ショート動画依存は脳を変える?損失に鈍感になり衝動的になるとする研究結果
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 TikTokやInstagramのリール、Youtubeショートなど、ついつい何時間も見続けてしまうショート動画。私も気がついたら2時間経ってた!なんてことがよくある。

 だがそれが毎日続き、依存するようになってしまうと、脳の働きそのものが変わってしまうかもしれないことが、新たな研究で明らかとなった。

 中国の研究チームが行った脳画像を分析した研究によると、ショート動画への依存が強い人ほど「損したくない」という感覚が薄れ、リスクをあまり考えずにすばやく決めてしまう傾向があるという。

 これはギャンブルやアルコールの依存症と似た傾向で、短い快楽の繰り返しが脳に影響している可能性があるという。

 研究者たちはこの結果をふまえ、ショート動画の使いすぎが、知らぬ間に意思決定や心の健康に悪影響を与えていると警告している。

 この研究は『NeuroImage[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811925002538]』(2025年5月3日付)に掲載された。

ショート動画依存と損失回避傾向の低さ

 数十秒から数分程度のショート動画は、テンポよく手軽に楽しめるのが魅力だが、長時間の視聴が習慣化しやすく、集中力の低下や睡眠不足の原因となったり、依存症状を引き起こす恐れなどが懸念されている。

 中国、天津師範大学のワン・チアン教授らが行った今回の研究では、ショート動画にどっぷりハマりがちな若者の脳の活動パターンが探られている。

 特に注目されたのは、「損失回避」と呼ばれる心理的な傾向だ。

 「損失回避」とは、人は同じ金額でも「得をすること」より「損をすること」のほうを強くイヤだと感じ、損を避けようとする心理のことだ。

 たとえば、「1万円もらえるチャンスがある」と聞くよりも、「1万円を失うかもしれない」と言われたときのほうが心に強く響くなら、それは「損を避けたい」という気持ちが強い、つまり損失回避の傾向があるということだ。

 過去の研究では、ギャンブル依存症やアルコール・薬物依存症の患者は、この損失回避が低い傾向が明らかになっている。それによって損失を被る危険よりも、目先の快感に強く心が惹かれてしまうのだ。

 これを踏まえ、ワン教授らは、もしかしたらショート動画中毒になっている人たちにも、似たような傾向があるのではと考えたのである。

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ショート動画依存が強い人ほど金銭的な損失に鈍感

 それを調べるため、今回の研究では18~24歳の大学生36名に仮想的なギャンブルをやってもらい、その時の脳の様子をfMRIで検査するという実験が行われた。

 すると事前に行われた質問票でショート動画への依存度が高いと評価された人ほど、金銭的な損失を避けようとする意識が低く、よりリスクを取りがちであることが判明した。

 ギャンブル依存症やアルコール・薬物依存症と同じような傾向が確認されたのである。

 さらに意思決定のスピードも速く、慎重に考えるよりも衝動的に判断を下す傾向が見られた。

 こうした依存度と損失回避の関係は、年齢・性別・社会経済的な背景の違いを考慮してもなお確認することができたという。

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脳の中で何が起きている?

 さらに興味深いのは、意思決定時の脳活動パターンの違いだ。

 依存度の高い人たちは、利益について考えを巡らせる際、「楔前部(けつぜんぶ)」という内省・認知的コントロール・価値判断に関わる脳領域の活動が弱かった。

 その一方、損失を考える際には、「小脳」や「中心後回」といった感覚や運動に関わる領域が活性化していた。

 こうした脳の活動パターンは、ショート動画に夢中になっている人ほど損失に鈍感で、物事を衝動的に決めてしまいがちな傾向の背後にある要因の1つだと考えられている。

 ワン教授は、「ショート動画の依存傾向が高い人は、損失に鈍く、より衝動的な意思決定を行うことが判明しました」と述べている。

 このことからは、ショート動画がやめられない人は、時間の浪費や寝不足といった長期的なコストを軽視し、目先の快楽に囚われていることが分かるという。

 またワン教授は、ショート動画が脳の活動パターンに影響している可能性も指摘する。

 ショート動画は見てすぐに楽しいと思えるような工夫がされているため、ついつい何度でも視聴してしまう。

 だが、そうした習慣が脳の意思決定パターンを微妙に変化させ、視聴をやめられなくしている可能性があるという。

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いくつかの限界と今後の研究テーマ

 本研究は、ショート動画中毒にまつわる脳の働きや意思決定の特徴を浮き彫りにしている。

 ただし、被験者が少数の大学生に限られていることや、実験内容が現実の視聴体験を十分に反映していない可能性があるなど、いくつかの限界もある。

 また、ショート動画を視聴するせいで脳の活動が変化するのか、元々の脳が依存に弱いせいでショート動画漬けになるのか、その因果関係までは明らかにされていない。

 研究チームは今後、①脳画像に基づくショート動画依存リスクを予測するモデルの構築、②より長期的なショート動画依存と神経メカニズムの解明、③ショート動画依存の心理的メカニズムや分子レベルの基盤の探究を進める予定であるとのことだ。

References: Sciencedirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811925002538] / People with short-video addiction show altered brain responses during decision-making[https://www.psypost.org/people-with-short-video-addiction-show-altered-brain-responses-during-decision-making/]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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