
47年前に打ち上げられ、様々なミッションをこなしながら太陽圏を脱出し、星間空間の航行を行っていたNASAの無人宇宙探査機、ボイジャー1号だが、数ヶ月前に不具合が生じ正気を失ってしまった。
「回復したら奇跡」とまで言われていたが、研究者らの諦めない心と努力が実り、ついに我に返ったそうだ。
NASAの技術チームが打った起死回生の一手は、コードを分割してシステム内に分散して保存するというもの。これによってぶつぶつと意味不明な言葉ばかりをつぶやいていたボイジャー1号は正気に戻り、ちゃんと意味の通じる返事を返してくれたのだ。
正気を失ったボイジャー1号のこれまでのあらすじ 1977年9月5日に打ち上げられ、47年も宇宙で一人旅を続けたボイジャー1号がぶつぶつと意味不明な言葉ばかりをつぶやくようになったのは、約5か月前の2023年末の頃だ。
カラパイアではそれからずっとボイジャー1号に関する情報を追っていた。
不具合の原因として考えられたのは、科学機器や機体についてのデータをまとめる「フライト・データ・システム(FDS)」と、これを地球に送信する「遠隔測定変調ユニット(TMU)」との通信の不具合である。
一体何が2つの機器の通信を阻害しているのか特定するべく、NASAジェット推進研究所の技術チームが、普段とは違う手順で壊れたデータを迂回する特殊な呼びかけを行ったことは、前回、前々回にお伝えした通りだ。
これによって老朽化したボイジャー1号がおかしくなった原因が、”物忘れ"であることが判明した。FDSのメモリが3%ほど物理的に壊れてしまっていたのだ。
もともと、ボイジャー1号、2号の設計寿命は5年だったことを考えると、こんなに長い間がんばってくれているのは奇跡に近い状況である。
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地球から244億km先の遠く離れた宇宙空間にいるボイジャー1号 / image credit: NASA/JPL-Caltech起死回生の1手にボイジャー目覚める! ボイジャー1号はすでに太陽圏を脱出しているので、壊れたメモリを交換することはできない。
そこで技術チームは起死回生の一手を考案した。
壊れたメモリに保存されるはずのコードをいくつかに分け、FDSのまだ機能している場所にバラバラに保存するという大胆なアイデアだ。
嬉しいことに、この勝負手は功を奏した。コードを移植してから、FDSにいくつかのタスクを実行させてみると、きちんと処理してくれたのだ。
そして4月20日にボイジャー1号から返ってきた返事は、ちゃんと理解できる言葉だった。
ボイジャー1号がデータの一部を正常に送信したことを確認したNASAジェット推進研究所の技術チームは喜びに沸き返った。
研究チームの一員であるリンダ・スピルカー博士は「しばらく離れていた古い友人に再び会えた気分だ」と語ったという。
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4月20日に届いたボイジャー1号からのメッセージに沸くNASAジェット推進研究所の技術チーム / Credit: NASA/JPL-Caltech奇跡の復活を遂げたボイジャー1号 この復旧処理はまだすべて終わったわけではなく、まだ残されている機能していないコードもまた同じように処理する必要がある。
それでも、ボイジャー1号の健康状態とシステムをチェックすることはできるようになった。
ほかのコードも安全な場所の移植してやれば、ボイジャー1号はまた元通りに太陽圏の外で見たものを地球に伝えてくれるはずだ。
とはいえ、この作業には数週間かかるかもしれない。なにしろ地球から語りかけても、電波が届くまでに22時間(つまり光の速さで22時間)かかり、そこから返事が来るまでさらに22時間かかる。
たとえボイジャー1号が正気を取り戻したとしても、地球上での会話のようにはいかない距離なのだ。
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ボイジャー1号が1990年に捉えた地球の姿。画像は最新の画像処理ソフトウェアや技術を使用してアップデートされたもの/Credit: NASA/JPL-Caltech
追記(2024/06/16):ボイジャー1号が4つの機器すべてから科学データを返送
NASAが新たに報じたところによると、2024年5月、他のコードの修復作業を終え、ボイジャー1号が4つの科学機器からのデータを再び地球に送信し始めたことを確認したそうだ。
