
人間の手で撫でられたり、くすぐられたラットは、本当に心地よさを感じていることが判明したそうだ。
最初は戸惑っていたラットも、繰り返し触られることで、だんだんと人間の手に慣れて、次第に脳内で愛情ホルモン「オキシトシン」が分泌されるようになる。
この岡山大学で行われた研究は、人間と動物との種を超えた絆や、アニマルセラピーの効果などに関係する脳内メカニズムを理解する重要な手がかりとなる。
この研究は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00650-5?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960982225006505?showall=true]』(2025年6月23日付)に掲載された。
動物は人間との触れ合いを本当に楽しんでいるのか?
動物が好きな人なら、犬や猫とのじゃれあいは至福の瞬間だろう。お腹をさすられてうっとりする彼らの気持ちよさそうな顔を見れば、その日の疲れなんていっぺんに吹き飛んでしまう。
では動物たちも、本当に人間との触れ合いを楽しんでくれているのだろうか?
今回、岡山大学の研究チームが、「ハンドリング」と呼ばれる、人の手による、撫でたりくすぐったりする行動に対するラットの反応を調べたのは、そんな疑問に答えるためだ。
同大学の林姫花特任助教は、「私たちが動物に感じる絆が本物なのか、それともただの幻想にすぎないのか知りたいと思っていました」と語っている。
くすぐり続けると、どんどん喜びの声を出し懐くように
若いラットは仲間とじゃれあい、喜びの鳴き声をあげることで知られている。
その声は50 kHzの超音波で人間の耳には聞こえないものだが、彼らが心地よさを感じているときの声だと考えられている。
そこで林氏らは、ラットのじゃれあいを真似したハンドリングを考案し、これを10日間繰り返し行いつつ、ラットの鳴き声を測定することにした。
すると初日はほとんど声を上げなかったラットたちが、5日目になるとだんだんと超音波の鳴き声を上げるようになったのである。
鳴き声は10日目まで増え続け、しかもラットは自ら人間の手に近づき、懐くような様子すら見せてくれた。
これは、何度もくすぐられるうちにラットがそれに慣れて、少しずつ心地よさを感じるようになっていたことを示している。
また実験期間後の行動にも変化が見られ、ラットはそれまで人間にくすぐってもらった部屋に長く滞在するようになったという。
これもまた、ラットがくすぐりに心地よさを感じていたことを示すものだ。
脳内の愛情ホルモン「オキシトシン受容体」に変化
この研究では、この時ラットの脳内で起きていることも突き止められている。
明らかになったのは、人間に繰り返しくすぐられることで、ラットの「視床下部腹内側核腹外側部(VMHvl)」において、愛情ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」の受容体が活性化することだ。
ラットが自分を撫でてくれる人間の手に懐くのは、どうやらこの神経メカニズムが背後にあるようだ。
その証拠にオキシトシン受容体の機能を停止させると、ラットが人間の手に示した愛着行動はあまり見られなくなった。
また解剖学的な解析によって、くすぐりによる愛情ホルモンの増加は、「視索上核(SON)」という視床下部の一部位によって調節されている可能性が示されている。
人と動物の触れ合いに絆が生まれる
この研究を主導した岡山大学の林助教は、「人間と動物が、言葉も文化も違うにもかかわらず、なぜ心を通わせられるのか。私たちは長年それを不思議に思ってきました」と語る。
今回の発見により、人間とラットのように異なる種のあいだでも、心地よい触れ合いを通じて、愛情ホルモン回路が活性化し、絆が生まれる神経的なしくみがあることが証明された。
これは、動物とのふれあいによるセラピーや、社会的なつながりの構築に困難を感じている人への支援方法にもつながる可能性がある。
References: Doi.org[https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.05.034] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1092002] / Prtimes[https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003176.000072793.html]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。