それは論文の本文だけで55もの方程式があり、さらに付録として67もの方程式が記された、きわめて複雑な計算だ。
だが、なぜあえてそんな面倒な計算を? と思うかもしれないが、宇宙時代の時間を管理するのに必要なことなのだそうだ。
宇宙時代の時間管理 今日の世界において、時間の管理は非常に重要だ。と言うのも、通信やGPSネットワークをきちんと機能させるには、信号のタイミングを正確に把握する必要があるからだ。
そしてそのためには、一般相対性理論の影響も考慮せねばならない。同理論によれば、重力が強いところでは、時間の流れが遅くなる。
それゆえにGPS衛星が飛び回る高さでは、時間が地上よりも速く進む。さらにややこしいことに、人工衛星は高速で移動しているため、それによって今度は時間が遅くなる。
話が地球上に限られているのなら、こうした影響をうまくまとめるのは、そう難しいことではない。しかし今後は地球の外にも目を向けねばならない。
人類が月への本格的な進出を計画しているからだ。
かつてのアポロ計画ではほんの数個の機器の動きを追跡しておけば十分だった。
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image credit:NASA月と地球は時間の進み方が違う しかし、そこでの時間の進み方は地球とは少々違う。
月は重力がかなり弱い。ゆえに時間が速く進む。重力が弱いので、月軌道を周回する人工衛星は、地球のそれよりゆっくりとしたスピードで滞在できる。これも時間の流れを速くする。
状況によっては、地球とは切り離された月だけのGPSで事足りることもあるだろう。
だが地球と月とで別々の時間管理システムを利用するとなると、地球・月間を移動する宇宙船は、その都度システムを切り替えねばならなくなる。
さらに地球と月との時間を正確に同期させねばならないケースもある。たとえば、事象の正確なタイミングが重要となる天文学だ。
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月に基地を作り、その資源を活用し、太陽系の他の惑星へのミッションの出発点として利用するなら月面GPSが必要となってくる / image credit:NASA地球と月の重心を基準とした方程式で時間を同期 このほど『The Astronomical Journal』(2024年8月12日付)に掲載されたのは、地球と月との時計を完璧にシンクロさせるための方法だ。
天文学者が月で宇宙を研究するうえでは正確な時間管理が不可欠となる。そこで国際天文学連合(IAU)は、「月の天体参照系」と「月の座標時間」の導入を求めていた。
米国国立標準技術研究所(NIST)のニール・アシュビー氏とビジュナース・パトラ氏はこれに応え、そのための数学的解答を示したのである。
その基準となるのは、地球と月の重心だ。
これについてこの論文は、「太陽の重力場内における地球‐月系の重心のような局所的に自由落下する座標系を使用することで、月面や地球‐月ラグランジュ点にある時計の進む速さを、地球上の時計と比較できるようになる」と説明する。
なんだかよく意味がわからないが、その数学的な記述も複雑だ。論文の本文には55の方程式が記されており、付録にも67の方程式がある。
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これはその一部だが、ご覧の通り、月と地球の時計をシンクロさせるには複雑な計算が必要になる / image credit:shby and Patla, 2024
これほど複雑なのは、考慮せねばならない要素がやたらと多いからだ。
たとえば、太陽やほかの惑星からの潮汐効果、地球や月の自転による地表の物体の移動、軌道における物体の移動など諸々だ。重力が時間に与える影響は、物体がどこにあるかで左右されるので、とにかく複雑になる。
とは言っても、つねにすべての要素を考慮せねばならないわけではない。
それでも月のそばにある時計は毎日56マイクロ秒ズレるので、ナノ秒単位の正確さが必要な状況では無視することができない。
なおこの研究のテーマは地球と月の時間だが、一般化することもできるという。
つまり、このアプローチを微調整すれば、月だけでなく、太陽系のほかの天体の時計をも地球とシンクロさせられるということだ。
今後、人類の宇宙進出がさらに進めば大きな意味を持ってくるはずだ。
References:What Time Is It on the Moon? | NIST / Researchers figure out how to keep clocks on the Earth, Moon in sync | Ars Technica / written by hiroching / edited by / parumo
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