現在は全機器が利用可能な科学データを送信しているという。
だたし、ボイジャーの3つのオンボードコンピューターで時刻同期ソフトウェアを再同期させるなど、小規模ながら継続的な保守作業も続けられていくそうだ。
さらには年に2回地球にデータを送信するプラズマ波機器のデジタルテープレコーダーのメンテナンスも予定されている。
ボイジャー1号の功績 ボイジャー1号が打ち上げられたのは、1977年9月5日のことだ。1979年3月に木星を、1980年11月に土星を通過し、こうした惑星について貴重な情報を伝えてくれた。
こうしたミッションの後も宇宙の一人旅を続け、2012年にはついに太陽圏を離脱した。
今現在は、太陽とほかの恒星との間に広がる「星間空間」を旅しているが、太陽系の一番外側を包む「オールトの雲」にはまだ到達していない。
50年以上も働き続けたボイジャー1号おじいちゃん、すでにいくつかの科学観測装置は停止している。
そしてそう遠くない未来、さらに多くの機器が動かなくなり、2030年代半ばまでには力つき、永遠の眠りにつくことになる。
これまで人間のために献身的に働いてくれた老いたボイジャー1号だが、それでもなおミッションは続く。
なんたって双子のボイジャー2号とともに、地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収めらたゴールデンレコードが搭載されている。
[画像を見る]
宇宙のどこかにいる地球外知的生命体や未来の人類がそれを見つけて解読することが期待されているのだ。
References:NASA’s Voyager 1 Resumes Sending Engineering Updates to Earth / NASA’s Voyager 1 Resumes Sending Engineering Updates to Earth – Voyager / NASA Restores Communications with Voyager 1 - Universe Today / written by hiroching / edited by / parumo
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「回復したら奇跡」とまで言われていたが、研究者らの諦めない心と努力が実り、ついに我に返ったそうだ。
NASAの技術チームが打った起死回生の一手は、コードを分割してシステム内に分散して保存するというもの。これによってぶつぶつと意味不明な言葉ばかりをつぶやいていたボイジャー1号は正気に戻り、ちゃんと意味の通じる返事を返してくれたのだ。
正気を失ったボイジャー1号のこれまでのあらすじ 1977年9月5日に打ち上げられ、47年も宇宙で一人旅を続けたボイジャー1号がぶつぶつと意味不明な言葉ばかりをつぶやくようになったのは、約5か月前の2023年末の頃だ。
カラパイアではそれからずっとボイジャー1号に関する情報を追っていた。
不具合の原因として考えられたのは、科学機器や機体についてのデータをまとめる「フライト・データ・システム(FDS)」と、これを地球に送信する「遠隔測定変調ユニット(TMU)」との通信の不具合である。
一体何が2つの機器の通信を阻害しているのか特定するべく、NASAジェット推進研究所の技術チームが、普段とは違う手順で壊れたデータを迂回する特殊な呼びかけを行ったことは、前回、前々回にお伝えした通りだ。
これによって老朽化したボイジャー1号がおかしくなった原因が、”物忘れ"であることが判明した。FDSのメモリが3%ほど物理的に壊れてしまっていたのだ。
もともと、ボイジャー1号、2号の設計寿命は5年だったことを考えると、こんなに長い間がんばってくれているのは奇跡に近い状況である。
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地球から244億km先の遠く離れた宇宙空間にいるボイジャー1号 / image credit: NASA/JPL-Caltech起死回生の1手にボイジャー目覚める! ボイジャー1号はすでに太陽圏を脱出しているので、壊れたメモリを交換することはできない。
そこで技術チームは起死回生の一手を考案した。
壊れたメモリに保存されるはずのコードをいくつかに分け、FDSのまだ機能している場所にバラバラに保存するという大胆なアイデアだ。
その上で分散したコードを連携させて使用すれば、これまで通り機能してくれるはずだ。
