
野生のゾウの群れがインドの村の近くを通り過ぎようとしていた。だが困った事態が発生する。
森へ向かう途中、生後8週間の赤ちゃんゾウが1頭、はぐれてしまったのだ。
ひとりぼっちになった赤ちゃんゾウはパニックになりながらも、近くにいた人間に助けを求めた。
多くの人間が協力し、赤ちゃんゾウはすぐに保護され、無事母親と再会できたのだ。インドではゾウと人間の間に深い信頼関係があるようだ。
群れで移動中に取り残されてしまったゾウの赤ちゃん
2025年7月初め、インド北東部アッサム州のある村の近くを、野生のアジアゾウの群れが通り過ぎようとしていた。
その群れは、安全な森へ向けて急いで移動している途中だったが、その最中に生後8週間の赤ちゃんゾウが1頭、取り残されてしまった。
母親と離れた赤ちゃんゾウは、他に頼れるものがなかった。
そして、人間に助けを求めるという行動に出た。
人間に助けを求めた赤ちゃんゾウ
赤ちゃんゾウに助けを求められた地元の人はすぐに対応し、野生動物保護局に通報した。
連絡を受けて現場に駆けつけたのは、インド野生動物保護基金[https://www.wti.org.in/](Wildlife Trust of India)のチームと、アッサム州の野生動物保護官たちだった。
スタッフの車が現れると、赤ちゃんゾウはすぐに駆け寄り、自分が困っていることを伝えようとするような仕草を見せた。
母親に再会させる準備
保護チームはまず、赤ちゃんゾウの健康状態を確認した。怪我はなく、落ち着きを取り戻していたことから、すぐに母親のもとへ戻すための作戦が立てられた。
ゾウの群れが通った痕跡をたどり、母親が向かったとみられる方向を確認したスタッフたちは、赤ちゃんゾウを小型のトラックに乗せ、群れの前方へと先回りする形で移動させた。
森の中にある開けた場所に到着すると、赤ちゃんゾウの体には人間のにおいを消すためにゾウの糞が塗られた。
これは、野生のゾウが人のにおいに警戒する習性があるためで、再会を自然にするための配慮だった。
無事母親と再会へ
準備を終えた赤ちゃんゾウは、森の奥へとゆっくりと導かれていった。しばらくすると、森の中からゾウの鳴き声が聞こえてきた。
保護チームは、同行していた飼育下のゾウに先導を任せ、静かに様子を見守った。やがて、体高約2.6mのメスのゾウが木々の間から姿を現し、赤ちゃんゾウの前に立ち止まった。
二頭はしばらく見つめ合ったあと、再び会えたことを喜び、並んで森の中へと歩いていった。
この様子を見届けた、野生動物リハビリテーション・保全センター(CWRC)[https://www.wti.org.in/projects/centre-for-wildlife-rehabilitation-and-conservation-cwrc/]の主任獣医師、バスカル・チョウドリー博士は次のように述べている。
「まもなく森の中からゾウの鳴き声が聞こえたので、飼育ゾウに先導させました。メスのゾウが姿を現し、子ゾウの前で立ち止まりました。すこし静かに向き合ったあと、二頭は一緒に森へと戻っていきました」
インドでのゾウと人との関わり
今回の出来事の背景には、インドにおけるゾウと人との長い関わりがある。
インドでは、ゾウは古くから人間の暮らしに関わってきた動物だ。かつては農業や林業での労働に使われ、現在でも一部の地域では人の生活と密接な関係を保っている。
また、宗教的にも特別な意味を持つ。
こうした背景から、人々の間にはゾウに対する強い親しみと敬意が根付いている。
今回のように、野生のゾウが人間に助けを求め、人々が協力して母親のもとへ返すという出来事は、そうした文化的土壌の中で自然に起こったものとも言える。
赤ちゃんゾウの救助にあたったインド野生動物保護基金によると、野生動物リハビリテーション・保全センター(CWRC)は、2002年の設立以来、これまでに5900頭以上の野生動物を自然へと返してきたという。
ゾウだけでなく、さまざまな動物との再会支援が行われてきた。
野生動物と人間との関係は、時に摩擦を生むこともあるが、互いの存在を理解し尊重することによって、共に暮らしていく道が見えてくるのかもしれない。