
アメリカの科学者たちは、月面に多種多様な地球上の生物サンプルを保管する施設「バイオリポジトリ」を建設するべきだと提案している。
現在、地球上のさまざまな動植物が絶滅の危機にある。
そうしたサンプルは、そのDNAを利用して絶滅危惧種の遺伝的多様性を高めることができるし、絶滅という最悪のケースであっても、クローンを作成して復活させることも可能だ。
さらに将来的には地球以外の惑星をテラフォーミングする際に使えるかもしれないという。
現代版のノアの方舟 旧約聖書で語られるノアの方舟の物語では、ノアが巨大な船にさまざまな動物たちを乗せ、神が引き起こす洪水から彼らを守った。これと同じことを、現代の技術で行おうというのだ。
似たようなことなら実際に行われている。
例えば、北極圏のスヴァールバル諸島に設置された種子バンク「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」は、病気や干ばつによって大切な作物が絶滅してしまった場合に備えて、種子を冷凍保存している。
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スヴァールバル世界種子貯蔵庫 / image credit:Subiet WIKI commons CC BY-SA 4.0地球上にもはや安全に保管できる場所はない これと同じような施設を月に作ろうというのが、スミソニアン国立動物園・保全生物学研究所のメアリー・ヘイゲドーン博士らのアイデアだ。
じつは月で生物多様性を保存しようというアイデアは、過去にも、アリゾナ大学の研究者らにより提唱されたことがある。
わざわざそんなところに保管施設を作ろうと提案されるのも、地球には絶対安心な保存場所などもはやないと思われるからだ。
例えば、北の果てにあるはずスヴァールバル世界種子貯蔵庫は、温暖化の影響で危うく洪水による被害を受けるところだった。
ヘイゲドーン博士は、「人がいなければ、種子バンクは洪水の被害を受けたかもしれません」と説明する。
彼女はさらに戦争のリスクも指摘する。実際、2022年にはウクライナの種子バンクが破壊された。
だが、月ならばそうした人災や天災とは無縁でいられる。だからこそ、月は生物多様性を守るうえで理想的な場所だと考えられるのだ。
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photo by iStock月に生命サンプルを保管する理由 月は天然の冷凍庫だ。極地近くにあるクレーター内部なら、1年中太陽の光が当たることはない。
だから人間が管理したり、電力を供給したりすることなく、マイナス196度という超低温の冷凍庫を用意することができる。
そしてこうした環境で、クローン作成に不可欠な生きた細胞を保管する技術ならばすでにある。
例えば、ヘイゲドーン博士らはすでに、細胞が活動を停止するほどの低温で、ホシハゼという魚の細胞を生きたまま保存することに成功している。
ちなみにホシハゼは絶滅が危惧されているわけはないが、生態系において重要な役割を果たしている。
今回のバイオリポジトリ(生物サンプル保管施設)では、絶滅の危機に瀕した生き物だけでなく、ホシハゼのような生態系において重要な役割を担う種も優先的に保存していこうと提案している。
こうして保存された細胞は、絶滅種を復活させるだけでなく、今生きてはいるが数が減ってしまった種の遺伝的多様性を高めるためにも使える。
将来的には地球以外の惑星を人間が暮らしやすいようテラフォーミングするためにも便利かもしれない。
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photo by iStock今いる生物を保護することも大切だが、もしもの時の備えも必要 ヘイゲドーン博士は、いずれバイオリポジトリは実現するだろうと信じているが、近い将来という意味ではない。
これに対し、ヘイゲドーン博士は、できるだけ生き物たちを守るには、どちらのやり方も必要だと考えている。
プランAがうまくいかなかった場合に備えて、プランBが必要となる。いわばバックアップをとるようなものなのだという。
バイオリポジトリ計画の重要な次のステップは、月の環境に耐えられるサンプル用の梱包を開発し、それを月に運ぶ物流面の課題をクリアすることであるそう。
いずれ月面で資源採掘が始まれば、地球と月との往来は今よりずっと増えるはずなので、それを利用できるだろうとのことだ。
またヘイゲドーン博士らは、こうした大胆なアイデアが刺激となって、地球の生物多様性を守るための取り組みが活発になればと願っている。
この研究は『BioScience』(2024年7月31日付)で発表された。
References:Scientists propose lunar biorepository as ‘backup’ for life on Earth | Biodiversity | The Guardian / With biodiversity under threat, scientists suggest the need for a new biorepository—on the moon / written by hiroching / edited by / parumo
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現在、地球上のさまざまな動植物が絶滅の危機にある。
そこで天然の冷凍庫である月に、そうした絶滅危惧種の細胞を保存し、絶滅に備えようというのだ。いわゆる現代版ノアの箱舟のようなものだ。