嬉しいことに、この勝負手は功を奏した。コードを移植してから、FDSにいくつかのタスクを実行させてみると、きちんと処理してくれたのだ。
そして4月20日にボイジャー1号から返ってきた返事は、ちゃんと理解できる言葉だった。
ボイジャー1号がデータの一部を正常に送信したことを確認したNASAジェット推進研究所の技術チームは喜びに沸き返った。
研究チームの一員であるリンダ・スピルカー博士は「しばらく離れていた古い友人に再び会えた気分だ」と語ったという。
[画像を見る]
4月20日に届いたボイジャー1号からのメッセージに沸くNASAジェット推進研究所の技術チーム / Credit: NASA/JPL-Caltech奇跡の復活を遂げたボイジャー1号 この復旧処理はまだすべて終わったわけではなく、まだ残されている機能していないコードもまた同じように処理する必要がある。
それでも、ボイジャー1号の健康状態とシステムをチェックすることはできるようになった。
ほかのコードも安全な場所の移植してやれば、ボイジャー1号はまた元通りに太陽圏の外で見たものを地球に伝えてくれるはずだ。
とはいえ、この作業には数週間かかるかもしれない。なにしろ地球から語りかけても、電波が届くまでに22時間(つまり光の速さで22時間)かかり、そこから返事が来るまでさらに22時間かかる。
たとえボイジャー1号が正気を取り戻したとしても、地球上での会話のようにはいかない距離なのだ。
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ボイジャー1号が1990年に捉えた地球の姿。画像は最新の画像処理ソフトウェアや技術を使用してアップデートされたもの/Credit: NASA/JPL-Caltech
追記(2024/06/16):ボイジャー1号が4つの機器すべてから科学データを返送
NASAが新たに報じたところによると、2024年5月、他のコードの修復作業を終え、ボイジャー1号が4つの科学機器からのデータを再び地球に送信し始めたことを確認したそうだ。
現在は全機器が利用可能な科学データを送信しているという。
だたし、ボイジャーの3つのオンボードコンピューターで時刻同期ソフトウェアを再同期させるなど、小規模ながら継続的な保守作業も続けられていくそうだ。
さらには年に2回地球にデータを送信するプラズマ波機器のデジタルテープレコーダーのメンテナンスも予定されている。
ボイジャー1号の功績 ボイジャー1号が打ち上げられたのは、1977年9月5日のことだ。1979年3月に木星を、1980年11月に土星を通過し、こうした惑星について貴重な情報を伝えてくれた。
こうしたミッションの後も宇宙の一人旅を続け、2012年にはついに太陽圏を離脱した。
今現在は、太陽とほかの恒星との間に広がる「星間空間」を旅しているが、太陽系の一番外側を包む「オールトの雲」にはまだ到達していない。
50年以上も働き続けたボイジャー1号おじいちゃん、すでにいくつかの科学観測装置は停止している。
そしてそう遠くない未来、さらに多くの機器が動かなくなり、2030年代半ばまでには力つき、永遠の眠りにつくことになる。
これまで人間のために献身的に働いてくれた老いたボイジャー1号だが、それでもなおミッションは続く。
なんたって双子のボイジャー2号とともに、地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収めらたゴールデンレコードが搭載されている。
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宇宙のどこかにいる地球外知的生命体や未来の人類がそれを見つけて解読することが期待されているのだ。
References:NASA’s Voyager 1 Resumes Sending Engineering Updates to Earth / NASA’s Voyager 1 Resumes Sending Engineering Updates to Earth – Voyager / NASA Restores Communications with Voyager 1 - Universe Today / written by hiroching / edited by / parumo
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