
鮮やかな青と緑のグラデーションの羽色と真っ赤なクチバシが特徴的な、飛べない鳥「タカヘ」は、ニュージーランドの固有種だ。
先史時代から存在する希少な鳥だが、自然下では絶滅に追い込まれた。
だが、熱心に繁殖を試みた人々の地道な努力が実り、8月23日、ニュージーランド南島の高山地帯にあるワイマオリ渓谷に18羽が放された。
この土地の所有者であり、その返還をめぐって長年戦い続けてきた、ニュージーランドの先住民、マオリの一部族であるナイタフ(Ngāi Tahu)の人々にとって、とても大切な日になったという。
祖先が共に暮らしてきた鳥が、自分たちの土地についに戻ってきた瞬間だったからだ。
先史時代から存在するニュージーランドの固有種「タカヘ」 全長50~60cm、体重2~3kgほどで、ニワトリくらいの大きさの「タカヘ」(ツル目クイナ科)は、ニュージーランドの固有種だ。
かつてタカヘの周囲には哺乳類がいなかった。そのため普通なら哺乳類が占めただろう生態系の地位に居座ることができた。だから羽が退化して、飛ぶことができない。
古くからいた鳥で、ニュージーランドで見つかっている化石は、少なくとも更新世にまでさかのぼる。
しかもその姿は当時からほとんど変わっていない。体を正面から見ると、まん丸な球形だ。羽毛が青緑色であることもあって、2本の長く赤い脚の上に地球儀が乗っているような雰囲気だ。
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photo by iStock
絶滅宣言されたが生き残りを発見し、復活へ向けた取り組み ニュージーランドにとって、野生のタカヘの帰還は、回復へ向けた地道な努力が、着実に実を結んでいることを意味する。
タカヘはかつて絶滅が宣言された鳥でもある。
もともと個体数が減っていたが、ヨーロッパからの入植者がオコジョ、ネコ、フェレット、ネズミなどの動物を持ち込んだことで、壊滅的な打撃を受け、1898年に正式に絶滅が宣言された。
ところが1948年に生き残りが発見された。それから彼らを復活させる取り組みが始まった。現在では500羽まで回復し、毎年8%ずつ増えている。
保護活動がはじまった当初、卵が肉食動物に食べられるのを防ぐため、まずは卵を集めて人工孵化が行われていた。
ヒナが孵化すると、飼育係が親鳥に似せた赤いクチバシ付きの靴下を手にかぶせてエサを与えた。
さらに飼育下での繁殖がはじまると、ニュージーランド自然保護局の支援の下、いくつかの保護区や国立公園に少しづつ放された。
このとき、ネコ科やフェレットといった、タカヘを狙う動物を排除することがとても重要なことだったという。
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タカヘ、再びニュージーランドの自然に戻る マオリ族の一部族であるナイタフの長老オレガン氏は、「この大きな鳥が、1世紀ぶりにこの地に颯爽と戻っていく姿ほど美しいものはないよ」と語る。
今回放されたタカヘたちが元気に生きてくれれば、10月にさらに7羽、来年早々には最大10羽のタカヘが自然にかえされる。
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Takahē bird continues its journey of recovery with release into New Zealand tribal lands
だが油断は禁物だ。
ニュージーランド自然保護局のデイドラ・ヴァーコー氏は、「新たな野生在来種が定着するには時間がかかり、成功が保証されているわけでもありません」と説明する。
タカヘの保護活動は、絶滅の危機にあるニュージーランド固有の鳥たちを守るための、より広範な取り組みの一環だ。
ニュージーランドでは、2050年までにネズミ、オポッサム、オコジョといったとりわけ被害の多い外来の肉食動物を一掃しようと国を挙げて取り組んでいる。
こうした取り組みのかたわらで、今回のタカヘのように珍しい鳥たちが保護区の外にかえされつつある。昨年は、国鳥であるキーウィが、何世代かぶりに都市近郊の野生地に放された。
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先住民ナイタフの土地で、再びタカヘの鳴き声が響く日を夢見て 先住民、ナイタフの土地に放されたタカヘは、国内で3番目のタカヘを自然に戻す試みであり、政府とナイタフとの緊密な協力の下で行われている。
ナイタフの人々にとって、自分たちの土地にタカヘが戻ってくるのは非常に感慨深いことであるという。
かつて彼らの土地は入植者たちに奪われ、その返還を求めて長い法廷闘争を繰り広げねばならなかった。そんな部族の土地に、祖先たちが一緒に暮らしていた鳥が帰ってきたのだ。
「とても感慨深いものがあります。個人的に、私たちの土地に戻ってきたタカへは、部族の権利と土地を取り戻すために戦った7世代のことを思い出させます」と、ナイタフのトゥマイ・キャシディ氏は話す。
タカヘはナイタフの人々にとって大切な鳥で、かつてはその羽毛を集めてマントに織り込んでいたのだそうだ。
野生のタカヘが減少したのは、部族の土地が没収されたり、売られたりした時期と重なるという。この時期、地元のマオリ族はそうした山々を「Kā Whenua Roimata」と名づけた。「涙の土地」という意味だ。
だがそうした悲しい物語も、今や過去のものになろうとしている。オレガン長老は今、「観光客が谷底から聞こえてくるタカヘの鳴き声を楽しんでくれたら」と願っている。
追記:(2023/09/05)本文を一部訂正して再送します。
References:Prehistoric bird once thought extinct returns to New Zealand wild | Birds | The Guardian / New Zealand birds: Takahe facing extinction find new home in sanctuary - BBC News / written by hiroching / edited by / parumo
