
東京大学のロボット工学者が開発した四足歩行ロボット「KLEIYN」は、垂直の壁と壁の隙間を、まるで「SASUKEのスパイダーウォーク」のように登っていく。
そのスピードは過去に開発された同様のロボットのなんと50倍だ。
この圧倒的なよじ登り性能を活かして、いずれは不規則で複雑な地形を踏破せねばならない災害現場での救助活動や、洞窟のような未知の領域の探検などで活躍してくれると期待されている。
ロボットを垂直方向へ移動させる、しかも高速で
近年発表されているロボットは、二足歩行だろうと四足歩行だろうと、生物顔負けの機動力を発揮できることはカラパイアでも何度かお伝えしてきた。
それだけの移動性と自律性を兼ね備えたロボットならば、いずれは物資の運送や未知の場所の探検など、これまで人間にしかできなかった作業を代わりに行えるようになるだろうと期待できる。
とは言え、現実世界は研究所のように整った環境ばかりではない。荒々しく、不規則で、時には障害物をよじ登って移動せねばならない状況もあるだろう。
だがこれまで、そうした垂直方向の移動を完璧に行えるようなロボットは登場していなかった。
壁登りを可能にする四足歩行ロボットの開発
東京大学大学院情報理工学系研究科の河原塚健人博士らが挑むのは、そんな難題を克服できるロボットの開発だ。
今回発表された「KLEIYN」は、オープンソースとして開発された四足歩行ロボット「MEVIUS」を進化させたものだという。
河原塚博士によるならば、「SASUKEのスパイダーウォーク」のように、壁の隙間をぐいぐいと登ることができるという。
全長76cm、重さ18kgのボディには、それぞれ3個の関節を備えた脚が4本装備されている。
だが特徴的なのは腰の部分にも関節があり、ボディを前後で曲げられることだ。
つまり合計13個の関節があり、これらを駆動させることで生物のような動きで複雑な地形に対応することができる。
KLEIYNはこうしたボディの制御をマスターするために、物理シミュレーターで構築された仮想空間内において「強化学習」を行い、さらに「接触誘導カリキュラム学習(Contact-Guided Curriculum Learning/CGCL)」という機械学習法で移動や登攀の動きを学んでいる。
くわえて「非対称アクター・クリティック型強化学習(Asymmetric Actor-Critic RL)」という訓練手法のおかげで、シミュレーションの豊富なデータから学習しつつ、現実の運用では最低限のセンサーだけで対応するといったことも可能になっている。
圧倒的なスピード!将来は災害現場の救助活動や探査で活躍予定
その結果実現されたのが、動画でも紹介されている「チムニー・クライミング」(脚を壁に押し付けることで、隙間を登る方法)だ。
KLEIYNは80~100cmの離れた壁と壁の隙間を、秒速15~17cmの速度で登攀。これは、従来の最高速度を誇ったロボット「SiLVIA」の約50倍ものスピードであるという。
また、荒れた地形や段差のある屋外でも安定感のある歩行が可能で、万が一滑ってしまっても、自力で体勢を立て直すことができる。
ただし、壁の隙間が1.05m以上になるとトルク不足で登れないほか、登攀(とうはん:高所によじ登ること)中に横滑りしてしまうといった課題もあるとのこと。
さらに長時間の登攀ではモーターの過熱も問題となるため、負荷をより効率的な分散する必要がある。
だがそうした欠点さえ克服されれば、いずれKLEIYNの技術は、災害現場の救助、洞窟のような複雑な地形での探索、物資の輸送といった現場に応用できると期待されるそうだ。
この研究の未査読版は『arXiv[https://arxiv.org/abs/2507.06562]』(2025年7月9日付)で閲覧できる。
References: Arxiv.org[https://arxiv.org/abs/2507.06562] / Watch world’s fastest chimney-climbing robot dog scale 50 times faster than rivals[https://interestingengineering.com/innovation/kleiyn-chimney-climbing-robot-dog]
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。