ニューヨークで不倫が合法に?形骸化した姦通罪を廃止する動き
 アメリカには今でも奇妙な法律がいくつも存在するが、ニューヨーク州ではまもなく不倫が合法になるかもしれない。

 ニューヨークでは1世紀以上、配偶者のある者が別の異性と性交すると「姦通罪(かんつうざい)」という罪に問われた。
つまり不倫は犯罪となり、有罪になると最高で3ヵ月の禁固刑に処せられる。

 同州ではこの姦通罪を廃止する法案が審議中だという。廃止されれば、刑法上は不倫は罪に問われないこととなる。民事上はまた別の話だ。

形骸化した法律 いまだにアメリカのいくつかの州では姦通罪が生きているが、起訴されることはほとんどなく、実際に有罪判決になるのはさらに稀なことだ。

 アメリカの場合、この法律は、配偶者の浮気が法的な離婚を確実にする唯一の方法だった時代に、離婚数を減らすために制定されたものだという。

 ニューヨークで1907年以降、軽犯罪とされている姦通罪は、州法で「自分に生存配偶者がいる場合、または相手に生存配偶者がいる場合、婚姻外の相手と性交すること」と定められている。

 当時のニューヨークタイムズの記事によると、この法律が発効されてからわずか数週間後、既婚男性と25歳の女性が逮捕第一号となったという。男性の妻が離婚訴訟を起こし、新法に基づいての逮捕だった。

 姦通禁止法案廃止を提出したチャールズ・ラヴィン下院議員によると、1972年以降、ニューヨーク州法に基づいて起訴されたのはわずか12人、そのうち実際に有罪判決を受けたのはわずか5人だという。

 ニューヨークにおける最後の姦通罪は、2010年に公共の公園で性行為を行ったとして捕まった女性に対するものとされているが、これは司法取引の一環としてのちに取り下げられた。

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photo by iStock姦通罪を廃止する法案が審議中 ラヴィン氏は、ほとんど施行されたことがないこと、また意思を持つ大人同士が密室で行っていることを検察がほじくり出すべきではないことから、この法律を廃止すべき時期だと言っている。
まったく意味のないことで、同意している大人同士の親密な関係が不道徳だとみなされるようになってから、もうずいぶん時間がたちました。これはジョークなんです。この法律は誰かの道徳的怒りの表現だったのです(チャールズ・ラヴィン下院議員)
 『A Guide to America’s Sex Laws』の著者のひとりであるボストン大学の法学教授、キャサリン・B・シルボー氏は、姦通罪は女性を対象とした懲罰的措置で、子どもの親であることを疑われかねない婚外恋愛を思いとどまらせることを目的としていた、と述べている。

 「これは家父長制度のせいだと言っておきましょう」シルボー氏は言う。

 ニューヨーク州の姦通禁止令撤廃法案はすでに議会を通過していて、まもなく上院も通過し、州知事が署名する見通しだ。

 1960年代に刑法全体の更新を任された州委員会が、姦通禁止令を執行するのは事実上不可能と判断したため、この法律は削除されたも同然だった。当時の委員長はこう言った。「これは個人のモラルの問題であり、法律ではない」

 1965年のニューヨークタイムズの記事によると、この刑法変更は最初議会に受け入れられたが、ある政治家が姦通禁止法を廃止すると、州全体が不倫を支持しているように見られかねないと主張し、結局、廃止は撤回された。

 当時のタイムズの別の記事には、少なくともひとつの宗教団体が、不倫は結婚と公益を損なうと主張して廃止に反発しているというものもあった。結局、姦通禁止法はなんの変更もなく、刑法はそのまま署名され成立した。

 いまだに姦通罪が存在する州のほとんどは姦通を軽犯罪としているが、オクラホマ州、ウィスコンシン州、ミシガン州は重罪として扱っている。

 コロラド州、ニューハンプシャー州は、ラヴィン議員と同様の主張をしていて廃止の方向に動いている。


 また、姦通罪の廃止が合憲かどうかについてもまた、疑問が残る。

 ソドミー法(異常性行為を違法とする法律)を無効にした2003年の最高裁の判決で、姦通禁止法が成立するかどうかが問題になった。アントニン・スカリア判事(当時)は、この判決によって姦通禁止法に疑問が投げかけられと反対意見で書いている。

 しかし、人工妊娠中絶の保護を剥奪した2022年の裁判所の画期的な判決で、クラレンス・トーマス判事は、最高裁は自由とプライバシーの保護をめぐる憲法の新たな解釈に照らして、同性婚合法化の判決だけでなく、ソドミー法の判決も再考するべきだと書いている。

 姦通罪の告訴があまりないことを考えると、最高裁の姦通罪に対する推測的なスタンスは、ほとんど学問的なネタといっていいだろう。

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photo by iStock日本には姦通罪は存在しない ちなみに日本では、戦前まで姦通罪が存在したが、妻側とその相手となった男性のみが処罰されるという不平等なものだった。

 第二次世界大戦後、1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法で男女平等が定められことにより、男性にとって都合の良い姦通罪は、同条に違憲となる状態となり、現在は事実上存在しない。

 ただし民法上となると話は別だ。離婚原因になりえるし、男女どちらの姦通も「不貞な行為」(民法770条1項1号)に当たり、相手方に対しては貞操権侵害として慰謝料を請求できる場合がある。

References:Adultery crime may be repealed in NY law – NBC New York / written by konohazuku / edited by / parumo

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