
過酷な木星の放射線を何十回も耐え抜いてきたNASAの木星探査機「ジュノー」は、2023年、目を失う危機にあった。
木星やその衛星を観測するためのカメラが不具合を起こし、まともな映像を撮影できなくなってしまったのだ。
そこでNASAのスタッフは、地球から約6億km離れたジュノーの目を救うために、一か八かの手段に出る。なんと目に”焼き”を入れたのだ。
ほとんど無茶に思える荒療治だが、これが見事功を奏し、ジュノーのカメラは復活。2023年12月には、これまで知られていなかった衛星イオの姿を私たちに伝えてくれた。
ジュノー、放射線にやられて目を失う危機に
人間、歳をとれば誰でも体が衰えるものだが、それは最先端の科学技術で作られた宇宙の探査機も変わらない。
たとえば、1970年代に地球から打ち上げれた老ボイジャー1号と2号は、これまでたびたびトラブルに見舞われては、奇跡的に復活を遂げてきた。
が、今回大ピンチに陥ったのは、2011年に宇宙へ飛び立ったNASAの木星探査機「ジュノー」だ。
ジュノーは現在、木星の軌道を周回しつつ、この巨大ガス惑星やその衛星の調査を続けている。ところが、宇宙を飛び交う放射線のせいで、目がやられてしまったのである。
ジュノーにとって主要な目の1つが、可視光カラー撮影カメラ「ジュノーカメラ(JunoCam)」だ。これは放射線から守るために、チタン製のシールドで守られている。
だが、木星周辺には太陽系でもひときわ強い放射線を放つ領域がある。
それゆえに、たとえシールドがあったとしても、ジュノーカメラがどれだけ耐えられるのか、開発者からは不安視されていた。
当初の設計では、少なくとも木星を8周するまでは問題ないと想定されていた。だが、その後の動作については、確かなことは誰にも分からなかったのだ。
ところが、そんな科学者の心配をよそに、ジュノーカメラは当初定められた34周の間、何事もなく正常に機能し、木星の貴重な観測データを地球に届けてくれた。
遠く離れた場所から目を焼き、視力を回復
そんなタフなジュノーカメラも、47周目から放射線による劣化が現れ始め、56周目ではほとんどの画像が破損するようになってしまった。
だが、NASAの科学者は不屈の魂の持ち主だ。”目”のトラブルさえ克服できれば、ジュノーはまだまだ頑張ってくれるはずと、どうにか地球から彼の目を治す方法を探し始めたのだ。
限られた手がかりから推測された故障原因は、電圧レギュレーターの不具合だった。
そこで考案されたのが、「アニーリング(annealing)」という方法だ。これは加熱してから、ゆっくり冷やすことで、素材についた小さなダメージを修復する技術である。
ジュノーカメラにはヒーターが搭載されている。これで加熱すれば、もしかしたら劣化したジュノーの目は治ってくれるかもしれない。
その作戦はみごと成功。ヒーターで25度に加熱してみると、なんとカメラに徐々に回復の兆しが現れ、数周後にはジュノーが再びはっきり鮮明な映像を送ってくるようになったのだ。
ところが、「よかったこれで一安心。めでたしめでたし―」とはいかなかった。解決したと思いきや、その後チームは再び頭を抱えることになる。
再び悪化、限界までヒーターを加熱し最後の賭け
宇宙は過酷な環境だ。残念ながらその後、ジュノーの視力はまたも悪化し始めた。映像が劣化し、木星軌道55周目がすぎると、ノイズや線だらけの酷いものになってしまった。
焦ったのはNASAの科学者たちだ。その時ジュノーは、木星の第1衛星イオに接近していたのである。
科学者としては、どうにかジュノーに頑張ってもらい、イオの綺麗な姿を撮影してもらいたかった。
そこでスタッフは最後の賭けに出ることにした。地球から約6億km離れた場所から遠隔操作し、一か八か、ヒーターを限界ギリギリまで加熱し、超強力な”焼き”を入れることにしたのだ。
科学者が固唾を飲んで見守る中、最初の数日は改善が見られなかった。
ところが、イオ接近の数日前から画像が急速にクリアになった。
そしてジュノーは、2023年12月30日にイオの地表から1500kmまで接近。光を取り戻した目で、北極にそびえる硫黄の霜に覆われた山地や、これまで知られていなかった火山と広大な溶岩流を捉えてくれた。
ジュノーが照らす宇宙開発の未来
2025年7月、ジュノーが木星を周回した回数は74回を数える。これを境にまたもノイズが現れ始めたという。
ジュノーの目があとどのくらい持つのか不明だ。それどころか、近い将来、木星大気にダイブして、ミッション終了となる可能性もある。
NASA[https://www.jpl.nasa.gov/missions/juno/]によると、現時点で処分が予定されていた2025年9月中の運用は決定したという。
もしかしたら、ジュノーが動く限り、ずっと調査が続けられる可能性もある。
だが、そうならならなかったとしても、ジュノーとジュノーカメラの復活劇は、諦めないことの大切さを私たちに伝えてくれるはずだ。
そしてそれは宇宙開発の未来も照らし出している。
ジュノー主任研究員スコット・ボルトン氏は「ジュノーから学んだ知見は、地球周回衛星や今後のNASAミッションにも役立つでしょう」と語る。
今後登場するだろう放射線に強い宇宙機は、きっとジュノーの魂を受け継いでいるはずだ。
追記:(2025/07/26)本文を一部訂正しました。
References: Nasa.gov[https://www.nasa.gov/missions/juno/nasa-shares-how-to-save-camera-370-million-miles-away-near-jupiter/]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。