
かつてニュージーランドには、最大で体高3mに達する恐鳥、巨大な飛べない鳥「モア」が生息していた。
9種存在したモアは、約800~900年前に人類が初めてこの地に到達して以降、わずか150年(約600年前)に全種が絶滅した。
そんな神話的存在のモアを現代のゲノム科学で蘇らせようというプロジェクトが始動した。
このプロジェクトをマオリの人々と共に進めるのは、アメリカ、テキサス州に拠点を置くバイオテクノロジー企業、コロッサル・バイオサイエンス社だ。
モアの復活プロジェクトが始動
最近では、ダイアウルフ風オオカミを誕生させたことで知られる、コロッサル社が、新たに復活対象リストに加えたのは、ニュージーランド南島に生息していたオオモア属の一種、「サウスアイランド・ジャイアントモア(Dinornis robustus)」だ。
この種は、体高が3mに達する巨大さで、前足は完全に退化しており翼を持たず、空を飛ぶことはできなかったが、地上を歩いた鳥類としては史上最も背が高かったとされている。
代わりに後ろ足が発達しており、身を守るときはキックを繰り出したという説もある。
だがポリネシア人[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A2%E4%BA%BA]が到来すると、それまで天敵がほとんどいなかった島の環境が激変し、さらに乱獲されたこともあって急速に数を減らし、やがて絶滅した。
ニュージーランドの先住民族が主導
このプロジェクトの大きな特徴は、ニュージーランドの先住民族・マオリによる主導で進められている点にある。
マオリ最大の部族「ンガイ・タフ(Ngāi Tahu)」の研究機関「ンガイ・タフ研究センター(Ngāi Tahu Research Centre)」がプロジェクトの中心を担い、モアと土地、そして人々との精神的つながりを重視した取り組みが進められている。
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでおなじみの映画監督ピーター・ジャクソン氏このプロジェクトに協力しており、「モアは翼を完全に持たなかった、現存するどの鳥とも異なるユニークな存在です」と語っている。
コロッサル社のCEOベン・ラム氏は「このプロジェクトに関わることで、マオリの価値観や儀式に触れる機会を得られ、動物と土地への理解が深まった」と述べている。
古代DNAを抽出し、、サウスアイランド・ジャイアントモアを解析
その最初のステップは、骨・卵殻・羽毛などからモア9種の古代DNAを抽出し、サウスアイランド・ジャイアントモアが現生および絶滅した近縁種とどう違うのか解析することだ。
すでに過去の研究でブッシュモアという種のモアのゲノムを再構築している。
コロッサル社のCEOベン・ラム氏は、「モア復活の過程で多くの秘密が解明され、公開されることでしょう」と述べている。
コロッサル社の絶滅種復活の取り組み
コロッサル社は米国テキサス州に拠点を置く絶滅種の復活に取り組む企業で、これまでもカラパイアでもたびたび取り上げてきた。
同社は、古代のDNA・クローン技術・遺伝子編集技術を駆使することで、1万年前に絶滅したとされる「ダイアウルフ」風オオカミの復活に成功。
また古代のオオカミだけでなく、マンモス・ドードー・タスマニアタイガーなど、野心的なプロジェクトを推進している。
その取り組みは多方面から注目を集め、2021年の創業以来、コロッサル社は約4億3500万ドル(約690億円)の資金を調達した。
ただし、こうしたコロッサル社の行為については、賛否両論がある。
好意的な向きからは、同社は遺伝子工学の進歩に貢献していると評価される。
一方、批判的な立場からは、この地球上に絶滅の危機に瀕した生き物が無数にいることを考えれば、まずは今生きている種を優先的に守るべきだと主張される。
そもそもコロッサル社が誕生させているのは、あくまで近縁種を遺伝子に操作した“雑種”であって、絶滅した動物そのものではない。
これについてラム氏は、同社の技術はただ絶滅した種を復活させるだけでなく、絶滅寸前の種の保全にも役立つのだと主張する。
例えば、過去には絶滅危惧種である「アメリカアカオオカミ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%AB%E3%83%9F]」のクローンが作られたことがある。
「絶滅種の復活技術は保全の代替にはなりませんが、特に深刻なケースにおいては重要な“バックアップ”になるでしょう」とラム氏は語っている。
モアの復活計画は、単に過去の動物をよみがえらせるという話ではない。
失われた生態系のバランスを回復し、絶滅の歴史を繰り返さないための知恵を次世代に伝える試みでもあるという。
References: Colossal[https://colossal.com/moa/] / Effort to revive New Zealand’s extinct moa stirs controversy | Science | AAAS[https://www.science.org/content/article/effort-revive-new-zealand-s-extinct-moa-stirs-controversy] / A Colossal Moa: One Of The Biggest Birds Ever To Walk The Earth Becomes 5th "De-Extinction" Species[https://www.iflscience.com/a-colossal-moa-one-of-the-biggest-birds-ever-to-walk-the-earth-becomes-5th-de-extinction-species-79906]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。