古代エジプト人は飼い猫が死ぬと家族全員が眉毛を剃り弔意を表していた
 古代世界の文化を探求するギリシャの歴史家ヘロドトスの魅惑的な『歴史』を読んでいると、珍しい追悼儀式に出くわすかもしれない。

 彼は、古代エジプト人の動物崇拝に関する記述の中で、おもしろい習慣を紹介している。


 家で飼っている猫が死ぬと、その家族全員が眉毛を反り落とし、悲しみと敬意を目に見える形で表したというのだ。

古代エジプトで猫は神聖な動物だったこれは単に、古代エジプト人がペットが好きだったということを示しているだけではない。

 彼らの世界観の中では、動物は神聖なものであり、日常生活や宗教的な崇拝において重要な役割を果たしていた。多くは、共通の特徴をもつ特定の神と関連づけられていた。

 猫は特に人気があった。英語の"cat"という単語は、北アフリカの言語"quattah"に由来する。

 猫が、家族を守ってくれる、神聖な性質を持つ生き物だと認識されていた証拠に、彫像から墓に至るまでさまざまな物にその姿が描かれてきた。

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 王族が飼っていた猫は、豪華な黄金の宝飾品で飾られていたという話もある。猫の行動を観察し神を創造 古代エジプト人は猫の行動をよく観察していた。

 猫の精密性、攻撃性、養育性をじっくり観察し、そのイメージに合わせて神を創造した。こうした関係は、現代のインドのウシと人との関係に似ていると言われる。

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猫の精霊に食べ物とミルクを供える巫女。
「エジプト猫の埋葬」(ジョン・ライ
ンハルト・ウェグリン作) / image credit:public domain Exhibited at the Auckland Art Gallery.

 猫は最初、害獣や毒ヘビに対する効果的な対策法として、家畜化されたとされている。猫が飼いならされるにつれ、猫の頭をもつ古代エジプトの女神「バステト」の人気が高まった。

 バステトは、豊穣と守護の神で、幸運を引き寄せ、悪霊を追い払ってくれるという。

 猫をペットとして飼うことも同じような感覚からだった。やがてバステトは、やはり猫頭の女神ブバスティスを中心とする、いわゆる猫崇拝信仰に火をつけた。猫を神格化するあまり、いつのまにか神の生贄に 古代エジプト人の猫愛は留まるところを知らず、猫が死ぬとミイラにして、手の込んだ儀式を行って丁寧に埋葬した。

 死後の世界でも一緒に生きるため、猫は人間と共に葬られることも多く、皮肉なことに、神への生贄に適しているとも考えられるようになった。

 こうした習慣は、猫経済の繁栄に拍車をかけ、奉納用の猫ミイラを数多く作るために、人為的に繁殖させられたという。

 こうして作られた大量の猫のミイラはその後どうなったのか?

 1890年代、イギリス人がエジプトに行き、これらのミイラを大量に集め本国へ輸送した。

 英リバプール国立博物館によると、18万体以上の猫のミイラがリバプールに輸送され、イギリス人は後にそれらを肥料に使用したと報告している

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それでも古代エジプト人は眉を剃るほどには猫に敬意を表していた このような文化的な背景があるものの、神の恩恵を得るために、猫の福祉を保証することは極めて重要だという考えもあった。

 「家が火事になった場合、猫の身に起こることは、なんとも異様だ」と古代ギリシアの歴史家、ヘロドトスは書いている。
「エジプト人は、あえて火を消そうとせず、家の周囲で間隔をあけて待機して、猫の動きに気を配る」のだそうだ。

 一般的に広く行われていた文化規範を考えると、大切にしていた飼い猫が死んだら、眉毛を剃るという行為は、バステトにこれからも守ってもらうために必要な敬意の表現として適切なことだったのだ。

References:Ancient Egyptians Shaved Off Their Eyebrows When Their Cats Died / written by konohazuku / edited by / parumo

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