23億5000万年前の月の隕石が、月の火山活動の10億年の空白を埋める手がかりに
アフリカに落下した月の隕石の断面画像/ Image credit:Dr Joshua Snape / University of Manchester

23億5000万年前の月の隕石が、月の火山活動の10億年の空...の画像はこちら >>

 今は静かに輝くだけの月だが、かつては活発な火山活動が起きていた。だが、その具体的な期間については、これまで大きな空白が存在していた。

 だが、北西アフリカで発見された月の隕石「ノースウエストアフリカ16286(NWA 16286)」が、その10億年の空白を埋める貴重なピースであることが判明した。

 新たな研究によると、23億5000万年前に形成されたこの隕石は、その形成当時、月の内部で熱を生み出すプロセスが続いており、それが火山活動を支えていたことを今に伝えているという。

月の奥深くから地球にやってきた最も若い隕石

 2023年にアフリカで発見された、重さは311gの「ノースウエストアフリカ16286(NWA 16286)」は、公式に認定されている月の玄武岩隕石31個のうちの1つだ。

 それだけでも貴重なサンプルだが、今回、イギリス、マンチェスター大学の研究チームによって、NWA 16286が月の火山史の空白を埋める貴重なピースであることが明らかになっている。

 鉛の同位体による年代測定によれば、この隕石が形成されたのは、およそ23億5000万年前。

 地球上で発見された玄武岩質の月の隕石としてはもっとも新しく、同時期の隕石はほとんどないため、NWA 16286がその時代の月の様子を知る重要な手がかりとなる。

[画像を見る]

10億年の空白の中でも火山活動は続いていた

 だがより興味深いのはその化学組成だ。

 NWA 16286は、カンラン石[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%83%B3%E7%9F%B3]を豊富に含んでおり、「カンラン石斑状玄武岩(olivine-phyric basalt)」に分類される。また中程度のチタン、高濃度のカリウムを含むという珍しい特徴もある。

 くわえて鉛の同位体分析が、ウラン/鉛比が高く、月の内部からやってきたことを示している。

 つまり月の奥深くから噴出した溶岩が冷えて固まってできたのが、NWA 16286であると考えられるのだ。

 それは、その時代においても月ではまだ火山活動が続いていたということだ。

 1970年代のアポロ計画で月から持ち帰られたサンプルが、月で活発な火山活動があったことを示している。

 だが、NWA 16286と同時期の隕石はこれまで見つかっておらず、月の火山史には10億年の空白があった。

 NWA 16286は、この空白においても月では火山活動が続いていたことを示しており、その内部では放射性元素の崩壊によって熱が発生していた可能性を伝えている。

[画像を見る]

月が地球にくれた贈り物

 月にあったはずのNWA 16286が地球に届いたのは、小惑星や彗星などの衝突によって月面から弾き飛ばされたためと考えられている。

 この隕石に見られるガラス質のメルトポケット(溶融でできるポケット状の空洞)や脈状などの独特な変成組織は、その衝撃の名残であり、こうした痕跡がNWA 16286 のもう一つの価値でもある。

 月に探査機を送り、岩石を回収するサンプルリターンミッションの場合、手に入る岩石は探査機がいる場所のものに限られる。

 ところが、月から自然に地球にやってくる隕石にそのような制約はない。それは偶然の産物ではあるが、幅広い地域に関する手がかりをもたらしてくれる。

 だから科学者にとって、NWA 16286は月が地球にくれた贈り物のようなものだ。そこから分かった新事実は、今後のサンプルリターンミッションの目的地にも影響する可能性があるとのことだ。

 この発見は、2025年7月9日にチェコ・プラハで開催された地球化学最大の国際会議「Goldschmidt Conference」で発表された。またその内容は、2025年内に論文として正式に発表される予定だ。

References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1090237] / Sciencedaily[https://www.sciencedaily.com/releases/2025/07/250713031449.htm]

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

編集部おすすめ