
なんと蒸発するのだ。なんとなくそんな気はしていたという人もいるだろうが、これは科学者ですら知らなかった新真実である。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームによると、水は光だけでも蒸発し、しかもその効率は熱よりもずっと高いのだという。
なぜ水は光だけで蒸発するのか?その詳しい仕組みはまだわかっていない。だが研究チームの仮説によると、光子が水の分子を断ち切ることで起きているようだ。
水の蒸発とは? 水の蒸発とは、その表面にある水分子が十分なエネルギーを吸収し、気体(水蒸気)となって空気中に逃げることだ。
このときのエネルギーとして一番よく知られているのは熱だ。冒頭のお鍋の水はガスやIHの熱によるものだし、地球で循環する水なら主に太陽光からの熱によるものだ。
ところが、ゼリーのようなハイドロゲルを扱う研究者たちは、そうした理屈とは矛盾する現象に気づいていた。ハイドロゲルから水分が蒸発する速さが、熱量から算出される値の3倍にもなるのだ。
ハイドロゲルとは、ハイドロ(水)を含むゲル状の物質の総称だ。 ゲルとは「あらゆる液体に不溶な三次元構造をもつ高分子物質およびその膨潤体」で、 コンニャク, 寒天, ゼリーのようなものである。
なぜこのような矛盾が生じるのか調査に乗り出したのが、今回のマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームだ。
そしていくつか基本的な実験を行った末に、その原因は光そのものではないかという仮説にたどり着いた。
だがこれは意外なことだ。何が意外なのかは汚れていないきれいな水を見てみればわかる。
きっと透き通っているはずだ。それはつまり水が光を吸収しないということだ。それなのに光で水が蒸発するとは不可解なことだ。
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水は熱よりも光に当てた方が素早く蒸発 この仮説を検証するため、研究チームはケースに入れたハイドロゲルをはかりに乗せ、さまざまな波長の光を当ててみた。
ケースや実験装置は注意深く管理され、余計な熱が入ってこないようにされていた。
もしも熱のエネルギーによる蒸発よりも速くハイドロゲルの重さが変わるのならば、それは光による影響も受けているということになる。
すると案の定、水は熱だけによるものよりずっと速く蒸発した。
蒸発の速さは光の波長によって違っており、1番蒸発したのは緑色の波長だ。
こうした波長による蒸発スピードの違いもまた、それが本当に熱ではなく光によって起きているということの裏付けとなる。
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緑の光でハイドロゲルから蒸発する水 / image credit:MIT
次の実験では、光がまったく入ってこない暗闇の中で、同じような実験を行ってみた。だがこのときは光が使えないので、電気で先ほどの実験と同じ熱量をハイドロゲルにくわえてみた。
すると水の蒸発スピードは、熱による蒸発スピードの範囲内に収まることが確認された。それは光による蒸発よりずっとゆっくりとしたものだ。光が水を断ち切る「光分子効果」 そもそもなぜ光で水が蒸発するのか?
研究チームは、光子が液体表面にある水分子を切断しているのではと仮説を立て、この現象を「光分子効果(photomolecular effect)」と呼んでいる。
これまでのところ、この現象はきちんと管理された実験室内でしか確認されていないが、雲や海面のような自然界でも起こっている可能性があるという。
また光分子効果を利用して、海水の淡水化や蒸発冷却といった技術の効率アップをはかれる可能性もあるとのこと。
研究チームはすでに研究資金を獲得しており、太陽熱を利用した海水淡水化の研究に取り組んでいる。さらにこの効果が現在の気候モデルにズレを表示させていないかどうかも調べる予定であるそうだ。
この研究は『PNAS』(2023年10月30日付)に掲載された。
References:Water can evaporate with just light, no heat, says surprising study / written by hiroching / edited by / parumo
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