カメにも気分の浮き沈みがある。哺乳類と同じように“心の波”を持つ可能性が示される
アカアシガメ Photo by:iStock

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 爬虫類にも感情や認知能力がある可能性は、これまでも一部の研究で示されてきた。そうした中、イギリスの研究チームがアカアシガメに「気分の浮き沈み」があることを示唆する新たな実験結果を発表した。

 特別なきっかけがなくても、しばらく前向きな気分が続いたり、不安な状態が続いたりする、そんな“心の波”がカメにもあるかもしれないというのだ。

 この研究は、爬虫類の「感じる力」について、理解を一歩深めるきっかけとなるかもしれない。

 この研究は『Animal Cognition[https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-025-01973-y]』誌(2025年6月28日付)に掲載された。

行動から気分を読み取るテストをアカアシガメに初実施

 イギリス、リンカーン大学の行動科学研究チームは、15匹のアカアシガメを対象に、哺乳類や鳥類に用いられる「認知バイアステスト」を応用し、行動から気分を読み取る調査を実施した。

 アカアシガメは南米北部の森林やサバンナに生息するリクガメの一種で、体長は30~40cmほどに成長する。名前のとおり、四肢や頭部に赤やオレンジ色の斑点があるのが特徴だ。

 温暖で湿潤な環境を好み、果実や葉、花、小動物などを食べる雑食性で、比較的穏やかな性格をしており、ペットとしても人気がある。

 今回の実験では、囲いの中に5つの餌皿ポイントを設け、カメたちに「この位置には餌がある」「こちらにはない」というルールを学習させた。

 そのうえで、餌があるかどうかがわからない曖昧な中間地点に皿を置き、カメたちの反応を観察した。

 ある個体は「あるかも!」と期待して近づき、別の個体は「どうせないだろう……」と慎重に距離を取った。

 こうした行動から、それぞれのカメが“楽観的”あるいは“悲観的”な気分状態にあると判断された。

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気分の浮き沈みと行動に関連性

 続いて行われた実験では、カメたちに未知の物体を見せて「不安行動」を測定した。

 どれだけ首を出して近づいたかといった“ボディランゲージ”も観察された。

 また、囲いの色や床材の素材を変えることで、環境の変化に対する反応も調査された。

 その結果、曖昧な場面でも積極的に行動した個体は、新しい状況にも前向きに反応し、不安傾向が低いことがわかった。

 つまり、気分の浮き沈みと、不安行動のあいだには関連性があると考えられる。

 研究チームは、こうした行動から「アカアシガメにも、哺乳類や鳥類と同じように、出来事と関係なくしばらく続く心理状態「気分」が存在する可能性がある」と結論づけている。

 これは、科学論文として爬虫類に認知バイアステストを適用し、気分の存在を示唆した初めての例だ。

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爬虫類にも気分の波がある

 研究チームのオリバー・バーマン教授は「これは爬虫類が世界をどう感じ取っているかを理解する大きな一歩だ」と述べている。

 従来の無感情というイメージとは対照的に、カメたちは「前向きな気分が続く」「慎重な状態が続く」といった心のゆらぎを示しているかもしれないのだ。

 この研究には進化の観点からも重要な意味がある。

 もし爬虫類にも心の波があるならば、哺乳類や鳥類と共通の祖先がすでにそうした能力を持っていた可能性がある。

 逆に、アカアシガメが独自に進化させたものであるならば、どの段階で感情が生まれたのかを探る新たなヒントになる。

 さらに、ペットとして飼われる爬虫類が増えている今、「心の波を持つ動物」としての理解が、飼育環境や動物福祉のあり方を見直すきっかけにもなる。

 この研究に参加した爬虫類の認知・行動研究の第一人者であるアナ・ウィルキンソン教授は、「動物福祉の議論は、対象となる動物に感情的な状態があるという証拠なしには成り立たない」と語っている。

References: Link.springer.com[https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-025-01973-y] / New study shows tortoises experience feelings similar to our own[https://phys.org/news/2025-07-tortoises-similar.html]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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