カッコウの托卵が、新種を次々と生み出す理由
 生物の進化は様々なプロセスを辿りながら、遺伝的形質が変化していく。では新しい種はどのようにして生まれるのか?なぜ地球上にはこれほど多くの種が存在するのか?

 その理由の1つとして、食う者と食われる者、利用する者と利用される者との生存戦略がある。
カッコウは他の種の鳥を利用し、巣に卵を産んでヒナを世話してもらう「托卵」をすることで知られているが、ここにもその生存戦略がある。

 カッコウのヒナは、仮親となる鳥のヒナそっくりに姿を変える。そしてまた利用される側の鳥も、カッコウを見破れるようヒナの姿が変化していく。

 こうして、カッコウも、仮親になる鳥も、次々と新種や亜種が誕生しているのだ。

カッコウが新種の発生を促すプロセスを研究 オーストラリア国立大学のナオミ・ラングモア教授らの研究チームでは、托卵というユニークな習性のあるカッコウを事例に、新種が誕生するプロセスに迫っている。

 カッコウは自分の卵を別種の鳥の巣に産みつけ、その鳥(仮親)にヒナを育てさせる「托卵」をすることで知られている。

 一方、カッコウにヒナを押し付けられる鳥は、都合よく利用されないよう、カッコウのヒナを見分けやすいよう対抗手段を身につける。

 するとカッコウも負けじと、利用する鳥そっくりに擬態できるヒナを生み出す。その末に誕生するのが新種だ。

 たとえばオーストラリアなどに生息する「ブロンズカッコウ」は、ルリオーストラリアムシクイやGerygoneなど小型の鳴禽類の巣に卵を産む。

 カッコウの卵は孵化するとすぐに巣から卵やヒナを追い出し、巣の唯一の住人になる。親鳥は自分の子供をすべて失うだけでなく、カッコウを育てるのに数週間を費やす。


 カッコウは最終的に親鳥の約2倍の大きさに成長する。これは利用される鳥にとっては大きな負担となる。

 この負担の大きさゆえに、利用される側の鳥は、偽物のヒナを見分けて追い出す”審美眼”を進化させた。

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カッコウのヒナを巣から追い出そうとするハシブトセンニョムシクイ / image credit:Hee-Jin Noh

 一方、赤の他鳥を利用するカッコウのヒナはますます”演技力”を磨いた。

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左がカッコウのヒナ、右が托卵される鳥のヒナ。どちらもそっくりで簡単には見分けがつかない / image credit:Naomi Langmore仮親となる鳥のヒナにそっくりになるよう、種がさらに亜種へと分岐 このようなカッコウの擬態は、さらに精妙な適応をすることになる。驚いたことに、同じブロンズカッコウでも、利用できる鳥によってヒナの姿が違うのだ。

 例えば、リトル・ブロンズカッコウとシャイニング・ブロンズカッコウの場合、托卵に利用する鳥がそれぞれ異なっており、ヒナは仮親のヒナによく似ている。

 そして、こうした姿の違いのために、両種はさらに亜種に分類されることになった。

 こうした種の分岐は、ひとつの地域に利用できる鳥が2種いても起こる。

 オーストラリア、クイーンズランド州北部に生息するリトル・ブロンズカッコウは、ハシブトセンニョムシクイとノドグロセンニョムシクイに卵を預けるが、その結果として2つの亜種が生まれた。つまり亜種が誕生したのは、生息域の違いが原因ではないということだ。


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リトル・ブロンズカッコウ(A・B・C)とシャイニング・ブロンズカッコウ(D・E・F)の亜種。それぞれのヒナ(上段)はそこで利用できる鳥のヒナ(下段)にそっくりだ / image credit:Naomi Langmore, Hee-Jin Noh, Rose Thorogood, Alfredo Attisano仮親となる鳥も新種が誕生しやすくなる オーストラリア国立大学の研究チームは、非破壊的な方法でカッコウの卵からDNAを収集してきた。

 そこから明らかになったのは、カッコウによるダメージが大きいほど(例えば、ヒナがすべて殺されるなど)、仮親となる鳥は新種が誕生しやすくなるということだ。

 するとカッコウもまたそれに対抗しようとして、カッコウと利用される鳥との間で「進化の軍拡競争」が起こる。カッコウは欺くスキルを磨き、利用される鳥は真実を見抜くスキルを磨くのだ。

 さらに進化モデルを利用した分析では、このことがあらゆるカッコウの種で裏付けられたという。カッコウのヒナが養親のヒナと共存する場合(負担が小さい)、新種は誕生しにくいが、共存しない場合では、より頻繁に新種に分岐する。

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博物館にあるカッコウ卵の標本。元々あった小さな穴(ブローホール)と、DNAを抽出するために拡張された部分を示す / image credit:Naomi Langmore生存戦略による相互作用が新種を誕生させている こうしたことから研究チームは、利用する側とされる側の生存戦略による相互作用が、さまざまな種を生み出す原動力のひとつなのだろうと推測する。

 このことは、カッコウの托卵だけでなく、寄生虫と宿主、捕食者と被捕食者のような関係でも起こる可能性があるという。

 望むと望まぬと結ばれた濃密な関係こそが、地球上に無数に存在するきわめて特殊でユニークな種が誕生した理由さえ説明できるかもしれないそうだ。

 この研究は『Science』(2024年5月30日付)に掲載された。


References:What’s that in my nest? How the evolutionary arms race between cuckoos and hosts creates new species / written by hiroching / edited by / parumo

追記(2024/06/05)本文を一部修正して再送します。

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