その仮説上の物理現象を「ファイアボール」という。
標準モデルでは説明不能な反粒子 すべての素粒子には、その反対の電荷を持つ反粒子が存在しており、それらが互いに接触するとどちらも消滅する。反粒子から構成される物質を反物質という。
理論的には、宇宙に存在する物質の半分は反物質で、それゆえにこの宇宙はビッグバン直後に自滅すると予測できる。
ところが、現実の宇宙において反物質はほとんど存在せず、しかも短命だ。
粒子加速器で陽子や電子を衝突させれば反粒子を作れるし、宇宙で起きた高エネルギーの衝突(たとえば超新星爆発)で生じた反粒子を観測する検出器もある。それでも、せいぜい陽電子(=反電子)や反陽子などがたった1つ観察されるのがいいところだ。
2016年前、そんな常識をくつがえす出来事があった。国際宇宙ステーションに搭載されたアルファ磁気分光計が、10個もの反ヘリウム原子核を検出したのだ。
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この原子核は、反陽子2個と反中性子1~2個で構成されており、反中性子の数によって「反ヘリウム3」と「反ヘリウム4」とに区別される。
ペリメーター理論物理学研究所のマイケル・A・フェデーケ氏がによると、「反ヘリウム4を作るには、少なくとも3~4個の反陽子と反中性子が近くにあり、離れないようゆっくりと動いている必要がある」という。
これは素粒子の振る舞いを説明する「標準モデル」から言えることだ。
ところが、国際宇宙ステーションで検出されたデータは、2~3個の反ヘリウム3に対して1個の反ヘリウム4があるらしいことを告げていたのだ。
これは標準モデルによる予測を圧倒的に上回っている。
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photo by iStock未知の物理現象「ファイアーボール」仮説 『Physical Review D』(2024年6月21日付)に掲載された研究では、この不可解な食い違いを説明するため「ファイアボール」なる未知の物理現象が提唱されている。
ファイアボールは、大量の反粒子を含む高密度でエネルギッシュな空間の領域のことで、ダークマターの塊の衝突など、現時点ではまだ観測されていない現象から生じるとされる。
ジョンズ・ホプキンス大学のアヌバフ・マトゥール氏によると、「形成されると、光速に近いスピードで広がり、反陽子・反中性子・反ヘリウムを周囲に放出」するのだという。8年前に検出されたのは、それらの一部が地球にまで届いたものかもしれない。
研究チームは、このファイアボールをくわしく知るために、モデル化してそのサイズや挙動を分析している。
すると、それがたくさんのダークマター粒子でできた大きな”複合物”であると仮定すると、件の反ヘリウム原子核の量にうまく一致することがわかったという。
ただしこれらはあくまで仮説であり、今後更なる検証が必要になる。
反物質に関連する国際的プロジェクトの1つ「GAPS(General AntiParticle Spectrometer)」では、今年後半に南極上空に気球を飛ばし、宇宙線に含まれる反物質の検出を試みる。
もしかしたら、こうしたプロジェクトから今回の謎を解明するヒントがもたらされるかもしれない。
References:Phys. Rev. D 109, 123028 (2024) - Fireball antinucleosynthesis / Antimatter detected on International Space Station could reveal new physics | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo
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