画面上での読書は、紙の本での読書より理解力が低下し情報を保持しづらいことが判明
 最近では電子書籍も一般化しており、スマホやタブレット、PCで文章を読む機会が増えた人が多いだろう。だが画面での読書は、紙での読書に比べて、理解力が低下し、情報を保持しにくいという。


 オーストラリア、マッコーリー大学のエリック・ライヒル教授らは、デジタル時代の読書についてレビューを行い、その結果を『Trends in Cognitive Science』(2023年9月9日付)で発表している。

 本の読書でも、スマホやPCのような画面の読書でも、書かれた文字を見て、解釈するという基本的なプロセスは変わらないのに、なぜ理解力に差が出るのか?

 その 要因の1つとして、紙が「静的」な読書であるのに対して、画面(スクリーン)は「動的」な読書であることがあげられるという。

読書は新しい情報伝達手段 マッコーリー大学のライヒル教授の説明によると、人間の脳の発達という点から見ると、読書はかなり新しい情報伝達手段なのだという。
私たちは読むために進化したわけではありません。また、そのために必要な認知系と視覚系の連携はじつに複雑です 
 文字を読むためには、注意力をさっと転換し、高度な言語表現までが必要になる。そうした脳の処理はどれも動的に行われ、それぞれに60~200ミリ秒かかる。
だから、ただ話して聞くだけなら自然にできるようになりますが、読書には何年もの修練が必要になります
スクリーン劣性効果 ただでさえ読書は脳にとって新しく慣れない作業なのに、画面(スクリーン)での読書はまさに最近になって発明されたばかりのものだ。

 これまでに行われたさまざまな調査研究が、画面で文章を読むと、本のような紙よりも理解しにくいことを示している。これは何語だろうと、どんな文字だろうとすべてに当てはまる。

 これを「スクリーン劣性効果(screen inferiority effect)」という。

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photo by Unsplashなぜ画面の読書は頭に入りにくいのか? なぜ画面での読書は、紙より理解しにくいのか?

 はっきりとした理由はわかっていない。だがリリ・ユー博士は、さまざまな要因が絡んでいるだろうと説明する。


 たとえば、読書の内容だ。小説のような物語ならば、画面でもそれほど理解力は変わらない。ところが教科書で勉強をするときなど、情報量の多い文章を画面で読むと、理解力が低下するという。

 心理的な要因も関係しているかもしれない。勉強では、速く読まなねばならないと気があせる。このような場合、画面での読書は、紙よりも効率が悪くなる。

 また画面の読書は、内容の矛盾に気づきにくく、そのために読者は騙されやすくなるという研究結果もあるという。

 あるいは目の疲れ・明るさ・快適さなどの物理的要因や、習慣などが関係している可能性もある。

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photo by Unsplash本の読書は静的で、画面の読書は動的 このように画面の読書が理解しにくい要因として、ライヒル教授らが1つ指摘するのは、紙の読書が”静的”であるのに対し、画面の読書が”動的”であることだ。

 スマホの登場は、読書の習慣を大きく変えることになった。スマホの読み物は、短くて、堅苦しくないものが多く、流し読みしがちだ。

 しかも画面のそこかしこに、広告やら通知やらリンクやら、気を散らせるものが表示されている。
そうした画面を見つめながら、文章への集中を維持するのはなかなか大変なことかもしれない。

 画面の読書が私たちの理解力を低下させる一方で、そもそも本のような印刷物への集中力が落ちている人たちもいる。

 ライヒル教授によれば、”ながら作業”ばかりで、集中力があまり続かなくなっているのだという。
テレビを見ている時や誰かと話している時でも、スマホでSNSを眺めていたり、ゲームをしていたりすることがあります。どれにもまともに集中していないのです
 しかもそうしたコンテンツは短くても、魅力的で、脳内でたっぷりドーパミンが放出されるよう動的に作られている。

 一方、本は静的で、動くものも点滅するものもない。刺激になれた脳には、退屈な代物かもしれない。

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読む力を取り戻すために 懸念されるのは、こうしたスクリーン劣性効果は、読む力がまだ未熟な人ほど大きな影響を受ける恐れがあることだ。

 つまり、これから読む力を培わねばならない子供たちが一番悪影響を受けるかもしれないのだ。
画面で読み方を学んでいる子供たちにどのような影響があるのか、まだわかっていません。それがわかるまでには、10年か15年はかかるでしょう
 残念ながら、本への集中力を回復させるために、手っ取り早い方法はないという。そのための唯一の方法は、ただ本を読む時間を増やし、地道に読書を続けることだ。


 自分にとって面白そうな本を選び、明るくて快適な場所に座り、スマホやテレビなど気が散るものはできるだけ遠ざけておく。

 時間はかかるかもしれない。それでも「努力する価値はあります」と、ライヒル教授は話している。

追記:(2024/02/11)本文を一部訂正して再送します。
References:Screen test: Paper still wins in the reading stakes | The Lighthouse / Dynamic reading in a digital age: new insights on cognition: Trends in Cognitive Sciences / written by hiroching / edited by / parumo

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