
地球の北半球の気候を調整する重要な海の循環が停止し、気候の混乱を引き起こす可能性が高まっていると科学者が警笛を鳴らしている。
問題の海洋循環は、大西洋を南北に流れる「大西洋南北熱塩循環(AMOC/Atlantic Meridional Overturning Circulation)」だ。
『Nature Communications』(2023年7月25日付)に掲載されたデンマークの研究では、この循環は気候変動(地球温暖化)の影響でだんだんと減速しており、早ければ2025年、遅くとも2095年のどこかの時点で完全停止してしまうと予測されている。
そうなれば気温の急激な低下、海洋生態系の激変、世界中で暴風雨が多発するなど、地球が大混乱に陥る恐れがあるそうだ。
海の巨大なベルトコンベアー「熱塩循環」 海が世界規模で大きく循環しているのは、水温と塩分による密度差のせいだ。
南から北へ流れた温かい海水は、冷えることで密度が高くなる。また冷たい海で氷ができるときに塩分が流れ出るために、海水の塩分も濃くなる。
こうして重たくなった海水は海底へ沈み込み、今度は南へと流れていく。ここで温められて軽くなった海水は、再び浮上して北へと流れていく。
こうした「熱塩循環」の一つが、大西洋を北へ流れ、グリーンランドや南極の海で沈み込んで南へ戻る「大西洋南北熱塩循環(AMOC/Atlantic Meridional Overturning Circulation)」だ。
AMOCはグリーンランドや南極で沈み込むときに熱を大気に放出するため、地球の気候にも大きな影響を与えていると考えられている。
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海は巨大なベルトコンベアーのように熱を運び、地球の気温に大きな影響を与えている。温かい表面の海水(赤)はグリーンランドや北極の海で冷えて沈み、海底を南へと流れていく(青) / image credit:NASA/Goddard Space Flight Center Scientific Visualization Studio今世紀中、早ければ2年後に大西洋の熱塩循環が停止する危険性 現在、気候変動(地球温暖化)の影響でこうした海の循環にブレーキがかけられている。
その理由は二つある。一つは、地球が暖かくなったことで、海水の温度が上がったこと。もう一つは、解けた氷床の水が海に流れ込み、海水の塩分が薄くなったことだ。そのせいで海水が軽くなり、海底へ沈みにくくなる。
今回、デンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームは、今後こうした海の循環がどうなるのか統計モデルを利用して予測している。
残念ながら、AMOCの流れの直接的なデータは2004年以降のものしかない。
そこで研究チームは、より長い時間スパンにおける循環の状況を知るために、1870~2020年に記録された「北大西洋亜寒帯循環」(北大西洋を流れる海洋循環)の温度に注目した。
研究チームによれば、この温度はAMOCの強さの”指紋”のようなもので、ここからAMOCの今後を予測できるのだという。
その分析の結果、AMOCの強さと回復力が徐々に弱くなっていることが判明した。循環は早ければ2025年にも停止する恐れがあり、その可能性は今後ますます高くなるという。
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photo by iStock
地球の気候に大波乱を引き起こす恐れ これまでのAMOCの歴史を見てみると、「強く速い流れ」と「弱く遅い流れ」の二つが切り替わりながら安定してきたようだ。
前回、弱い流れから現在の強い流れに切り替わったのは、直近の氷河期のことだ。
もしも今AMOCが止まってしまったとしたら、今度は同じくらいの期間で、ヨーロッパと北米の気温が5度下がる可能性がある。
そうなれば世界的な気温の急激な低下だけでなく、海洋生態系が激変し、世界中で暴風雨が多発するなど、地球が大きな混乱に陥るだろうと予測される。
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ただし、この研究結果に懐疑的な声も 今回の結果は、非常に憂慮すべきものであるが、不確かな部分もあるようで、すべての専門家が納得しているわけではない。
例えば、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの海洋・気候科学者デビッド・ソーナルリー教授は、Live Science誌に対して、「統計モデルが確かで、AMOCの説明として適切ならば、懸念すべき結果だが、わからないことや仮定の部分が大きく、確信するには今後の検証が必要」と述べた。
またマックス・プランク気象研究所のヨッヘン・マロツケ教授は、海水の温度変化と海洋循環の強さを結びつけることが適切なのかどうか、「まったく不明」と指摘する。
マロツケ教授によるなら、解析の練習としては意味があるかもしれないが、海洋循環の今後を予測するという本来の目的を達しているとは考えにくいそうだ。
実際に近い将来、地球の気候に大波乱が起きるのか、起きないのか?今を生きる若者たちは、その生き証人になれるはずだ。
References:Gulf Stream current could collapse in 2025, plunging Earth into climate chaos: 'We were actually bewildered' | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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問題の海洋循環は、大西洋を南北に流れる「大西洋南北熱塩循環(AMOC/Atlantic Meridional Overturning Circulation)」だ。
