
ゾウが大きすぎてサイズ感がバグってしまうけど、ここはごく普通のタイの食料品店だ。
野生で暮らす27歳のオスのゾウ「プライ・ビアング・レック」は、ドスドスと店内に入り込み、棚を物色しながらお菓子やバナナ、サンドイッチなどを次々と口に運んだ。
これまでも近くの民家に入り込んで食べ物をあさることはあったそうだが、店に入り、商品を食べたのは今回が初めてだったという。
結局レックは、料金を一銭も払わずに去っていったが、幸いにもケガ人はいなかった。
巨大な食い逃げ犯が食料品店に出没
事件が起きたのは、2025年6月2日、タイ東北部のナコンラチャシマ県の食料品店だ。午後2時ごろ、突如として巨大な訪問者が現れた。
27歳のオスのアジアゾウ、「プライ・ビアング・レック(Plai Biang Lek)」だ。あまりの巨大さに背中が天井に着くレベル。
レックは食い逃げの常習犯だそうで、これまでにも近隣住民の家に侵入し、食べ物をあさることで知られていたが、店に入り込んだのは初めてだという。
店主が止めるのも聞かず、目の前でムシャムシャ
監視カメラの映像によると、レックは迷うことなく店内に入り、真っすぐスナック菓子の棚へ直行。
甘いライスクラッカーを9袋、バナナを数本、さらにサンドイッチ1つ以上を次々と食べた。
店主のカムプロイ・カカエオさんは驚きながらも、「こっちにきちゃだめ!」と追い払おうとしたが、相手は体重3トン級のゾウ。
言うことを聞くはずもなく、レックは落ち着いた様子で“お食事タイム”を満喫したという。
被害総額は約4,000円、けが人ゼロ
ゾウの食い逃げで被害を受けたのは、お菓子やサンドイッチなど総額800バーツ(日本円で約4,000円)相当の商品。さらに、棚が少し壊れたが、幸いにもけが人は出なかった。
通報を受けて駆けつけた国立公園のレンジャーたちが、10分ほどかけてレックを店外へと誘導。そのまま彼は森へ帰っていった。
「普段は遠くを歩いてるのを見るくらいで、店に入ってきたのは初めて。誰もケガしなくてよかったです」と、店主のカカエオさんは安堵の表情を見せた。
事件の背景に生息地の減少
今回の出来事は、SNSなどで「食いしん坊のゾウの食い逃げ事件」と話題になったが、その背景には深刻な問題がある。
レックが住むのは、近くにあるカオヤイ国立公園だ。そこから人里までは、もともと距離があったはずだが、近年、農地の拡大によって野生動物の住む場所がどんどん狭くなっているという。
2024年のタイ国立公園・野生動物・植物保全局の調査によると、国内には約4,000頭のゾウが生息している。
そのうち一部は人間の生活圏と重なる場所まで行動範囲を広げており、今回のような人とゾウの接触事件は今後ますます増える可能性があるという。
今回の“ゾウの食い逃げ事件”は、ケガ人も出ず、被害も比較的軽かったため、事の重大性が伝わっていないかもしれない。
しかしその裏には、「ゾウがなぜ人間の店にまで来るようになったのか?」という、大きな問題がある。
人とゾウが安心して共存できる未来のために、森と街の“ちょうどいい距離感”を見直す時期が来ているのかもしれない。