ダーウィンのジレンマ。進化論の父が悩んだ難問を解いた10代の少年少女の物語
 科学にとって一番大切なのは、好奇心と既成概念にとらわれない発想、そしてほんの少しの幸運なのかもしれない。

 進化論の父、チャールズ・ダーウィンは、「なぜ生物の多様性が急激に増えた時期(カンブリア爆発)の化石記録に、その前の進化の段階を示す化石がほとんど見られないのか?」という疑問を持っていた。


 つまり、急に多くの生物が出現した時期があるのに、それより前の段階の生物の証拠が少ないことが不思議だったのだ。

 今では複雑な生命はカンブリア紀以前から存在していたことがわかっている。だがダーウィンの時代にカンブリア紀以前の生命は知られておらず、この疑問は彼を大いに悩ませた。

 意外にも、その謎の解明のきっかけとなったのは、10代の少年と少女による発見だった。

6億年前の岩でシダのような化石を発見した少女 1956年の夏、ティナ・ニーガスという名の10代の少女が、家族と一緒にイギリスのチャーンウッド・フォレストで過ごしていたときのこと。彼女は岩壁に残された不思議な模様に目をとめた。

 それはシダの化石のように思われた。だが、ニーガスは地質学者を目指していたので、6億年前の岩にシダの化石が残されているなどあり得ないことを知っていた。

 それまでの常識では、複雑な植物が登場するのはカンブリア爆発以降のことで、少なくともあと6000万年はかかるはずだった。ダーウィンのジレンマ、進化論の弱点に迫る少女 5億4200万年前から4億8830万年前のカンブリア紀、多種多様な生物が爆発的に誕生し、今存在する生物の門(ボディプラン)がすべて揃ったとされている。

 この現象は「カンブリア爆発」と呼ばれるが、ダーウィンの進化論が直面した最大のジレンマでもあった。

 これほど多様な生命はどこから、そしてなぜ突然生まれたのか? これはかのチャールズ・ダーウィンも満足のいく答えが出せなかった難問だ。


 ニーガスは鉛筆でこすって写したものを学校に持っていき、地理の教師に見せてみた。もちろん、この教師はシダだと思っていなかった。

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少女の発見した先カンブリア時代の生物の化石。のちにこの生物はチャルニアと名付けられる / image credit:WWW.EDIACARAN.ORG少女の発見から1年後、10代の少年たちがこの化石を発見 それから1年後の1957年、今度は3人の10代の少年たちが、その岩壁の模様に気がついた。そのうちの1人、15歳のロジャー・メイソンもまた鉛筆でこすって写し、それを家に持ち帰ると、父親はそれを地元の大学の研究者に見せてみることにした。

 そしてやってきたのが、レスター大学の地質学者トレバー・フォードだ。彼はそのシダらしきものを自分の目で見て、確かにカンブリア爆発以前の化石だろうと確信した。

 そして、メイソンの名前をとって、その化石を「チャルニア・マソニ(Charnia masoni)」と命名したのである。

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この化石の生物は、発見したメイソンの名前を取って、チャルニア・マソニ(Charnia masoni)と命名される / image credit:Verisimilus at English Wikipedia / CC BY SA 2.5彼らが発見したものは、世界初の先カンブリア時代の化石だった シダのようなチャルニアだが、その正体は植物や藻などではない。

 先カンブリア時代の生き物たちの姿を今に伝えるエディアカラ生物群の一種で、深海の底で水中の栄養素を食べて生きていたと考えられている。

 このチャルニアは世界で初めて発見された先カンブリア時代の化石で、カンブリア爆発以前にすでに複雑な生命が存在したことを示す証拠である。

 ダーウィンの時代の学者は、なぜカンブリア紀になって突然多種多様な生物が誕生したのか大いに悩んだが、じつは複雑な生物はもっと前からすでに存在したのだ。


 フォードの発表から数ヵ月後、今度はオーストラリアの研究者によって先カンブリア時代のチャルニアが発見され、その後ロシアカナダでも発見が続いた。

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チャルニアは深海の底で生きていたと考えられている / image credit:Fossiladder13/Wikimedia Common/CC BY SA 4.0実は数人の博物学者がこの化石の存在に気が付いていた チャルニアの発見は古生物学者の間で大きなニュースになった一方、それを最初に見つけたニーガスがそれを知るのは1961年になってからのことだ。

 幸いにも、今ではニーガスも共同発見者としてその名を連ねている。

 2004年、ロジャー・メイソンのインタビューを目にした彼女が彼に連絡をとってみたところ、すぐに返事をもらうことできた。さらに2007年には、化石の発見50周年の祝賀会に招待され、共同発見者として紹介された。

 だが、じつはこの化石に気づいたのはニーガスが最初ではなかった。

 1848年、数人の博物学者がすでにチャーンウッド・フォレストで例の化石を発見し、先カンブリア時代の生き物ではないかと疑っていた。

 皮肉なことに、ダーウィンを悩ませた疑問の答えは、1859年にダーウィンがその戸惑いを口にする前にもう見つかっていたのだ。

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カンブリア爆発の謎も子供たちが解き明かすかも 現在では、カンブリア爆発の前から複雑な生物が存在していたことがわかっている。この発見を受けて、多くの科学者が古い化石を新しい視点で見ることができるようになったのだ。

 だが、カンブリア紀になって突然爆発的に生物が多様化した理由はまだよくわかっていない(一説によると、海の酸素の急増と関係があるらしい)

 もしかしたら、その謎を解明するのも、常識や先入観にとらわれていな子供たちかもしれない。

References:How 2 Teens Accidentally Solved Charles Darwin's Most Vexing Problem : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

追記(2023/08/27)表示個所のおかしいところを訂正して再送します。


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