希少なモウコノウマの子馬、育児放棄されるも、子を失ったばかりの別種の馬が迎え入れる
モウコノウマの赤ちゃんと育ての親となったメス馬/ Image credit:Minnesota Zoo

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 アメリカ・ミネソタ州の動物園の「アジア野生馬種保存プログラム(SSP)」により、希少なモウコノウマの赤ちゃん「マラット」が誕生した。

 だが、数日後に体調を崩し、検査と治療のため母馬と離れたことが原因で、育児放棄されてしまう。

 そこで迎えられたのが、自分の子を亡くしたばかりのアメリカ原産のメスの馬だった。

 種も性質も異なる2頭だったが、実の母と子のような強い絆で結ばれていった。

希少なモウコノウマが誕生するも、母親と放されたことで育児放棄

 2025年5月17日、ミネソタ州のミネソタ動物園[https://mnzoo.org/]で、モウコノウマのオスの子馬「マラット(Marat)」が誕生した。

 母馬は7歳の初産の「ナディ(Nady)」、父馬は「ゴビ(Gobi)」。この誕生は、アメリカ動物園水族館協会(AZA)の「アジア野生馬種保存プログラム(SSP)」の一環として実現したものだ。

 ところが、生後数日で子馬が体調を崩し、ミネソタ大学の獣医学センターに搬送されることになった。

 治療によって命は助かったが、しばらく母親と離れていたことで、母馬ナディは子を認識できなくなり、授乳も拒否するようになった。

 モウコノウマのように野生の性質を強く残す馬では、母子の関係が一度途切れると、再びつながるのが難しいことがあるという。

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子を失ったばかりの別種の母馬がマラットを受け入れる

 このとき、代わりの母親役として動物園に迎えられたのが、ミネソタ州南東部にある「ブラッシュ・ポッピン牧場」で飼育されていた馬「アリス」だった。

 アリスは、ポニー・オブ・ジ・アメリカズ(Pony of the Americas)というポニー種で、性格はとてもおだやかだ。

 アリスは、数日前に出産したばかりの牝馬の赤ちゃんを、事故による怪我で亡くしたばかりだった。

 飼い主のジェフさんとシルビア・パソウ夫妻は、アリスの母乳と穏やかな性格が、母親を必要としている別の子馬の助けになるかもしれないと考え、動物園への協力を申し出た。

 動物園に到着したアリスは、初対面のモウコノウマの子馬にやさしく鼻を寄せ、すぐに授乳を始めた。

 その後2頭は、まるで本当の親子のように寄り添いながら、毎日を過ごしているという。

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野生馬と飼育馬、種が違っても愛情は育める

 モウコノウマは、かつて中央アジアのモンゴル、中国、カザフスタンなどに広く生息していた野生馬で、家畜馬とは異なる進化の道を歩んできた。約4万年前に分岐し、染色体の数もモウコノウマは66本、家畜馬は64本と異なっている。

 かつては、1909年に絶滅したターパン[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%B3]に次ぐ「現存する唯一の野生馬」とされていたが、1960年代後半に野生での個体は絶滅していたとされている。

 現在見られるモウコノウマは、すべて動物園や研究機関で繁殖された個体を、自然環境に再導入したものである。

 こうした国際的な保護と繁殖の努力により、現在では世界で約2,000頭ほどが生存しており、多くはモンゴルやカザフスタンの保護区で野生復帰を果たしている。

 一方、アリスは完全な家畜馬である「ポニー・オブ・ジ・アメリカズ(Pony of the Americas)」という品種だ。

 1954年にアメリカ・アイオワ州で公式に登録が始まった飼育馬の品種で、アラビアン、アパルーサ、シェトランドポニーの3種をもとに交配されて誕生した。

 体高は117~147cmほどで、ポニーと呼ばれながらも子どもや小柄な大人が乗れる大きさがある。

 斑点模様のある毛並みや、アラビアンに似たすらりとした顔立ち、人なつっこく穏やかな性格が特徴で、初心者向けの乗馬クラブなどでも広く親しまれている。

 モウコノウマとポニー・オブ・ジ・アメリカズは、種も起源もまったく異なる馬だが、母性行動や授乳の仕組みには共通点がある。

 そのため、今回のように母親として育児を引き継ぐことができたのだ。

 穏やかで世話好きな性格をもつアリスは、まさにその役目にぴったりの馬だったといえる。

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馬の母性本能が命を守った

 ミネソタ動物園の飼育・保全部門の責任者ランディ・コチェヴァー氏は、今回の出来事について「命をつなぐために大切なものは何かを思い出させてくれる出来事だった」と話している。

 育ての親となったアリスと、野生馬の子マラット。

母馬としての本能が、新たな命を育てる力となった。種は違っても親の子に対する思いは一緒なのだ。

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モウコノウマは日本でも見ることができる

 ちなみに日本でも、多摩動物公園とよこはま動物園ズーラシアでモウコノウマをみることができる。

 多摩動物公園では、群れで生活するモウコノウマの様子を見ることができる。ズーラシアでは、モウコノウマの展示に加え、野生復帰に向けた取り組みも行われているという。

 モウコノウマは、日本在来馬の祖先に該当する種であると見なされており、更新世には本種も日本列島に到達したものの、ウマ属が列島に長期的な自然定着をすることはなかったといわれている。

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References: Mnzoo.org[https://mnzoo.org/] / Asian Wild Horse Foal Thriving at Minnesota Zoo[https://www.aza.org/connect-stories/stories/asian-wild-horse-foal-thriving-at-minnesota-zoo]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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