
今回、『Clinical Chemistry』(2024年5月6日付)に掲載された研究によると、本物と認定されたベートーヴェンの毛髪のDNAを分析したところ、高濃度の「鉛」のほか、「ヒ素」「水銀」といった重金属が検出されたという。
彼は難聴をはじめ、B型肝炎など、終生病気に苦しめられたとされているが、もしかしたらこうした重金属による中毒がその体を蝕んでいたのかもしれない。
ベートーヴェンの毛髪に通常の60~100倍近い鉛を検出 分析されたのはベートーヴェン(1770年~1827年、56歳没)のものとされる2房の髪の毛のDNAで、片方からは1gあたり380μg、もう片方からは258μgの鉛が検出された。
通常の髪の毛に含まれる鉛は4μg以下なので、65~100倍近い高濃度の鉛で汚染されていたということになる。
それだけでなく、ほかにも「ヒ素」と「水銀」が、それぞれ通常の13倍と4倍も検出された。
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マダム・タッソー館に展示されているベートーヴェンの蝋人形 / image credit:pixaboy鉛中毒で難聴になった可能性。ただし死因とは考えにくい 「交響曲第9番」や「運命」をはじめ、数々の名曲を書いた楽聖ベートーヴェンだが、20代で聴力が悪化しはじめ、40代後半には完全に耳が聞こえなくなっている。
また慢性的な腹痛や下痢に悩まされ、2度ほど黄疸(肝臓に問題があったと考えられる)が出るなど、若いうちから健康に苦しんでいたらしいことが知られている。
こうした症状の原因の1つは、この鉛による中毒だった可能性があると、今回の研究は指摘する。
ただし、鉛中毒はベートーヴェンの唯一の死因だとは考えにくいようだ。
鉛は確かに、難聴や胃・肝臓の障害に関連しているが、それだけで死ぬほど高濃度でもないからだ。なお今回の研究は、ヒ素と水銀が体に与えた影響に触れていないため、死との関係性はわからない。
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ベートーヴェンの肖像画(1803年) / image credit:public domain/wikimedia大好物のワインと魚が鉛中毒の原因か? なぜベートーヴェンはこれほどまでに鉛に汚染されてしまったのか? もしかしたら、それは当時彼が愛飲していたワインが関係しているかもしれない。
ベートーヴェンはワインが大好きで、しばしば1日にボトル1本を飲み干していた。
だが当時、ワインには保存料や甘味料として酢酸鉛が入れられることがあり、しかもガラス瓶にも微量の鉛が含まれていた。
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photo by Pixabay
くわえて彼がよく食べていた魚が、ヒ素や水銀で汚染されたドナウ川で獲れたものだったらしいことも、健康に影響したかもしれない。
なおベートーヴェンの毛髪が調査されたのは、これが最初ではない。
例えば2023年の研究では、ベートーヴェンの本物の髪の毛を選別するところから始まり、そのDNAを分析したところ、彼が亡くなる直前「B型肝炎」にかかっており、これが死につながった可能性があることを明らかにしている。
ベートーヴェンの時代、家族や有名人が亡くなると、その髪の毛の房を切って残しておくことがあった。今、私たちが当時の人物の知られざる真実に触れられるのは、こうした習慣のおかげだ。
「私たちは、これが難解なパズルの重要な1ピースであり、これによって偉大な作曲家の医学的歴史をよりよく理解できるようになると信じています」と研究チームは述べている。
References:Heavy metals in Beethoven's hair may explain his deafness, study finds | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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