ツタンカーメン王の胸飾りのスカラベに隠された宇宙とのつながり
 英国の考古学者ハワード・カーターが、ツタンカーメン王の墓を発見してから1世紀以上がたった。ここはこれまで発見された墓の中で唯一、盗掘されていない無傷の墓だった。


 ラムセス6世の墓の下にあったツタンカーメン王の墓は瓦礫のおかげか、3000年近くも墓泥棒たちの目を欺いてきたのだ。

 カーターはツタンカーメン王の玄室の中で、貴重な宝を数多く見つけたが、その中には見事だが不思議な物があった。王の胸飾りの中央に輝くスカラベをかたどった宝石だ。

 これは古代エジプト人が、宇宙と深いかかわりを持っていたことを示唆しているのかもしれない。

 彼らはどのようにしてこの希少な鉱物を見つけたのか?そしてスカラベは何を象徴しているのだろうか?

ツタンカーメン王の胸飾りのスカラベは宇宙由来の天然ガラス 精巧に作られた黄金の胸飾りは、スカラベをかたどった鮮やかな黄色い宝石で飾られている。スカラベとは古代エジプト人が神聖視した甲虫、フンコロガシの一種だ。

 この石はリビアの砂漠で見つかる天然ガラスで、2900万年前にサハラ砂漠東部の砂の中に隕石が落下破裂してできたものだが、このサイズのものが見つかるのは非常に珍しい。

 そんな貴重な石が使われたスラカベの見事な彫刻が、王の儀式用胸飾りを飾ることになったのだと、カイロのアメリカン大学のエジプト学者サリマ・イクラム氏は語る。
これは驚嘆すべきことです。今日でさえ四駆でも近づくのが大変な過酷な砂漠の奥へ、古代エジプト人が入り込んだからです。彼らはロバを使ったのでしょう
 このガラスはなかなか手に入らない希少なものであるため、貴重な宝石として扱われたのだろう。それが王の胸飾りの中心に据えられた理由のひとつかもしれない。


 このような貴重な胸飾りは、宗教的、装飾的な目的の両方で使用されたと考えられ、その役割は神の力による庇護だった。

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ツタンカーメンの墓に収められていた宇宙由来のガラスを使用したスカラベを中央に配置した胸飾り / image credit:J.BODSWORTH/WIKIPEDIAなぜ古代エジプト人にとってスカラベは重要だったのか? スカラベは、古代エジプトにおいてもっともよく使われるシンボルのひとつで、ツタンカーメン以外の墓からも数多く見つかっている。

 いたるところで見られるシンボルだが、スカラベをかたどるのに希少な宝石を使ったのは、ツタンカーメンのような裕福で絶大な権力をもつファラオに限られていたことだろう。

 ツタンカーメンの墓は、壁の象形文字からあらゆる宝石類に至るまで、さまざまな場所がスカラベで装飾されていた。

 これは、スカラベ自体に非常に多くの象徴的な意味があったからだと、ブリストル大学のエジプト学者で歴史家のエイダン・ドッドソン氏は言う。スカラベは日の出の太陽の象徴であり、出現のシンボルでもあったという。

「太陽神ラーは、1日の時間帯によって4つの異なる姿で現れます。朝一番、太陽が昇るときは、スカラベの姿をしているのです」

 野生のスカラベが糞を転がしてボール状にする習性を見て、古代エジプト人はラーが太陽を地平線の上に押し上げてくれていると考えたのではないかという。

 現代では、スカラベの糞を転がす習性が子孫の食糧にするためのものだとわかっているが、古代エジプト人はそんなことは知らなかったはずだ。

 スカラベのシンボルは、現れ出ることあるいは、存在し続けることを意味していて、それはファラオがあの世への旅をスムーズに行うために重要なことだった。
エジプト人の埋葬の考え方において、それはこの世とあの世の間の連続性を意味していました。出現という考え方は、来世での再生という考えを象徴しているものです


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 スカラベの護符はミイラの包帯の中にも入れられた。
「ミイラ化のときにはよくスカラベが中心に置かれ、安全にあの世に行けるよう心臓を守るという祈りの言葉が刻まれていました」

 このように、自然そのものを神とみなすほど神聖視していた古代エジプト人は、自然界でみられるコガネムシの習性のような現象にも宗教的なシンボルを見出すようになったようだ。

 そこから彼らにとってコガネムシは、最も重要なシンボルの一つとなり、毎朝太陽が昇るのと同じように、死んだ人間もやがて再び生まれ変わるという概念を表すために用いられるようになったと考えられている。

References:The Yellow Glass Of The Sahara Was Created By An Asteroid Impact | IFLScience / King Tut's Central Scarab May Have a Cosmic Connection / written by konohazuku / edited by / parumo

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