
2025年6月5日、音楽配信サービスのSpotifyに突如あるバンドが綺羅星のごとく現れて、あっという間に月間リスナーが100万人を突破した。
その名も「ヴェルヴェット・サンダウン(The Velvet Sundown)。
彼らは登場後1か月ちょいで3枚のアルバムを発表。驚異的なペースで次々と新曲を発表している。
実は彼らは実在するミュージシャンではなく、なんとAIが作った虚構のバンドだったことが判明した。
突如として現れた新人バンドがSpotifyを席捲
ヴェルヴェット・サンダウンが初めてSpotifyに登場して以来、彼らの曲は各国のチャートで人気急上昇。スウェーデンなどでは一位を獲得するまでになった。
中でも一番人気の「Dust on the Wind」を聞いてみよう。
だが彼らが一夜にして成功をおさめ、驚異的なスピードで次々に新曲やアルバムを発表している状況に、疑いの目を向ける人々が現れ始めた。
これだけ華々しく登場したというのに、ヴェルヴェット・サンダウンがどのようなバンドなのか、バックグラウンドが一切わからない。
メンバーについても同様だ。いったいどこの誰で、どのような音楽的背景を持っているのか、情報がまったく出て来ないのだ。
そこで音楽評論家やエンジニアが、彼らの楽曲の分析を開始。
さらにヴェルヴェット・サンダウンのInstagramを見てみると、バンドメンバーとして掲載されている「写真」が、どう見てもAI生成にしか見えない。顔がまずAI顔だし、指があり得ない位置にあったり本数がおかしかったり。
実は人間のいない、生成AIによるバンドだった!
7月5日、ヴェルヴェット・サンダウンのXアカウント[https://x.com/tvs_music]は、次のようなメッセージを投稿。このバンドには実在する人間は関与しておらず、生成AIによるものであることを公式に認めたのだ。
「The Velvet Sundown」は、人間の創造的なディレクションを基に、人工知能の支援を受けて作曲、ボーカル、ビジュアル化が行われた合成音楽プロジェクトです。
これはトリックではありません。「鏡」です。著作権やアイデンティティ、そしてAI時代における音楽の未来の境界線を問い直す、継続的な芸術的挑発なのです。
すべてのキャラクター、ストーリー、音楽、声、歌詞は、AIツールを創造的な道具として用いることで生まれたオリジナル作品です。
実際の場所や出来事、人物(生存中か故人かを問わず)との類似性は、純粋な偶然であり、意図的なものではありません。
人間でもなく、機械でもない。
ヴェルヴェット・サンダウンは、その中間にあるどこかに存在しています
ヴェルヴェット・サンダウンがAIだと判明した後、ネット上では賛否両論の激しい議論が巻き起こった。
- (画像の)死んだ目を見れば、偽物だってすぐわかるよ
- いや、もう全部が「ニセモノ」って言ってるようなもんだよね
- 誰もこんなの求めてない
- でも、ちょっと目を覚ますには必要なのかも
- このバンドに本気でハマって、会いに行きたい!ってなって調べたら、「実在しません」って知るって、想像してみてよ
- ヤバいのは、曲がダメダメなこと。「ホテル・カリフォルニア」っぽい雰囲気を狙ってるのがバレバレ。AIはアートが苦手なんだよ、人間の「ひらめき」の微妙なニュアンスなんて理解できないんだから。特に音楽ではね
- 私は好きだよ
- なんで?内容は薄っぺらだし、そもそもの発想がバカみたいじゃん
- でも彼らの曲が好きなんだよ。どうやって作られたかなんて気にしない
- 作り方を気にしないってことは、もう空っぽでいいって自分で認めてるようなもんだよ。中身のないノイズをただ消費することを、本物のアートとのつながりよりも選んでる。それって、自分自身への侮辱でもあるし、人間としての本質に対する侮辱でもある
- 聴いて心地いいとしても、AI音楽なんて存在すべきじゃない。音楽を作るという行為の意味や感情が、すべて台無しになるんだよ。こんなくだらないものを応援するのはやめてくれ
- ぜひツアーやってほしい
- 「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」みたいに、スクリーンで映像ストーリーを流して映画館で見せればいいんだよ。それをツアー形式にすれば、みんな観に来るって
- ねえ、誰かこれどうなってるのか説明してくれない?これ、違法にすべきじゃない?
- 本気で腹立たしいよ。みんなのツッコミが面白いのが救いだけどさあ、何なのこれ?そこそこ聴ける曲を出せるAIソフト持ってるってだけで、その人が全部の利益をかっさらっていくの? マジでイライラする
- 魂はどこにあるの?ああ、そうか。本物じゃないから無いんだよね
- これが彼ら自身で作ったのか、AIを使ったのかなんて正直どうでもいい。
音楽は素晴らしくて、聴いてて気持ちいい。アイデアも面白いし、多くの人がこの音楽を気に入ってる。現実のポップスターの中にも、まともに歌えない人はたくさんいるでしょ? いい音楽を作って、お金が稼げたんなら、それでOK。そのお金で車でも買って、思いっきり楽しめばいい。音楽が人を笑顔にして、幸せにするなら、それが一番大事。ライブに会いに行く必要なんてない。自分が好きな音楽を聴きたいだけなんだ
- 本物の音楽作りに人生をかけてきた人たちの努力と献身を差し置いて、AIという安直な近道、しかも正当な報酬も払わずに、他人の作品を学習したAIで作った作品で報酬を得るって、気持ちいいか? その音楽を市場に出して、本物のアーティストたちの収益や注目を奪ってることに、誇りを持てるのか? 胸を張れるのか?
- このペースで月2枚出し続けたら、音楽史上最多アルバム数の記録をAIが更新するかもね
- こんなの大嫌い。AIって、人類が生み出した最悪のもののひとつだよ
- 全部マジで変で最悪だけど……そこが最高に好き
音楽シーンに与えた衝撃と懸念
ヴェルヴェット・サンダウンの登場は、ミュージックシーンはもちろん、すべてのクリエイティブ界隈に大きな衝撃を与えることとなった。
生成AIへの反感も根強い中、もはやAIなのか実在の人間なのかを、視聴者の側が判断できなくなってきている。
さらに、AI生成した楽曲のもととなる膨大な学習データの、著作権の問題もクリアされていない。
オックスフォード大学で「AIと労働」を専門とするファビアン・ステファニー博士は、この件について次のように警笛を鳴らす。
機械が生成した音楽を、あたかも生身のアーティストの作品であるかのように見せかけることは、「真正性」 が貴重な商品となったこのタイミングで、信頼を損なうリスクがあります。
生成モデルは、著作権のある膨大な楽曲ライブラリを必然的にリミックスしているわけです。
これがフェアユースなのか、正当にライセンスされたサンプリングなのか、あるいは単なる侵害なのか、業界はまだ明確な判断を下していないのです
とはいえ、ヴェルヴェット・サンダウンの楽曲が、一定のリスナーの心に刺さるものであったのは間違いない。
実際にヴェルヴェット・サンダウンを聴いてみたけれど、なんだろう、ある世代にとっては確かに懐かしいサウンドではある。
具体的にはニール・ヤングとかバッド・カンパニーとか、カンザスとか、あと何だろう、ピンク・フロイドとか?
まあつまり、彼らの楽曲はあの古き良き時代の音源を学習させて作った音楽っていうことなんだろう。逆に今の世代にとっては新鮮なのかもしれないな。
References: New Viral Indie Rock Sensation Reveals They're 100% AI[https://www.sciencealert.com/new-viral-indie-rock-sensation-reveals-theyre-100-ai]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。