宇宙の微小重力では筋肉の老化が加速する、その理由が判明

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 培養された人間の筋肉細胞「筋肉チップ」が国際宇宙ステーションへと打ち上げられた。宇宙環境が人間の筋肉に与える影響を調べるためだ。

 その結果、微小重力下で1週間過ごした筋肉細胞は、地球上の数年分のとても速いペースで筋力が老化したことが明らかとなった。

 重力に乏しい環境では、遺伝子や代謝の働きが「筋肉より脂肪を作るようにシフト」する。そのせいで老化よりもずっと速いペースで筋肉細胞が衰えるという。

 だが『Stem Cell Reports[https://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/S2213-6711(24)00190-5?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2213671124001905?showall=true]』(2024年7月25日付)に掲載された研究は、少なくとも部分的には薬によって筋肉の低下を予防できることも報告している。

宇宙の微小重力では筋肉にどんな影響を与えるのか?

 スタンフォード大学のンガン・ファン准教授は、「宇宙は老化に関連する物事を加速させ、健康なプロセスを邪魔する独特な環境です」と説明する。

 宇宙から地球に帰ってきた宇宙飛行士は、筋力が弱まることが知られていた。地上よりもずっと弱い重力しかない環境では、筋肉があまり使われなくなるからある程度は当然のことだが、あまりにも筋力の低下が激しいのだ。

 これまで宇宙はごく一握りの限られた人間しか行くことができなかったが、近い将来、一般人にとってももっと身近な場所になるかもしれない。

 だから微重力が筋肉にどのような影響を与えるのか詳しく理解するのはとても大切なことだ。

 そこでファン准教授のチームは、国際宇宙ステーションに「筋肉チップ」を送り、微小重力環境が筋肉に与える影響を調べてみることにした。

 筋肉チップは人間の筋肉細胞を培養して、チップの上に置いたもので、これを1週間(7日間)宇宙で育て地球上のものとどう違うのか比べてみた。

 すると、筋線維がうまく形成されていないことがわかったのだ。

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遺伝子が筋肉モードから脂肪モードに移行し、筋力の低下が加速

 詳しく調べてみると、遺伝子の働きや発現(遺伝子活性)、さらにはタンパク質の種類や量などにも違いが出ることがわかった。

 筋肉は細胞内にあるミトコンドリアからエネルギーを得ている。

ところが宇宙で育った筋肉細胞では、このミトコンドリアに関連する遺伝子の働きが弱まり、かわりに脂肪形成に関連する遺伝子が働き始めるのだ。

 つまり遺伝子が筋肉モードから、脂肪モードに切り替わる。

 歳をとれば誰しも筋肉の量が少なくなっていく。こうした症状を「サルコペニア[https://web.archive.org/web/20250108052244/https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-087.html]」と呼ぶが、宇宙が筋肉に与える影響はこれにも似ている。

 ただし、ファン氏によれば、そのスピードは地球上よりもずっと速いという。

 「サルコペニアは通常、数十年かけて進んでいきますが、微小重力はその進行を数日に加速させるかもしれません」

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筋肉低下を食い止める治療薬

 宇宙に憧れる人にとっては嬉しくないニュースだが、希望はある。薬を使えば、筋肉の低下を多少なりとも予防できると考えられるからだ。

 実験として、筋肉チップにサルコペニアの治療薬や筋肉再生をうながす薬を投与したところ、部分的には筋肉の低下を防ぐことができた。

 また投薬された筋肉チップは、筋肉モードから脂肪モードへの遺伝子活性の変化も防止されていた。

 その遺伝子活性パターンを調べると、投薬した筋肉チップは、十分な重力のある地上のサンプルに近いものだったという。

 ただし今回の研究は、限られた数の実験サンプルを用いた、たった一度限りのものでしかない。宇宙での研究は、多大な労力とコストがかかるため、そう気軽に行うことはできないのだ。

 こうした制限を克服するために、研究チームは現在、微小重力を再現する装置を導入して、さらなる研究に励んでいる。

 また筋肉チップは、2025年に再び宇宙に打ち上げられ、宇宙での筋力低下を予防してくれる薬探しが行われる予定であるそうだ。

References:Space-trekking muscle tests drugs for microgr | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1051742] / written by hiroching / edited by / parumo

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