古代の熱水噴出孔が生命の起源となる有機物を生み出していた可能性
 地球上の生命はどのようにして誕生したのか?

 これは様々な仮説がありつつも、未だ解明されない大きな謎だが、英国の研究チームはその最初のステップを見つけ出したかもしれない。

 それは海底の熱水噴出孔が生み出した有機物「脂肪酸」だ。


 この有機物には細胞膜のような小さな区画を作る性質がある。小さく区切られたスペースは、生命の化学反応を外部から隔離するために極めて重要で、いわば生命の素となった可能性があるという。

熱水噴出孔に生命の素となる脂肪酸が含まれていた可能性 「脂肪酸」には特別な性質がある。

 その長い有機分子には水にくっついたり、弾いたりするところがあり、そのために水の中でまるで細胞のような小さな部屋を作るのだ。この性質が、地球上で最初に登場した「細胞膜」になった可能性がある。

 地球の脂肪酸がどこからもたらされたのか、確かなことはわからない。だがその有力な候補は、地熱で熱せられた水が噴出する大地の亀裂「熱水噴出孔」と呼ばれる海底のエントツだ。

 ここからは水素をたっぷりと含んだ熱水が吹き出し、二酸化炭素たっぷりの海水と混ざり合っている。

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黒い煙を噴出する東太平洋海の熱水噴出孔 / image credit:NOAA / WIKI commons熱水噴出孔を再現したところ脂肪酸ができることが判明 英国ニューカッスル大学の研究チームは、この熱水噴出孔と同じような状況を作り出し、そこで何が起きるのか観察してみた。

 すると、鉄系の鉱物があるところで、水素たっぷりの熱水が二酸化炭素たっぷりの水と混ざると、脂肪酸ができることがわかったのだ。

 その実験では、水素・重炭酸塩・磁鉄鉱を熱水噴出孔と同じような環境で混ぜ合わせている。すると、炭素原子の長さが18個にもなる脂肪酸など、さまざまな分子を作り出すことができた。


 この結果は、生命に欠かせない分子が無機物から作られたプロセスを明らかにしている可能性がある。

 数十億年前の地球の熱水噴出孔で、これと同じような化学反応が起き、細胞膜につながる有機分子を誕生させたのかもしれない。

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生命誕生の鍵を握るのは細胞区画 グラハム・パーヴィス博士は、生命誕生の鍵を握るのは、細胞のように小さく区切られたスペースであると、プレスリリースで説明する。
生命誕生の中心となるのは細胞区画です。それが大切なのは、区画の内側で起きる化学反応を外の環境から分けてくれるからです
 そうした区切られたスペースのおかげで、化学物質が濃縮され、エネルギー生産がうながされ、ひいては生命活動のような反応につながっていった。

 今回の実験結果は、アルカリ性熱水噴出孔から噴出した水素たっぷりの液体と、重炭酸塩たっぷりの水が鉄系の鉱物に集まることで、最初の生命のごく初歩的な膜ができあがった可能性を示している。
このプロセスによってできたさまざまなタイプの膜の中に、生命の揺りかごとして機能したものがあり、生命が誕生したのかもしれません
 しかも、こうしたプロセスは、隕石にみられる「酸」を作り出した可能性もあるという。

 それどころか、地球以外の惑星や衛星(たとえば土星の衛星タイタンだ)でも起きて、同じような膜を作っているとも考えられる。

 パーヴィス博士らは、今回の結果は、地球の生命がどのように誕生したかを理解するうえで重要な一歩になると考えている。そして現在、生命誕生につながるその次の重要なステップを調べている。

 鉱物の表面にくっついていた脂肪酸は、はたしてどのようにして浮き上がり、実際に細胞のような球状の膜でかこまれた小部屋を作り上げたのか?

  それは最初の生命とへとつながる潜在的な「原細胞」である可能性があるという。

 この研究は『Communications Earth & Environment』(2024年1月10日付)に掲載された。


References:ancient hot springs - Press Office - Newcastle University / written by hiroching / edited by / parumo

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