見た目はまるで宇宙人のサラダに入っていそうな奇妙な形をしたウミウシだが、その能力は星のカービィのようだ。
レタスウミウシ（Elysia crispata）は、海藻が光合成をするための葉緑体を体内に取り込み、それをソーラーパネルのように背中に集めて太陽光からエネルギーを作り出す能力を自分のものにしてしまうのだ。
ハーバード大学の細胞生物学者コーリー・アラード氏は、「他の生物の一部を細胞内に取り込んで利用するなんて、これほど奇妙な生態は初めてです」と語る。
この研究は『Cell［https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(25)00637-3?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0092867425006373?showall=true］』（2025年6月25年付）に掲載された。
他の生物の能力を自分のものにするレタスウミウシ
レタスウミウシ（Elysia crispata）は、大西洋西部やカリブ海の温かい海に生息する「ゴクラクミドリガイ属」の仲間だ。
体長は最大5cmで、フリフリのリボンや、海の紫陽花を思わせる姿が幻想的だ。
その繊細な姿に反して、レタスウミウシには他の生物の能力を奪うというパワフルな力があることが以前から知られていた。
今回、ハーバード大学の生細胞生物学者コーリー・アラード氏は、この仕組みの解明を試みている。
海藻の葉緑体を消化せずに袋に保存
その結果明らかになったのは、レタスウミウシが食べた海藻の「葉緑体」を消化せず、腸内にある小さな袋状の器官に収納するということだ。
「クレプトソーム（kleptosomes）」と命名されたこの袋の中で、葉緑体は膜に包まれ、生きたまま保存される。
その後、葉緑体は背中に移送され、まるでソーラーパネルのように光合成を行うようになる。
だがそれによって作られるエネルギー源は、海藻ではなく、ウミウシによって使われる。
光合成だけではない葉緑体の役割
こうした葉緑体は単なる光合成、ソーラーパネル以上の機能があると考えられている。
これらの葉緑体は、単なるソーラーパネル以上の働きをしているのかもしれません。保存食やカムフラージュ、あるいは捕食者に不味さを感じさせる手段でもあるでしょう（アラード氏）
そうのような機能をできるだけ長く利用するために、レタスウミウシは葉緑体に積極的に働きかけているようだ。
今回の分析では、レタスウミウシに吸収された葉緑体には、海藻タンパク質だけでなく、ウミウシ由来のタンパク質も含まれていることが明らかになっている。
これはレタスウミウシが葉緑体を生かし続けようと何かをしている証拠だ。
レタスウミウシの体の色と健康状態の関係
またアラード氏らは、レタスウミウシの体の色が健康状態に関係している可能性も指摘する。
十分に栄養をとっている個体は緑色だが、飢餓状態になるとオレンジ色に変わるのだ。
皮肉なことに、レタスウミウシは葉緑体だけでは生きていけないようだ。
他に食べ物がなくなってしまうと、最終的には葉緑体まで消化してしまう。
つまりせっかくの生体ソーラーパネルは永遠に機能するわけではなく、耐用期間が一定に限られているようだ。
進化の謎を解き明かす手がかりに
レタスウミウシの研究は、将来的に生物が他の生物から能力を取り込むメカニズムを解き明かす手がかりになるかもしれない。
その理解は私たちの進化を知るうえでも重要なことだ。というのも、私たちの遠い祖先もまた過去に同様のことをした可能性があるからだ。
じつは人間をはじめ、ほとんどの動物の細胞内にある小器官「ミトコンドリア」は、かつては別の生物だったのではないかと考えられている。
大昔、別々の生物だった私たちの祖先とミトコンドリアの祖先は、どのようにして共に生きる道を選んだのか？
そのヒントをレタスウミウシが与えてくれるかもしれない。
References: Cell.com［https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(25)00637-3?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0092867425006373］ / Sea Slugs Steal Body Parts From Prey to Gain Their Powers［https://www.sciencealert.com/sea-slugs-steal-body-parts-from-prey-to-gain-their-powers］
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。
