コウモリすごく賢い種が存在する。人間に匹敵する認知能力を持つエジプトルーセットオオコウモリ
 コウモリは哺乳類の中でとても種類が多いグループで、約1000種類以上が世界中に存在するが、中には驚くべき能力を持つコウモリがいるようだ。

 テルアビブの研究チームがエジプトルーセットオオコウモリ(Egyptian fruit bat)の生態を調査したところ、人間だけが持っていると考えられていた、高度で複雑な認知能力があることが明らかになったのだ。


 このコウモリは、過去の経験(エピソード記憶)を思い出して次の行動に生かしたり、前もって計画を立てることができるし、時間の経過を認識することもできる。さらには目先の欲にとらわれず、我慢することもできるのだという。

人間以外にも高度な認知能力を持つ動物はいるのか? これまで、高度で複雑な認知能力は人間だけが持つものと思われてきたが、動物にもあるのだろうか?この疑問に答えを出すため、テルアビブ大学の動物学部、ヨッシ・ヨベル教授ら率いる研究チームは、エジプトルーセットオオコウモリ(Egyptian fruit bat)の生態調査を行った。
長年、個人的な経験を思い出して将来の計画をたてることができる認知能力をもつのは人間だけだと考えられてきました。

現在では、さまざまな動物もそうした能力を持っていることを示す研究が増えていますが、それらはほとんどは実験室内での研究で、現場での研究は難しいためほとんどありません。

そこで野生動物で実験を行うために、テルアビブ大学構内にあるマイヤー・シーガルズ動物研究園で放し飼いにされている、ほぼ野生状態のエジプトルーセットオオコウモリの生態を観察し、調査しました(ヨッシ・ヨベル教授)
エジプトルーセットオオコウモリとは? エジプトルーセットオオコウモリは、アフリカや中東に生息するオオコウモリの一種で、主食は主にフルーツだ。

 大きさは12~19cm、体重は100~150gと小柄ながら、オオコウモリの仲間では唯一超音波を出し、エコロケーション(反響定位)を行うことができる。

 洞窟やマングローブ林などに20~40頭の群れをつくって暮らしており、寿命は野生下で10年以上、飼育下では20年以上だ。

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コウモリがエサを入手する方法に着目 研究チームはまず、生存のために果樹に異存しているこのオオコウモリが、空間的(果物の木はどこにあるのか)、時間的(それぞれの木はいつ実をつけるのか?)観点から、どのようにエサを得ているのかを調査した。

 たくさんの果樹がなり、蜜の源となる木がある環境の中を飛び回るコウモリは、適切なタイミングで木々を訪れるために、効率的にエサを追跡しなくてはならないはずだ。

 この仮説を検証するために、それぞれのコウモリに小さな高解像度GPSトラッカーを取りつけ、数ヶ月にわたってその飛行ルート、訪れた木々を記録した。

 こうした集めた膨大なデータを徹底的に分析した結果、驚くべき結果がわかった。


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photo by iStockコウモリは時間の経過を認識できる 最初の疑問は、「コウモリは時間の経過を認識することができるのか?」ということだった。これを調査するために、コウモリを1日、1週間などさまざまな期間でコロニーから出られないようにしてみた。
コウモリが時間の経過を認識し、それに応じた行動をとれるかどうかを調べたかったのです。足止めをくらってから1日後、コウモリたちは前夜に訪れた木に戻ってくることがわかりました。

しかし、1週間が過ぎると、年配のコウモリほど過去の経験に基づいて実をつけなくなった木には戻らないようになりました(ヨッシ・ヨベル教授)
つまり、コウモリたちは最後にそれぞれの木を訪れたときから、どれくらいの時間がたったかを推定することができ、どの木が短期間しか実をつけず、再び訪れる価値がないかを知ることができるのです。

まだ若くて経験の浅いコウモリはこうしたことはできませんでした。これは後天的に習得したスキルであることがわかります(ヨッシ・ヨベル教授)


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研究対象となったエジプトルーセットオオコウモリ / image credit:Tel Aviv Universityコウモリは未来を予測して計画を立て、目先の欲にとらわれない 次に、コウモリたちは未来のことを予測した行動、つまり計画をたてることができるのかどうかを調べた。

 このため、コウモリたちが夕方最初に向かう木へのルートを観察した。エサを探しにコロニーを飛び立つ前に計画性があるかどうかを示している可能性があるからだ。

 その結果、コウモリたちはたいてい、知っている特定の木に直接飛んでいくことがわかった。20分、30分もかかる遠くの木に飛んでいくこともあった。

 目的の木が遠くにあるほど、速く飛ぶこともわかった。
これはコウモリが向かう先をちゃんと計画していることを示している。

 さらに、コウモリは自分が選んだターゲットを目指すため、昨日訪れたばかりの他のもっといい木には目もくれない。

 これは、欲求を先延ばしにできる能力があることを示している。

 また、最初にコロニーを飛び立った空腹のコウモリは、糖分の豊富な実をつける木を選び、遅れて飛び立ったそれほど空腹でないコウモリはタンパク質を求めることもわかった。

 こうした事実は、コウモリたちがコロニーを出発する前から、エサ探しの計画をたてていて、自分がどこを飛んでいて、どんな栄養素を求めているのかをちゃんとわかっていることを示していることになる。

 ヨベル教授は言う。
人間と動物の認知能力のギャップは、科学においてもっとも興味深い問題のひとつです。

私たちの研究は、オオコウモリが認知能力を示す3つの問い、つまり「どこ?」(目的の木がある場所)、「いつ?」(木が実をつける時期)、「なに?」(木が提供してくれる栄養は糖分なのかタンパク質なのか)という非常に複雑な意思決定プロセスを実行できることを実証したのです
 ヨベル教授は、この研究結果を受け、人間と動物の認知能力のギャップははっきりと明確なものではなく、人間はこれまで考えられていたほど特別な存在ではないのかもしれないと考えている。

 この研究は『Current Biology』(2024年6月20日付)に掲載された。

References:Wild bats found to possess high cognitive abilities previously considered exclusive to humans / written by konohazuku / edited by / parumo

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