そうしたサンプルは、そのDNAを利用して絶滅危惧種の遺伝的多様性を高めることができるし、絶滅という最悪のケースであっても、クローンを作成して復活させることも可能だ。
さらに将来的には地球以外の惑星をテラフォーミングする際に使えるかもしれないという。
現代版のノアの方舟 旧約聖書で語られるノアの方舟の物語では、ノアが巨大な船にさまざまな動物たちを乗せ、神が引き起こす洪水から彼らを守った。これと同じことを、現代の技術で行おうというのだ。
似たようなことなら実際に行われている。
例えば、北極圏のスヴァールバル諸島に設置された種子バンク「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」は、病気や干ばつによって大切な作物が絶滅してしまった場合に備えて、種子を冷凍保存している。
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スヴァールバル世界種子貯蔵庫 / image credit:Subiet WIKI commons CC BY-SA 4.0地球上にもはや安全に保管できる場所はない これと同じような施設を月に作ろうというのが、スミソニアン国立動物園・保全生物学研究所のメアリー・ヘイゲドーン博士らのアイデアだ。
じつは月で生物多様性を保存しようというアイデアは、過去にも、アリゾナ大学の研究者らにより提唱されたことがある。
わざわざそんなところに保管施設を作ろうと提案されるのも、地球には絶対安心な保存場所などもはやないと思われるからだ。
例えば、北の果てにあるはずスヴァールバル世界種子貯蔵庫は、温暖化の影響で危うく洪水による被害を受けるところだった。
ヘイゲドーン博士は、「人がいなければ、種子バンクは洪水の被害を受けたかもしれません」と説明する。
彼女はさらに戦争のリスクも指摘する。実際、2022年にはウクライナの種子バンクが破壊された。
だが、月ならばそうした人災や天災とは無縁でいられる。だからこそ、月は生物多様性を守るうえで理想的な場所だと考えられるのだ。
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photo by iStock月に生命サンプルを保管する理由 月は天然の冷凍庫だ。極地近くにあるクレーター内部なら、1年中太陽の光が当たることはない。
だから人間が管理したり、電力を供給したりすることなく、マイナス196度という超低温の冷凍庫を用意することができる。
そしてこうした環境で、クローン作成に不可欠な生きた細胞を保管する技術ならばすでにある。
例えば、ヘイゲドーン博士らはすでに、細胞が活動を停止するほどの低温で、ホシハゼという魚の細胞を生きたまま保存することに成功している。
ちなみにホシハゼは絶滅が危惧されているわけはないが、生態系において重要な役割を果たしている。
今回のバイオリポジトリ(生物サンプル保管施設)では、絶滅の危機に瀕した生き物だけでなく、ホシハゼのような生態系において重要な役割を担う種も優先的に保存していこうと提案している。
こうして保存された細胞は、絶滅種を復活させるだけでなく、今生きてはいるが数が減ってしまった種の遺伝的多様性を高めるためにも使える。
将来的には地球以外の惑星を人間が暮らしやすいようテラフォーミングするためにも便利かもしれない。
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photo by iStock今いる生物を保護することも大切だが、もしもの時の備えも必要 ヘイゲドーン博士は、いずれバイオリポジトリは実現するだろうと信じているが、近い将来という意味ではない。
私たちはこれを可能にする方法を知っており、実際にそれが可能で、実行するつもりでもいます。ただし最終的に実現するには数十年かかるかもしれません一方、こうした万が一に備えて種を保存しようというアイデアに対しては、そんなことにお金や労力を費やすよりも、今生きている生物たちを守ることに力を注ぐべきだという意見もある。
これに対し、ヘイゲドーン博士は、できるだけ生き物たちを守るには、どちらのやり方も必要だと考えている。
プランAがうまくいかなかった場合に備えて、プランBが必要となる。いわばバックアップをとるようなものなのだという。
バイオリポジトリ計画の重要な次のステップは、月の環境に耐えられるサンプル用の梱包を開発し、それを月に運ぶ物流面の課題をクリアすることであるそう。
いずれ月面で資源採掘が始まれば、地球と月との往来は今よりずっと増えるはずなので、それを利用できるだろうとのことだ。
またヘイゲドーン博士らは、こうした大胆なアイデアが刺激となって、地球の生物多様性を守るための取り組みが活発になればと願っている。
この研究は『BioScience』(2024年7月31日付)で発表された。
References:Scientists propose lunar biorepository as ‘backup’ for life on Earth | Biodiversity | The Guardian / With biodiversity under threat, scientists suggest the need for a new biorepository—on the moon / written by hiroching / edited by / parumo
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