星を飲み込むブラックホールは、まるでスパゲッティを食べる5歳児のようだ。つまり、盛大に”おつゆ”を飛ばす。
『The Astrophysical Journal Letters』(2024年8月20日付)に掲載された研究は、このプロセスを1年にわたり再現したこれまでで最も詳細なシミュレーションだ。
超大質量ブラックホールの重力に捕まった星は、粉々に引き裂かれ、スパゲッティのように細く引き伸ばされ落下していく。これを「潮汐破壊現象」という。
その結果、何がわかったのか? それはなぜかブラックホールが太陽系の数倍も大きいという、これまで天文学者たちを悩ませてきた謎の答えだ。
ブラックホールに引き割かれスパゲッティ化「潮汐破壊現象」 潮汐破壊現象についての理論が最初に提唱されたのは1970代から80年代にかけてのことだ。
イギリスの天文学者マーティン・リースの理論によれば、星の破片の半分はブラックホールに捕えられ、渦巻きのような円盤(降着円盤)を形成する。
こうした円盤は、それ自体と衝突して高温で輝き、大量のX線を放つだろうと考えられた。
ところが、これまでに検出された潮汐破壊現象と考えられる100以上の候補は、X線ではなく可視光で光り輝いているのだ。
ついでに、その温度はわずか1万度程度。これは中レベルの温かい恒星の表面温度くらいのもので、超大質量ブラックホール周辺にただようガスから予想される数百万度もの超高温とはまるで違う。
そのうえ、そうしたブラックホール周囲の物質は、太陽系の数倍にも広がっている。それどころか光速の数パーセントのスピードでブラックホールから遠ざかっている。
ブラックホールは太陽の数百万倍もの質量を持つというのに、その大きさは太陽の少し大きい程度だ。だからそれを包む輝く物質の巨大さは、天文学者の予想を完全に上回っていた。
こうしたことを説明するには、どうにかしてブラックホールが物質で厚塗りされていると想定するしかない。
これまでそれが具体的にどのように起きるのかわからなかったが、今回のシミュレーションはその謎を解く手助けになるだろう。
子供のようにこぼしながら星を食べるブラックホールブラックホールの食事は決してお行儀が良いものではない。
モナシュ大学(オーストラリア)の天文学者ダニエル・プライス教授に言わせれば、それは「スパゲッティを食べる5歳児」のようだという。
彼らのチームは、超大質量ブラックホールの潮汐破壊現象を再現するために、一般相対性理論が予測するあらゆる奇妙な影響を考慮したシミュレーションモデルを構築し、オーストラリア最強のスーパーコンピュータで実行した。
それは星がスパゲティのように引き伸ばされてブラックホールに落下する様子を1年にわたって追跡したもので、ブラックホールの「すすり」から「げっぷ」まで完全に描写した史上初のものだという。
それは確かに盛大にスパゲッティを食い散らかす子供のようだ。
ここから明らかになったのは、ブラックホールに実際に落下するのは星のほんの1%程度の物質だけだということだ。残りは強力なアウトフローとなって、ほぼ球状に広がっていく。
一度にたくさん飲み干せないのは、人間もブラックホールも同じであるようだ。
シミュレーションには、光学望遠鏡で観察した場合にどう見えるかを再現したバージョンもある。そしてそれは、これまで天文学者が想定してきた”厚塗り”が正しかったことを裏付けている。











