
観光でアジアのどこかの河川敷を歩いていた男性は、石台の上に大きなくちばしを持つユニークな姿の鳥を見てびっくりし、撮影しながら近づいていった。
男性は石台に腰掛けるとその鳥はぴょんぴょん跳ねながら近づいてきた。
「きみは噛む子かい?」男性はちょっと警戒しながらも、その鳥の様子を見ていると、どんどん接近し、靴をかんだり、バッグに顔を突っ込んだり。どうやら人に慣れている様子で、食べ物をおねだりしているようだ。
実はこの鳥、熱帯鳥類のシワコブサイチョウである。
見たこともない恐竜のような鳥にびっくり
男性が「きみは恐竜のようだ」と表現したこの鳥は、サイチョウ科に属するシワコブサイチョウだ。
初めてこの鳥を見た男性は撮影しながら近づいていくと、サイチョウの方から、ぴょんぴょん跳ねしながら男性に近づいてきたのだ。
このシワコブサイチョウは、どうやら人に対して全く警戒心を持っていない様子だった。
男性に寄り添い、くちばしでスニーカーをくわえたり、バッグに顔を突っ込んだりと、まるで「何かちょうだい」とアピールしているかのようだ。
おそらくこの鳥は、この場所に定住しており、観光客に餌をもらうことに慣れている個体なのだろう。
自然界では警戒心が強いはずの野鳥が、これほどまでに人に近づくというのは珍しいことだ。もしかしたら観光客に餌をもらっていたのかもしれない。
まるでペットのように愛嬌をふりまくこの鳥に対し、男性の方がひるんでしまい「君は噛む子かい?」とおびえた様子。
確かに体も大きいし、クチバシも大きいし、ルックスもスペシャルだから、初めて見て、その子が積極的に近づいてきたらびっくりするかもしれないね。
男性はこの鳥に食べ物をあげるようなことはしなかったようだ。
シワコブサイチョウとは?
シワコブサイチョウ(Wreathed hornbill / 学名:Rhyticeros undulatus)は、サイチョウ科に属する大型の熱帯性鳥類で、インドから東南アジアにかけて広く分布している。
主に丘陵地帯に広がる常緑広葉樹林(原生林)に生息し、森林の高い樹冠部を拠点として暮らしている。
体長は75~100cm、体重は2~3.5kgほどで、オスの方がやや大きい。
くちばしの根元には「カスク(casque)」と呼ばれる角質の突起があり、そのくちばしの側面に刻まれた横縞状のしわ模様(wreathed:リースト)が、英名「リースト・ホーンビル(Wreathed hornbill)」の由来となっている。
オスとメスの違い
オスとメスは外見で明確に区別することができる。
オスは、のど袋が鮮やかな黄色をしており、目のまわりが赤く縁取られている。
一方、メスはのど袋が青く、目のまわりは白っぽいか淡い赤色である
カスクはどちらにも見られるが、オスの方がより大きく、年齢とともに横縞の数が増えていくとされている。こうした見た目の違いは観察時にも識別しやすく、野外での個体判別にも役立っている。
種子を遠くまで運ぶことで生態系で重要な役割を果たしている
食性は果実を中心とした雑食性で、特にイチジク類の果実を好む。
果実を丸ごと飲み込み、消化されずに排出される種子を広範囲に運ぶことから、「長距離種子散布者」として森林再生に重要な役割を果たしている。
また、繁殖期には、メスが木の穴にこもり、外からオスが食べ物を与え続けるという独特な繁殖行動をとる。
シワコブサイチョウはIUCN(国際自然保護連合)によって「絶滅危惧II類(Vulnerable)」に指定されており、森林伐採による生息地の喪失や、カスクが密猟対象となることが深刻な脅威となっている。
カスクは装飾性が高く、象牙よりも高値で取引される例もあり、個体数は現在1500~4000羽程度にまで減少していると推定されている。