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先史時代から存在する希少な鳥だが、自然下では絶滅に追い込まれた。
だが、熱心に繁殖を試みた人々の地道な努力が実り、8月23日、ニュージーランド南島の高山地帯にあるワイマオリ渓谷に18羽が放された。
この土地の所有者であり、その返還をめぐって長年戦い続けてきた、ニュージーランドの先住民、マオリの一部族であるナイタフ(Ngāi Tahu)の人々にとって、とても大切な日になったという。
祖先が共に暮らしてきた鳥が、自分たちの土地についに戻ってきた瞬間だったからだ。
先史時代から存在するニュージーランドの固有種「タカヘ」 全長50~60cm、体重2~3kgほどで、ニワトリくらいの大きさの「タカヘ」(ツル目クイナ科)は、ニュージーランドの固有種だ。
かつてタカヘの周囲には哺乳類がいなかった。そのため普通なら哺乳類が占めただろう生態系の地位に居座ることができた。だから羽が退化して、飛ぶことができない。
古くからいた鳥で、ニュージーランドで見つかっている化石は、少なくとも更新世にまでさかのぼる。
しかもその姿は当時からほとんど変わっていない。体を正面から見ると、まん丸な球形だ。羽毛が青緑色であることもあって、2本の長く赤い脚の上に地球儀が乗っているような雰囲気だ。
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絶滅宣言されたが生き残りを発見し、復活へ向けた取り組み ニュージーランドにとって、野生のタカヘの帰還は、回復へ向けた地道な努力が、着実に実を結んでいることを意味する。
タカヘはかつて絶滅が宣言された鳥でもある。
もともと個体数が減っていたが、ヨーロッパからの入植者がオコジョ、ネコ、フェレット、ネズミなどの動物を持ち込んだことで、壊滅的な打撃を受け、1898年に正式に絶滅が宣言された。
ところが1948年に生き残りが発見された。それから彼らを復活させる取り組みが始まった。現在では500羽まで回復し、毎年8%ずつ増えている。
保護活動がはじまった当初、卵が肉食動物に食べられるのを防ぐため、まずは卵を集めて人工孵化が行われていた。
ヒナが孵化すると、飼育係が親鳥に似せた赤いクチバシ付きの靴下を手にかぶせてエサを与えた。
さらに飼育下での繁殖がはじまると、ニュージーランド自然保護局の支援の下、いくつかの保護区や国立公園に少しづつ放された。
このとき、ネコ科やフェレットといった、タカヘを狙う動物を排除することがとても重要なことだったという。
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タカヘ、再びニュージーランドの自然に戻る マオリ族の一部族であるナイタフの長老オレガン氏は、「この大きな鳥が、1世紀ぶりにこの地に颯爽と戻っていく姿ほど美しいものはないよ」と語る。
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Takahē bird continues its journey of recovery with release into New Zealand tribal lands
だが油断は禁物だ。
着実に進んでいるようだが、今後も慎重な努力を怠るわけにはいかないという。
ニュージーランド自然保護局のデイドラ・ヴァーコー氏は、「新たな野生在来種が定着するには時間がかかり、成功が保証されているわけでもありません」と説明する。
タカヘの保護活動は、絶滅の危機にあるニュージーランド固有の鳥たちを守るための、より広範な取り組みの一環だ。
ニュージーランドでは、2050年までにネズミ、オポッサム、オコジョといったとりわけ被害の多い外来の肉食動物を一掃しようと国を挙げて取り組んでいる。
こうした取り組みのかたわらで、今回のタカヘのように珍しい鳥たちが保護区の外にかえされつつある。昨年は、国鳥であるキーウィが、何世代かぶりに都市近郊の野生地に放された。
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先住民ナイタフの土地で、再びタカヘの鳴き声が響く日を夢見て 先住民、ナイタフの土地に放されたタカヘは、国内で3番目のタカヘを自然に戻す試みであり、政府とナイタフとの緊密な協力の下で行われている。
ナイタフの人々にとって、自分たちの土地にタカヘが戻ってくるのは非常に感慨深いことであるという。
かつて彼らの土地は入植者たちに奪われ、その返還を求めて長い法廷闘争を繰り広げねばならなかった。そんな部族の土地に、祖先たちが一緒に暮らしていた鳥が帰ってきたのだ。
「とても感慨深いものがあります。個人的に、私たちの土地に戻ってきたタカへは、部族の権利と土地を取り戻すために戦った7世代のことを思い出させます」と、ナイタフのトゥマイ・キャシディ氏は話す。
タカヘはナイタフの人々にとって大切な鳥で、かつてはその羽毛を集めてマントに織り込んでいたのだそうだ。
野生のタカヘが減少したのは、部族の土地が没収されたり、売られたりした時期と重なるという。この時期、地元のマオリ族はそうした山々を「Kā Whenua Roimata」と名づけた。「涙の土地」という意味だ。
だがそうした悲しい物語も、今や過去のものになろうとしている。オレガン長老は今、「観光客が谷底から聞こえてくるタカヘの鳴き声を楽しんでくれたら」と願っている。
追記:(2023/09/05)本文を一部訂正して再送します。
References:Prehistoric bird once thought extinct returns to New Zealand wild | Birds | The Guardian / New Zealand birds: Takahe facing extinction find new home in sanctuary - BBC News / written by hiroching / edited by / parumo
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