
「モナリザ」で知られるルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ。その代表作の一つである「ウィトルウィウス的人体図」に隠された謎が、500年以上の時を経てついに解明されたかもしれない。
人体の理想的なプロポーションを表したとされるこの作品だが、これまでダ・ヴィンチがなぜ、あの手足の長さと角度を選んだのか、長らく謎に包まれていた。
イギリス、ロンドンの歯科医ロリー・マクスウィーニー氏は、図の股下の部分に隠された三角形に着目した。
これを手がかりに、ウィトルウィウス的人体図に秘められた宇宙に普遍する幾何学的真理を突き止めたと主張している。
ルネサンスの天才がウィトルウィウス人体図に隠した秘密
「ウィトルウィウス的人体図[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%88%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%82%A6%E3%82%B9%E7%9A%84%E4%BA%BA%E4%BD%93%E5%9B%B3]」は、ルネサンス期を代表する天才芸術家であり科学者であるレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452年4月15日 – 1519年5月2日)が、1490年に描いた人体の理想的プロポーションを示すとされるドローイングだ。
”ウィトルウィウス”とは、古代ローマ時代で活動した建築家の名だ。この人体図が、彼の著書『建築論』における、「完璧な人体は円と正方形の中に収まるべきである」という思想に基づいていることから、この名で呼ばれている。
それを示すように、ダ・ヴィンチが描いた人物は、腕を水平に伸ばし、足を閉じた十字の姿勢が正方形の中にぴたりと収まる一方、腕を軽く上げ、足を開いた姿勢は円に接するように描かれている。
だが、なぜダ・ヴィンチがこの人体の手足の長さと角度を選んだのか、その理由ははっきりしていない。
しばしば人体の比率は「黄金比」に基づくとされるが、きちんと計測すると、そうではないのである。
股下に隠された正三角形
この謎に挑んだのが、ロンドンの歯科医ロリー・マクスウィーニー氏だ。
彼は、図の股下に隠された三角形に着目し、それがウィトルウィウス的人体図の比率を解くカギだと考えた。
ダ・ヴィンチがこの図に添えたメモによると、「足を開き、腕を上げ、指先が頭頂部に届くようにすると、足の間に正三角形ができる」という。
三角形の比率はベクトル均衡に近いものだった
そこでマクスウィーニー氏は開いた左右の足とへそを結ぶと現れる三角形の、底辺と高さの比率を計算した。
その結果、足の広がりとへその高さの比率は1.64~1.65であることが判明した。
この三角形の比率は、およそ1.64~1.65となっており、1917年に幾何学的に導かれ、1970年代にバックミンスター・フラーが「ベクトル均衡(Vector Equilibrium)」と名付けた構造の高さと底辺の比率(約1.633)に非常に近い。
この比率は、自然界においてエネルギーや物質が最も効率よく配置されるとされる構造のひとつである。
例えば、4つの球をきちっとピラミッド型に積んだ場合、その高さと底面の比率は1.633となる。
歯科の世界でも知られている三角形の比率
さらにこの三角形の比率は歯科の世界でも知られている。
歯科解剖学・咬合学において、下顎の左右の付け根と前歯を結んだ、1辺約10cmの三角形を「ボンウィルの三角形(Bonwill’s Triangle)」という。
これは下顎が機能するうえで理想的な形状として19世紀に提唱された概念だが、その三角形の比率がやはり1.633なのだ。
ダ・ヴィンチは普遍的な宇宙の原理を見抜いていた
マクスウィーニー氏は、この一致は偶然ではなく、人体構造そのものが宇宙に共通する幾何学原理に従って進化してきた証拠だと考えている。
なにしろこの1.633という比率は、鉱物・結晶構造・生体構造など、自然界のあらゆる場所で見られるのだ。
この宇宙で空間の効率を最大限に高めようとすれば、必然的にその比率を持つ構造が現れる。
マクスウィーニー氏によるなら、人間の顎だけでなく、人体全体がこの空間の最適配置を支配する幾何学的原理に従って進化してきたという。
そして500以上年前に生きたダ・ヴィンチもまた、自然界の構造原理が数学的に定義されるずっと以前に、そのことを直感的に理解していたのかもしれないのだ。
だから、それをウィトルウィウス的人体図で表現したというのが、 マクスウィーニー氏の考察だ。
これはあくまで仮説であり、その真偽は今後の検証を待たねばならない。
だが少なくともダ・ヴィンチ自身が股下の「三角形」に触れている事実が、その重要性を物語っている。
この研究は『Journal of Mathematics and the Arts[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17513472.2025.2507568#d1e284]』(2025年3月28日付)に掲載された。
References: Hidden Detail in Crotch Solves 500-Year-Old Leonardo Da Vinci Mystery[https://www.sciencealert.com/hidden-detail-in-crotch-solves-500-year-old-leonardo-da-vinci-mystery] / Mystery Of Leonardo Da Vinci's "Vitruvian Man" Solved By A Dentist And A Protractor[https://www.iflscience.com/mystery-of-leonardo-da-vincis-vitruvian-man-solved-by-a-dentist-and-a-protractor-79852]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。