ではこの宇宙で一番最初の生命はどのようなものだったろうか?
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の物理学者、ポール・サッター教授によれば、生命を広く定義するならば、なんとビッグバンのほんの数秒後にすら誕生していた可能性があるという。
そもそも生命とは何か? まず最初に、ここでの「生命」について説明しておく。そもそも生命とは何か? これを定義するのはそう簡単なことではない。
だがサッター氏は宇宙最初の生命を考えるうえで、生命を「ダーウィン的進化の対象となるすべてのもの」と定義している。
このように生命を極めて広義に定義するのは、生命と非生命の境界を曖昧にするその大雑把さが、生命の起源を探るうえで都合がいいからだ。
今では生命宿る母なる地球も、大昔には生命など存在しない時期があった。それはたったひとつの定義ではとらえきれない、生命か非生命か判然としない存在がいた過渡期があったということだ。
さらに、生命の起源を求めて過去へ、それこそ宇宙誕生直後のエキセントリックな状況にまでさかのぼるなら、より懐の深い生命の定義が役に立ってくれる。
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37億年前、地球にはすでに洗練された生命がいた可能性 そして「ダーウィン的進化をする存在」というここでの定義によるなら、地球上の生命は遅くても37億年前には誕生していたことになる。
その当時の微生物は、もう十分に洗練されており、その活動の痕跡を現在にまで残している。
それは現代の生物とよく似ており、DNAで情報を保存し、RNAでその情報からタンパク質を作り、タンパク質が環境と相互作用することでDNAのコピーを作った。
そして肝心なことに、こうした化学物質の働きを利用することで、ダーウィン的進化を遂げることができた。
だがこの微生物すら何かから進化して誕生したのだ。生命は進化する。ゆえにもっと前の地球には、もっと単純な生命が存在していたはずだ。
そのようなもっとも単純な生命は、40億年以上前に海が冷えてすぐに誕生したとする説もあると、サッター氏は指摘する。
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生命に必要な恒星と生命のゆりかご ところで、いかに単純なものであろうと、生命が誕生するためには太陽のような恒星が不可欠だ。なぜか? それは星が”生命のゆりかご”だからだ。
少なくとも私たちが知る生命が生命活動をするには、水素・酸素・炭素・窒素・リンといった元素を必要とする。
ビッグバンから数分後にはもう宇宙にあった水素と違い、それ以外の元素は恒星の一生を通じて、その内部で作られる。
だから地球にいるような生命が誕生するためには、1世代か、2世代ほど恒星が生きて、死に、この宇宙に生命の材料をばらまいてくれる必要がある。
だとするなら、あくまで可能性としては、この宇宙で最初の生命は130億年以上前までさかのぼれるということだ。
この頃のことを「宇宙の夜明け」という。
この宇宙で最初の星々が誕生した時代だ。
そうした最初の星々が誕生すると、すぐさま生命に必要な元素をせっせと作り始めてくれたことだろう。
つまり、炭素をベースに作られ、酸素でエネルギーを運び、液体の水に満たされているような私たちが知る生命は、地球よりもずっと前から存在するかもしれないということだ。
もちろん、炭素ではなくケイ素(シリコン)をベースにして、溶媒として水ではなくメタンを使うような、私たちが知らない生命もいたかもしれない。
だがそうしたエキセントリックな生命ですら、そのための元素は星によって作られる。化学物質をベースとした生命は、星がなければ誕生できないのだ。
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宇宙最初の生命はどのようなものか? だが、生命が必要とする化学物質が作られる以前、それを利用しない生命が誕生していたかもしれない。
そのような生命がどのようなものか、サッター氏もなかなか想像できないことを認めている。
だが、ここでの生命とは進化する存在のことだ。
この定義を満たすうえで、化学物質は必須ではない。ならば化学物質なしで、情報を保存し、エネルギーを取り出し、環境と相互作用する生命はありえないことではない。
その候補としてサッター氏が指摘するのが、「ダークマター(暗黒物質)」や「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」と呼ばれる謎めいたものをベースにした"暗黒生命"だ。
じつはこの宇宙において、私たちが知る物質はわずか5%程度でしかなく、残りの95%は正体不明の物質やエネルギーによって満たされている。
宇宙のほとんどを構成するダークマターとダークエネルギーがどのように相互作用し、どのような”暗黒”化学反応を引き起こすのか、誰にもわからない。ならば、それらを利用した生命を否定することはできない。
そうした仮説上の暗黒生命なら、人類にはまだ理解できない力によって動かされ、媒介されながら、最初の星が出現するもっと前に誕生できたかもしれない。
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銀河団が衝突している「弾丸銀河団」の合成画像。片方は弾丸のように片方を貫通している。青い部分には、ダークマターの存在を示す兆候があると考えられている/Image credit: X-ray: NASA/ CXC/ CfA/ M.Markevitch, Optical and lensing map: NASA/STScI, Magellan/ U.Arizona/ D.Clowe, Lensing map: ESO/WFI
サッター氏はさらに過去にさかのぼり、いっそうワイルドな可能性を想像している。
その根拠となるのが、ビッグバン直後は自然の力がきわめて極端かつ風変わりであったため、複雑な”構造"の成長を支えることができたという仮説だ。
例えば、そうした構造は、磁気単極子によって固定された時空のひだ「宇宙ひも」だったかもしれない。
それが十分に複雑な作りをしているのなら、情報を保存することもできただろう。さらにエネルギーが十分だったならば、自己複製し、ダーウィン的進化すらしたかもしれない。そう、ここで定義する生命である。
そうしたビッグバン直後に誕生したかもしれない"宇宙ひも生命"は、瞬く間に生と死を繰り返し、その歴史は1秒にも満たずに幕を下ろしたことと考えられるそうだ。
References:The 1st life in the universe could have formed seconds after the Big Bang | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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