トンガの火山噴火の影響で今後10年は異常気象が続く可能性
 2022年1月15日、太平洋のトンガ王国で「フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ(フンガ・トンガ)」という海底火山が噴火した。この噴火の轟音はオーストラリアにまで響き、それによる津波が日本でも観測されるほど大きな噴火だった。


 だが、トンガの大噴火の影響はそれだけにとどまらない。『Journal of Climate』(2024年5月27日付)に掲載された研究によれば、その影響で一部地域では今後10年にわたって異常気象が続くと予測されるそうだ。

 さらに昨年観測された大きなオゾンホールや、南半球が今年の夏に大量の雨に見舞われたのも、この噴火の影響が考えられるという。

トンガの火山噴火で飛び散った大量の水蒸気 一般に、火山が噴火すると、その噴煙によって地表は冷やされる。そこに含まれる二酸化硫黄が硫酸塩エアロゾルになり、太陽光を宇宙に反射するからだ。

 ところがフンガ・トンガでは、そうはならなかった。そのエネルギーは広島型原爆の500倍以上という凄まじいもの

 だが海底火山であったため、その膨大な熱が噴煙の代わりに1億~1.5億トンもの水蒸気を飛び散らせたのだ。

 それはオリンピックのプール6万杯分に相当する膨大な量で、それが地表から15~40キロの上空にある「成層圏」にまで噴き上げられた。

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気象庁のひまわり8号によって撮影されたフンガ・トンガの噴火。噴煙の幅は500kmほど/Japan Meteorological Agency, CC BY

 カラカラに乾燥した成層圏に水蒸気が達すると、主に2つの効果を発揮する。1つは、オゾン層の破壊をうながすこと。
もう1つは、それ自体が強力な温室効果ガスになることだ。

 とはいえ、こうした海底火山による水蒸気が、地球の気候にどのような影響を与えるのか、詳しいことはわからない。というのも、これまでそれが実際に観測されたことがないからだ。

 成層圏全体の水蒸気を調べるなど人工衛星がなければできない。

 それができる人工衛星が打ち上げられたのは1979年以降のことで、それから今までフンガ・トンガのような噴火は起きていないのである。

 そのようなわけで、フンガ・トンガの噴火は世界中の科学者から注目されることになった。

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水蒸気はオゾンホールの出現と南半球の雨に関与 はたして成層圏の水蒸気は、どのように振る舞うのか? どのくらいの期間、そこにとどまるのか? そして水蒸気がそこにとどまっている間、気候にどのような影響を与えるのか?

 オーストラリア、ニューサウスウェールズ大学などのチームによる今回の研究は、このような疑問に取り組んだものだ。

 前例のない現象から未来を予測するために、研究チームは気候モデルに基づくシミュレーションを行っている。

 成層圏にオリンピックプール6万杯分の水蒸気がある状況とない状況を再現し、その結果を比較してみたのだ。

 そして明らかになったのは、2023年8月から12月にかけて大きなオゾンホールが現れた原因が、少なくとも部分的にはフンガ・トンガの影響だということだ。

 今回のシミュレーションによって、その出現はすでに2年前から予測されていたのである。

 だがオゾンホールへの影響は、昨年で終わっている可能性が高い。


 噴火から2023年までには十分な時間があるので、舞い上がった水蒸気は南極上空の成層圏にたどり着く。だがその後は水蒸気が消えてしまうため、オゾンホールは広がらないと考えられるのだ。

 また噴火は南半球の雨にも影響したようだ。

 南半球に位置し、まもなく冬を迎えるオーストラリアでは、今年の夏かなりの雨に見舞われた。一般にはエルニーニョのせいで雨は少ないだろうと予報されていたが、これが裏切られることもシミュレーション通りだった。

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国際宇宙ステーションから撮影されたフンガ・トンガの噴煙/NASA今後10年の気候に影響を与える可能性 一方、ここ数年の地球の暑さはフンガ・トンガの噴火のせいではなさそうだ。今回の研究によるなら、それが世界の平均気温に与える影響は、0.015度と小さなものであるという。

 だが地域別に見てみると、その余波は驚くほど長く続くかもしれない。

 たとえばオーストラリアの北半分では、2029年頃まで例年より寒く、雨の多い冬が続くと予測されている。

 スカンジナビア諸国もまたしばらく例年より寒い冬になると予測される一方、北アメリカの冬は暖かくなる可能性が高い。

 研究チームによると、こうした天候への直接的な影響は、噴火によって大気中の波の伝わり方が変わることと関係するという。それは高気圧と低気圧にも影響するため、天候を左右するのだ。


 なお、こうした予測は、今回の一研究にのみ基づいたものだ。そのシミュレーションは完全ではないし、エルニーニョとラニーニャのサイクルなど、考慮されていない要素もある。だから、この予想が必ず実現するというわけではない。

 だが研究チームはこうした分析が、海底火山と気候に関する科学的な関心を呼び起こすことを期待しているとのことだ。

References:Long-term climate impacts of large stratospheric water vapor perturbations / Tonga’s volcanic eruption could cause unusual weather for the rest of the decade, new study shows / written by hiroching / edited by / parumo

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