ウミヤツメと人間の意外な共通点。脳の発達の仕方が良く似ていたことが判明
 鋭いトゲのある舌と歯が並ぶ吸盤状の口で獲物を吸いつき組織を削り取る寄生性のウミヤツメは、見た目も生態もまさにホラーな海の怪物だ。

 5億年前に我々人類との共通祖先から枝分かれした古い動物で、脊椎動物でありながらアゴがない。


 人間とは似ても似つかない姿をしているが、意外にもアゴがある脊椎動物とウミヤツメには想像以上に共通点があることが明らかになっている。

 『Nature Communications』(2024年2月20日付)で発表された研究によると、脳の発達に関して驚くほどよく似た遺伝子の設計図を持っているという。

進化の過程でアゴありとアゴなしに別れた脊椎動物 ヒトを含むほとんどの脊椎動物にはアゴがある。こうした動物をまとめて「顎口類」という。

 一方、ウミヤツメは脊椎動物だというのにアゴがない。ゆえに脊椎動物でも「無顎類」というグループに分類される珍しい生き物だ。

 それゆえに脊椎動物の進化の歴史をひも解く貴重なヒントでもある。

 米国ストワーズ医学研究所のアリス・ベドワ博士は、「5億年ほど前、脊椎動物の祖先からアゴのないものとアゴのあるものに分かれました」と説明する。

 そんな大昔に別々の道を歩み始めたウミヤツメとアゴのある脊椎動物を比べれば、私たちがどのように進化してきたのか貴重な洞察が得られるはずだ。

 「脊椎動物の脳がどのように進化したのか、アゴのある脊椎動物にはあって、アゴのない脊椎動物にはない何かがあるのかどうか知りたいと思いました」ウミヤツメと我々の意外な共通点 だがこれまでの研究によって明らかになったのは、どちらにも共通してあるものだった。

 ウミヤツメの「菱脳」(りょうのう)を形作る遺伝子が、アゴのある脊椎動物の遺伝子とまったく同じだったのだ。

 これらの遺伝子は、ほかの遺伝子と結びつきあったネットワークの一部であるため、菱脳を作り上げるには、そのための”合図”が必要となる。


 そして今回の研究では、その合図もまた共通していることが明らかになったのだ。

 この合図は「レチノイン酸」というビタミンAの代謝物質だ。

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ウミヤツメの成体(上、左下)。蛍光顕微鏡検査法で観察した、発達中のウミヤツメの胚(右下) / image credit:Stowers Institute for Medical Research

 複雑な生物種でなら、レチノイン酸が菱脳を形成する合図であることは知られていた。だがウミヤツメは原始的な動物だ。だからレチノイン酸が働いているとは考えられていなかった。

 ところが、意外にもウミヤツメの菱脳もまたその合図によって作られるのだ。つまり姿形がまるで違うヒトとウミヤツメだが、両者は案外近い関係にあるということだ。

 これについて、ロブ・クルムラウフ博士はこう説明する。
ウミヤツメにはアゴがありません。ですので、その菱脳はほか脊椎動物とは違った形成のされ方だろうと考えられていました。

ところが、ウミヤツメの脳の基本的な部分は、マウスやヒトとまったく同じように作られることが明らかになったのです


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photo by iStock脊椎動物の多様性の背後にはどんなメカニズムが? 細胞がどのように発達するのか伝えるシグナル伝達分子についてはよく知られている。
今回、レチノイン酸もまた、脳の発達における重要な合図であることが明らかになった。

 もしもこうした菱脳の形成メカニズムが、どの脊椎動物でも共通しているとしたら、このグループが驚くほど多様である背後には、また何か別のメカニズムがあるに違いない。

 「私たちは皆、共通の祖先から生まれました」と、ベドワ博士。

 今回の研究で、ウミヤツメが新たな手がかりを与えてくれたおかげで、菱脳の形成を司る遺伝子回路がいつ誕生したのか解明するには、進化をさらにさかのぼる必要があることがわかがわかったという。

References:An awkward family reunion: Sea monsters are o | EurekAlert! / Scientists Have Uncovered Remarkable Similarities Between This Sea Monster and Humans / written by hiroching / edited by / parumo

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