この循環は暖かい海水を南から北に運び、冷たい海水を北から南に運ぶことで、地球の気候に大きな影響を与えている。
『Nature Communications』(2023年7月25日付)に掲載されたデンマークの研究では、この循環は気候変動(地球温暖化)の影響でだんだんと減速しており、早ければ2025年、遅くとも2095年のどこかの時点で完全停止してしまうと予測されている。
そうなれば気温の急激な低下、海洋生態系の激変、世界中で暴風雨が多発するなど、地球が大混乱に陥る恐れがあるそうだ。
海の巨大なベルトコンベアー「熱塩循環」 海が世界規模で大きく循環しているのは、水温と塩分による密度差のせいだ。
南から北へ流れた温かい海水は、冷えることで密度が高くなる。また冷たい海で氷ができるときに塩分が流れ出るために、海水の塩分も濃くなる。
こうして重たくなった海水は海底へ沈み込み、今度は南へと流れていく。ここで温められて軽くなった海水は、再び浮上して北へと流れていく。
こうした「熱塩循環」の一つが、大西洋を北へ流れ、グリーンランドや南極の海で沈み込んで南へ戻る「大西洋南北熱塩循環(AMOC/Atlantic Meridional Overturning Circulation)」だ。
AMOCはグリーンランドや南極で沈み込むときに熱を大気に放出するため、地球の気候にも大きな影響を与えていると考えられている。
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海は巨大なベルトコンベアーのように熱を運び、地球の気温に大きな影響を与えている。温かい表面の海水(赤)はグリーンランドや北極の海で冷えて沈み、海底を南へと流れていく(青) / image credit:NASA/Goddard Space Flight Center Scientific Visualization Studio今世紀中、早ければ2年後に大西洋の熱塩循環が停止する危険性 現在、気候変動(地球温暖化)の影響でこうした海の循環にブレーキがかけられている。
その理由は二つある。一つは、地球が暖かくなったことで、海水の温度が上がったこと。もう一つは、解けた氷床の水が海に流れ込み、海水の塩分が薄くなったことだ。そのせいで海水が軽くなり、海底へ沈みにくくなる。
今回、デンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームは、今後こうした海の循環がどうなるのか統計モデルを利用して予測している。
残念ながら、AMOCの流れの直接的なデータは2004年以降のものしかない。
そこで研究チームは、より長い時間スパンにおける循環の状況を知るために、1870~2020年に記録された「北大西洋亜寒帯循環」(北大西洋を流れる海洋循環)の温度に注目した。
研究チームによれば、この温度はAMOCの強さの”指紋”のようなもので、ここからAMOCの今後を予測できるのだという。
その分析の結果、AMOCの強さと回復力が徐々に弱くなっていることが判明した。循環は早ければ2025年にも停止する恐れがあり、その可能性は今後ますます高くなるという。
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地球の気候に大波乱を引き起こす恐れ これまでのAMOCの歴史を見てみると、「強く速い流れ」と「弱く遅い流れ」の二つが切り替わりながら安定してきたようだ。
前回、弱い流れから現在の強い流れに切り替わったのは、直近の氷河期のことだ。
このとき、グリーンランド付近の気候はわずか10年で10~15度上昇したと考えられている。
もしも今AMOCが止まってしまったとしたら、今度は同じくらいの期間で、ヨーロッパと北米の気温が5度下がる可能性がある。
そうなれば世界的な気温の急激な低下だけでなく、海洋生態系が激変し、世界中で暴風雨が多発するなど、地球が大きな混乱に陥るだろうと予測される。
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ただし、この研究結果に懐疑的な声も 今回の結果は、非常に憂慮すべきものであるが、不確かな部分もあるようで、すべての専門家が納得しているわけではない。
例えば、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの海洋・気候科学者デビッド・ソーナルリー教授は、Live Science誌に対して、「統計モデルが確かで、AMOCの説明として適切ならば、懸念すべき結果だが、わからないことや仮定の部分が大きく、確信するには今後の検証が必要」と述べた。
またマックス・プランク気象研究所のヨッヘン・マロツケ教授は、海水の温度変化と海洋循環の強さを結びつけることが適切なのかどうか、「まったく不明」と指摘する。
マロツケ教授によるなら、解析の練習としては意味があるかもしれないが、海洋循環の今後を予測するという本来の目的を達しているとは考えにくいそうだ。
実際に近い将来、地球の気候に大波乱が起きるのか、起きないのか?今を生きる若者たちは、その生き証人になれるはずだ。
References:Gulf Stream current could collapse in 2025, plunging Earth into climate chaos: 'We were actually bewildered' | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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