも報告されている。
そんな中、寄生した対象の寿命を延ばし、さらに仲間から優遇され、働かなくてもいたれりつくせりの状態を作り上げる寄生虫がいる。
西ヨーロッパに生息する「ムネボソアリ」の仲間は、小型のサナダ虫(Anomotaenia brevis)に寄生されると、寿命が3倍以上に伸び、王侯貴族のような生活を送れるようになるという。
だがやはり、寄生虫がタダでアリに美味しい思いをさせることはなかった。そこには、サナダ虫の狡猾な戦略が隠されていたのだ。
寄生された働きアリは、寿命が延び王侯貴族クラスの扱いを受ける 今回の主役であるムネボソアリの仲間(Temnothorax nylanderi)は、枝やどんぐりなどの小さな穴の中に巣を作る習性がある西ヨーロッパのアリだ。
働きアリは、幼虫のときにキツツキのフンなどから小型のサナダ虫(Anomotaenia brevis)に寄生されることがある。
すると働きアリだというのに、なぜか仲間たちからチヤホヤされるようになる。食事を運んでもらったり、体をキレイにしてもらったりと、いたれり尽せりで、感染アリが巣から出ることはほとんどなくなる。
しかも寄生されたアリは普通のアリの3倍以上も長生きする。寄生されたことで、若さや美しさまで手に入れてしまうのだ。
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ムネボソアリの仲間(Temnothorax nylanderi) / image credit:Herman/Wikimedia Commons/CC BY SA 2.0最終宿主となるキツツキに、美味しそうにみせるための策略 うまい話には裏があるのが通例だ。 なぜサナダ虫がアリにこんな極楽生活をプレゼントするのかちょっと考えてみよう。
じつはサナダ虫が最終的に目指しているのはアリではない。キツツキなのだ。
サナダ虫としては、キツツキに感染するために、どうにか自分が仮住まいしているアリを食べてもらいたい。
だから、寄生したアリが長生きできるよう若さと美しさを与え、さらに仲間たちにもせっせと世話をさせ美味しそうに育て上げているというのだ。
そうやってサナダ虫がアリに良い思いをさせるのも、アリが無事キツツキに食べられて、念願の引越しを果たすまでのことだ。その後、アリの巣がどうなろうと知ったことではない。
さらに寄生虫はアリの巣の秩序までも乱していく。サナダ虫に感染されたアリが長生きする一方で、そのアリを世話する働きアリは、ずっと早く死んでしまうのだ。
また、働きアリが感染アリをかいがいしく世話する一方、女王アリの世話はおざなりになる。これはアリの巣全体にとって重大なトラブルになりかねない由々しき事態だ。
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アリの血液にタンパク質を放出し、寿命と愛され度を操っていた このサナダ虫は、こんな狡猾な戦略をどのようにして実行しているのか?
ヨハネス・グーテンベルク大学の昆虫学者ズザンネ・フォイツィク氏らが『bioRxiv』(2023年5月22日付)に投稿した研究では、その秘密が探られている。
それによると、どうもサナダ虫がアリの体内に住み着くと、抗酸化作用のあるタンパク質などをアリの血液に流し込んでいるらしいのだ。
研究チームは、感染したアリと感染していないアリを比べて、血液(血リンパ)の中のタンパク質の量を調べてみた。
すると感染したアリの血には、サナダ虫由来のタンパク質がかなり混ざっていることが判明したのだ。特に多かった2つのタンパク質は、抗酸化作用があるものだった。
また、寄生されたアリが仲間からチヤホヤされる秘密と思われるタンパク質もあった。
その1つが「ビテロジェニン様A」だ。これはじつはアリ自身が作り出すタンパク質で、アリの身分や生殖に関連しているものだ。
サナダ虫はなんらかの方法でビテロジェニン様Aを操作して、寄生しているアリが仲間から愛されるよう仕向けている可能性がある。
そもそもアリの身分は生まれ持った遺伝子の違いではなく、その発現の仕方によって決められているのだそう。
「制御経路をハッキングして、アリを女王のように見せかけるのは、寄生虫的にはエレガントな作戦かもしれない」と、フォイツィク氏らは論文で説明している。
ただし本当に寄生虫がアリを操作しているのかどうか証明するのは、不可能ではないにしても、かなり難しいという。
研究チームは、この寄生虫のタンパク質がアリにどのように影響するのか解明するべく、今後も研究を続けるとのことだ。
References:There's a Parasite That Triples Ants' Lifespans... And It Actually Sounds Pretty Great : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。
