
南極大陸の分厚い氷の下に、まるで別の惑星にあるかのような平坦な地形が広がっていることが新たに明らかになった。
8000万~3400万年前、河川に削られて出現したとされる平地は、東南極海岸地域の4割を占める広大なもので、その上に積もった氷床の流出を抑える働きがあると考えられている。
この「異星のような地形」の存在は、現在進行中の気候変動で南極の氷床がどのように変化し、将来の海面上昇にどう影響するかを予測するうえで、極めて重要な鍵となるという。
この研究は『Nature Geoscience[https://www.nature.com/articles/s41561-025-01734-z]』(2025年7月11日付)に掲載された。
数千万年前の川がつくった氷の下の平坦な大地
今回、英国ダラム大学を中心とする研究チームが発見したのは、東南極の氷床に下に残された古代の真っ平な地形だ。
レーダーで計測された氷の厚みのデータを解析することで明らかになった平地は、「プリンセス・エリザベス・ランド」から「ジョージ5世ランド」にかけて3500kmにわたっており、東南極の沿岸域のじつに40%を占める広大な領域だ。
それが形成されたのは、約8000万~3400万年前のこと。
東南極とオーストラリアが分離してから南極大陸が氷に覆われるまでの期間、そこには大規模な河川系が存在しており、これによって削られてできたのが今回の平地だと考えられている。
氷の流れを抑える「自然の防波堤」
本研究の筆頭著者であるダラム大学のガイ・パックスマン博士によれば、「東南極氷床の下に広がる地形は、地球はおろか、太陽系のあらゆる岩石惑星の中でも最高に謎めいた異星のような場所の一つ」であるという。
驚くべきことに、今回発見された3000万年以上も前の地形は、ほぼ当時のままの姿だ。
このことが重要なのは、地形を侵食するはずの氷床の一部が、むしろ地形を保護してきたことを示唆しているからだ。
また今回の研究では、東南極の氷が流れる速度が、下に埋もれた地形によって違うことが分かっている。
たとえば、平地を区切るように横たわる、深くえぐられた谷の上にある氷河は、流れが速い。
ところが平地の上にある氷は、じりじりとゆっくりとしか流れない。どうやら平地は、「自然の防波堤」として働き、氷の流出を抑える効果があるようなのだ。
将来の海面上昇を予測する鍵
東南極にある氷床が完全に溶けてしまえば、地球全体の海面が最大52m上昇する可能性がある。
そのような重要な地域で発見された自然の防波堤を氷床の挙動モデルに組み込むことで、将来の海面変動をより正確に予測できるようになると期待されている。
今後の研究テーマは、過去の気候変動による温暖な時代において、この平地が当時の氷床にどのような影響を及ぼしていたのか、具体的に探ることだ。
そのために、氷を掘削して平地から岩石を採取し、それが氷に覆われていなかった最後の時期を調べる必要があるとのことだ。
この研究は『Nature Geoscience[https://www.nature.com/articles/s41561-025-01734-z]』(2025年7月11日付)に掲載された。
References: Geologists Stumble on an Alien-Like Landscape Beneath Antarctica’s Ice[https://scitechdaily.com/geologists-stumble-on-an-alien-like-landscape-beneath-antarcticas-ice/] / Nature[https://www.nature.com/articles/s41561-025-01734-z]
本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。