世界最長寿の脊椎動物「ニシオンデンザメ」長生きの理由のひとつは筋肉の代謝にあった
image credit:WIKI commons CC BY-SA 4.0

 西洋ではグリーンランドシャークと呼ばれる「ニシオンデンザメ」の驚異的な長寿は、どうやら筋肉の代謝活動が大きく関係しているようだ。

 北大西洋や北極海の極寒の海で生きるニシオンデンザメは、脊椎動物としてはもっとも長生きで、500年は生きる可能性がある超長寿生物だ。
なにしろ日本の室町時代末期から生きてい個体が見つかったくらいだ。

 だが、一体どのような進化を遂げれば、これほど長生きできるようになるのだろうか?

 従来の仮説では、ニシオンデンザメが暮らす寒冷な環境とあまり体を動かさないライフスタイルが関係していると考えられていたが、どうももっと複雑な要因が絡んでいるようだ。

ニシオンデンザメの代謝を調査 英国マンチェスター大学の博士課程の学生ユアン・カンプリソン氏によれば、「ほとんどの種は、年をとると代謝にバラツキ」が出るのだという。

 そこで彼らは、ニシオンデンザメの代謝もまた老化によって変化するのか調べてみることにした。

 具体的には、ニシオンデンザメの筋肉のサンプルを分光光度計で測定し、そこに含まれる酵素が年齢や温度の違いによってどのような影響を受けているのか分析するのだ。

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マンチェスター大学のユアン・キャンプリソン氏と研究チームは、ニシオンデンザメからサンプルを採取した / image credit:Ewan Camplisson年をとっても筋肉の代謝が変わらないことが判明 そして明らかになったのは、筋肉の代謝は年齢によってほとんど影響を受けていないということだ。

 つまりニシオンデンザメは、老化してもほとんど代謝が低下しないのだ。このサメの長寿に強く関係していると考えられる驚きの事実である。

 「多くの動物は、老化によって代謝酵素の活性に何らかの変化が現れるようになりますが、それとはまるで違います」

 以前からカンプリソン氏は、ニシオンデンザメはほかの動物のような老化の兆候を示さないだろうと考えてきたが、この仮説があらためて裏付けられたことになる。

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海水温度が上がると代謝が活発になることも判明 この分析ではさらに、海水の温度が高くなると、ニシオンデンザメの代謝酵素が大きく活性化することも明らかになった。

 これも意外な結果だ。カンプリソン氏の事前の予想は、このサメの筋肉が極寒の海向けの特別仕様で、水温が低いほど代謝が活発になるというものだった。
ところが、そうではなかったのだ。

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ニシオンデンザメの生態の解明と保護 ニシオンデンザメは、北大西洋全域と沿岸沖の大陸棚地帯に生息する。英名のグリーンランドシャークが示すように、グリーンランドにも分布している。

 ツノザメ目の最大種で、最大体長7.3m。体色は灰色で、近縁種のオンデンザメと同じく深海性だが、エサを求めて浅海や河口付近にも上がってくるなど行動範囲は広い。

 また、泳ぐ速さは時速1kmほどで、サメ類に限らず大型魚類の中でも極端に遅いことが分かっている。

 驚異的寿命をもつニシオンデンザメだが、それが仇となって、地球温暖化への適応が難しく、絶滅の危険があると考えられている。
ニシオンデンザメのメスは150歳になるまで性的に成熟しないかもしれません。このように世代の感覚が長いために、人間が引き起こす環境の変化に適応することが難しいのです(ユアン・カンプリソン氏)
 カンプリソン氏は今後も、ニシオンデンザメの代謝活動を解明するために、酵素や組織の検査を行う予定だとのことだ。

 彼の最終的な目標はこの種を守ることです。そのための最善の方法が、サメをよりよく理解することだと語る。

 またこうした研究は、私たち人間の心臓や血管の健康を守ることにも応用できると期待されるそうだ。


 この研究は、2024年7月2~5日にプラハで開催された『Society for Experimental Biology Annual Conference』で発表された。

References:Discovering new anti-aging secrets from the w | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo

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