そんな中、寄生した対象の寿命を延ばし、さらに仲間から優遇され、働かなくてもいたれりつくせりの状態を作り上げる寄生虫がいる。
西ヨーロッパに生息する「ムネボソアリ」の仲間は、小型のサナダ虫(Anomotaenia brevis)に寄生されると、寿命が3倍以上に伸び、王侯貴族のような生活を送れるようになるという。
だがやはり、寄生虫がタダでアリに美味しい思いをさせることはなかった。そこには、サナダ虫の狡猾な戦略が隠されていたのだ。
寄生された働きアリは、寿命が延び王侯貴族クラスの扱いを受ける 今回の主役であるムネボソアリの仲間(Temnothorax nylanderi)は、枝やどんぐりなどの小さな穴の中に巣を作る習性がある西ヨーロッパのアリだ。
働きアリは、幼虫のときにキツツキのフンなどから小型のサナダ虫(Anomotaenia brevis)に寄生されることがある。
すると働きアリだというのに、なぜか仲間たちからチヤホヤされるようになる。食事を運んでもらったり、体をキレイにしてもらったりと、いたれり尽せりで、感染アリが巣から出ることはほとんどなくなる。
しかも寄生されたアリは普通のアリの3倍以上も長生きする。寄生されたことで、若さや美しさまで手に入れてしまうのだ。
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ムネボソアリの仲間(Temnothorax nylanderi) / image credit:Herman/Wikimedia Commons/CC BY SA 2.0最終宿主となるキツツキに、美味しそうにみせるための策略 うまい話には裏があるのが通例だ。 なぜサナダ虫がアリにこんな極楽生活をプレゼントするのかちょっと考えてみよう。
じつはサナダ虫が最終的に目指しているのはアリではない。キツツキなのだ。
サナダ虫としては、キツツキに感染するために、どうにか自分が仮住まいしているアリを食べてもらいたい。
だから、寄生したアリが長生きできるよう若さと美しさを与え、さらに仲間たちにもせっせと世話をさせ美味しそうに育て上げているというのだ。
そうやってサナダ虫がアリに良い思いをさせるのも、アリが無事キツツキに食べられて、念願の引越しを果たすまでのことだ。その後、アリの巣がどうなろうと知ったことではない。
さらに寄生虫はアリの巣の秩序までも乱していく。サナダ虫に感染されたアリが長生きする一方で、そのアリを世話する働きアリは、ずっと早く死んでしまうのだ。
また、働きアリが感染アリをかいがいしく世話する一方、女王アリの世話はおざなりになる。これはアリの巣全体にとって重大なトラブルになりかねない由々しき事態だ。
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アリの血液にタンパク質を放出し、寿命と愛され度を操っていた このサナダ虫は、こんな狡猾な戦略をどのようにして実行しているのか?
ヨハネス・グーテンベルク大学の昆虫学者ズザンネ・フォイツィク氏らが『bioRxiv』(2023年5月22日付)に投稿した研究では、その秘密が探られている。
それによると、どうもサナダ虫がアリの体内に住み着くと、抗酸化作用のあるタンパク質などをアリの血液に流し込んでいるらしいのだ。
研究チームは、感染したアリと感染していないアリを比べて、血液(血リンパ)の中のタンパク質の量を調べてみた。
すると感染したアリの血には、サナダ虫由来のタンパク質がかなり混ざっていることが判明したのだ。特に多かった2つのタンパク質は、抗酸化作用があるものだった。
また、寄生されたアリが仲間からチヤホヤされる秘密と思われるタンパク質もあった。
その1つが「ビテロジェニン様A」だ。これはじつはアリ自身が作り出すタンパク質で、アリの身分や生殖に関連しているものだ。
サナダ虫はなんらかの方法でビテロジェニン様Aを操作して、寄生しているアリが仲間から愛されるよう仕向けている可能性がある。
そもそもアリの身分は生まれ持った遺伝子の違いではなく、その発現の仕方によって決められているのだそう。
「制御経路をハッキングして、アリを女王のように見せかけるのは、寄生虫的にはエレガントな作戦かもしれない」と、フォイツィク氏らは論文で説明している。
ただし本当に寄生虫がアリを操作しているのかどうか証明するのは、不可能ではないにしても、かなり難しいという。
研究チームは、この寄生虫のタンパク質がアリにどのように影響するのか解明するべく、今後も研究を続けるとのことだ。
References:There's a Parasite That Triples Ants' Lifespans... And It Actually Sounds Pretty Great : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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