
地球の海面は、海が出現して以来、絶えず上下してきた。だがそれがいつ、どのくらいの規模で起きていたのかを正確に知ることは容易ではない。
これまでの科学では100万年単位のおおまかな再現が限界だったが、今回、オランダ、ユトレヒト大学をはじめとする研究チームは、5億4000万年間にわたる海面変動を、千年単位のより細かなスケールで再現することに成功した。
この成果は、地球の気候変動モデルの精度向上に加え、地下資源の開発や安全な廃棄物の貯蔵計画、生物進化の研究にも大きく貢献する可能性を秘めている。
この研究は、『Earth and Planetary Science Letters[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X25003243?via=ihub]』(2025年7月3日付)に掲載された。
岩石が伝える海面変動の歴史
大昔の海面の高さが変化していたことは、堆積物や化石を分析することで分かる。
たとえば粘土岩は主に深海で作られるし、砂岩なら海岸近くで作られる。だから、樹木の年輪のように、大昔の砂岩や粘土岩の堆積層から海の深さが読み取れるのだ。
そうした研究からは、海の高さが200mも上下することが明らかにされてきた。とはいえ、それも100万年単位の大まかな期間での話だ。
実際には、もっと短いスパンでも海面の変動は起きていると考えられるが、それを推測するためのデータがこれまでは不足していた。特に古い時代の変動となればなおさらだ。
気候と氷の関係から海面の高さを推定
そこでオランダ、ユトレヒト大学をはじめとする研究チームが考案したのが、地球の気候と氷床の大きさとの関係を手がかりにするという新たな方法だ。
海面の高さを左右するのは主に2つの要素だ。1つは、大陸間の「地形の深さ」を決めるプレートの動き。
もう1つは「海水の量」を決める陸上の氷(氷床)の量だ。
そのために研究チームは、5億4000万年前までさかのぼって、気候と氷床の関係を解析し、この関係をもとに、千年単位の短期的な海面変動を推定したのだ。
そこから導き出された海面の高さは、過去の研究で推定されてきた海面の高さとよく一致しており、その信頼性の高さがうかがえたという。
恐竜時代や氷期に見られた多様な海面変動
それによると、過去数百万年には氷期の到来とともに海面は最大100mも変動していた一方、恐竜が生きたジュラ紀や白亜紀には、陸上の氷が少なく、海面の変動も小さかった。
これと対照的に、約3億年前の石炭紀後期には、南半球に大きな氷床が存在し、当時の海面は非常に大きく変動していた。
なお、この頃のオランダに相当する地域には、湿地帯が広がり、巨大なトンボが飛び交っていたそうだ。
気候モデルの精度向上や生物進化の研究に役立つ可能性
この研究によって、各時代の海面の高さが判明したことで、その時代のより正確な地図を描くことが可能となった。
こうした地図は、気候変動や生物進化の歴史を紐解くヒントになるという。
さらにこの研究は、現在注目されている二酸化炭素の地中貯蔵や放射性廃棄物の候補地選びにも役立つと期待されている。
なぜなら、海面が低い時期に形成された砂岩は「貯蔵層」として、高い時期に形成された粘土岩は「密閉層」として機能するからだ。
研究の中心人物であるドウエ・ファン・デル・メール博士はこう述べる。
もしある時代に海面が高かったと分かれば、その時期に粘土岩層が堆積していたと推定できます
この情報を使って、世界的な砂岩と粘土岩の地層マップを作成すれば、地中利用を安全に進めるうえで大いに役立つでしょう(メール博士)
References: Scientists reconstruct 540 million years of sea level change in detail[https://www.uu.nl/en/news/scientists-reconstruct-540-million-years-of-sea-level-change-in-detail] / Sciencedirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X25003243?via=ihub]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。