スーパーマンの力を奪う架空の鉱石「クリプトナイト」。それに似た化学式を持つ鉱物が地球上に実在する。
「ジャダライト」は、映画『スーパーマン リターンズ』に登場する架空の鉱石のラベルとまったく同じ成分名を持ちながら、現実ではオーストラリアのエネルギー政策を大きく左右するかもしれない、重要な鉱物資源として注目されている。
見た目こそ地味な白い石だが、リチウムとホウ素を多く含み、クリーンエネルギー時代の救世主になる可能性を秘めている。
架空の鉱物と同じ化学式を持つ鉱物が地球に存在した
無敵のスーパーヒーロー、スーパーマンにも弱点がある。それが彼の故郷「クリプトン星」が崩壊した時に作られた放射性同位体「クリプトナイト」だ。
緑色に光るこの物質は、スーパーマンにとっては、力が奪われ、下手をすれば命すら落としかねない危険なものだ。
2004年、そんなクリプトナイトにそっくりな鉱物が地球で発見された。
セルビアのヤダル渓谷で採掘されたその鉱物は、それまで知られていなかった性質のもので、2006年に新種の鉱物として正式に認定され、「ジャダライト（Jadarite）」と命名された。
その化学組成は「LiNaSiB3O7OH」、すなわちリチウム・ナトリウム・ケイ素・ホウ素・酸素・水酸基で成り立っている。
実はこれが、2006年に公開された映画『スーパーマン リターンズ』で明かされたクリプトナイトの組成とそっくりだったのだ。
これが話題を呼び、ジャダライトは「地球のクリプトナイトの双子」とも呼ばれるようになった。ただし、実際のジャダライトは緑色に光ることもなければ、スーパーヒーローの力を奪う力も持っていない。
ジャダライトの見た目と性質は？
実物のジャダライトはネソケイ酸塩鉱物に分類され、白っぽく、粉っぽい質感の石で、一見するとコンクリートのかけらのように地味な見た目をしている。
映画に登場する緑に輝くクリプトナイトとは、外見的には全く異なる。そしてもちろん、スーパーマンを無力化する脅威になることもない。
しかし、紫外線を当てると淡いピンク色からオレンジ色に蛍光するという性質がある。この珍しい特徴により、鉱物学者や地質研究者の関心を集めている。
オーストラリアが注目するエネルギー転換の鉱物資源
だがそれでも、ジャダライトはすごい鉱物だ。なぜなら、これが今後のクリーンエネルギー革命を支えてくれると期待できるからだ。
オーストラリア原子力科学技術機構（ANSTO）の科学者マイケル・ペイジ氏は、ジャダライトについて「それ自体がスーパーな存在」と語る。
セルビアのヤダル鉱床は、ジャダライトを含む世界最大級のリチウム鉱床の一つとされており、その規模と埋蔵量は世界的なエネルギー転換、特に電気自動車や再生可能エネルギーの分野での需要に大きく貢献できる可能性がある。
ANSTOは、オーストラリア連邦科学産業研究機構（CSIRO）やジオサイエンス・オーストラリアとともに、「オーストラリア重要鉱物研究開発ハブ（Critical Minerals R&D Hub）」を支える中核機関のひとつとして、こうした鉱物資源の研究・商業利用を進めている。
ジャダライトはリチウムとホウ素の重要な供給源となる大きな可能性を秘めているのだ。
リチウムがリチウムイオン電池に使われていることはご存知の通りだが、ホウ素もまた、太陽光発電技術を支える重要な材料である。
ジャダライトは空想上のヒーローを弱らせる鉱石ではないが、現実世界の課題である気候変動や化石燃料からの脱却において、その存在価値はむしろ“スーパーヒーロー級”だ。
白く地味な見た目のこの鉱石が、再生可能エネルギー社会への転換を陰で支える大きな力になる日も遠くないかもしれない。
この研究は『Nature Geoscience［https://www.nature.com/articles/s41561-025-01705-4］』（2025年6月11日付）に掲載された。
References: Nature［https://www.nature.com/articles/s41561-025-01705-4］ / Earth’s Kryptonite: The Real Mineral Stranger Than Fiction［https://scitechdaily.com/earths-kryptonite-the-real-mineral-stranger-than-fiction/］
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。
