
卵の殻やコーヒーかす、バナナの皮といった食品廃棄物が、3Dプリンターによってマグカップやコースターに生まれ変わる。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者が開発した「Foodres.AI Printer(フードレス・エーアイ・プリンター)」は、AI技術を活用して食品廃棄物から、気の利いた家庭用小物を生み出すという一石二鳥なアイデアだ。
スマホ操作で誰でも簡単に扱えるこのプリンターを通じて、廃棄物をただ処理する時代から、自らの手で新たな価値を生み出す時代が到来するかもしれない。
MITが提案する「超地域型リサイクル」の形
アメリカでは年間6,600万トンもの食品廃棄物が出されており、その大部分は埋立地に送られている。いわゆるフードロス問題だ。
米国環境保護庁(EPA)によれば、この廃棄物によって排出される温室効果ガスは、石炭火力発電所42カ所分に相当するとされている。
この深刻な問題に取り組むべく、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者2人は食品廃棄物を日用品に変換する3Dプリンター「Foodres.AI Printer[https://www.birucao.com/foodresai]」を開発した。
この装置はAIと連携したスマートフォンアプリを用い、廃棄される前の食品を素材として活用する。「超地域密着型の循環型経済」を生み出すことが、開発の狙いだ。
デザイナーのビル・ツァオ(Biru Cao)氏は「この製品は、日常生活の中でコミュニティが環境活動に自然と関わる仕組みをつくる」と述べている。
廃棄物を撮影するだけで素材に変換
操作は簡単で、専用のアプリで廃棄物の写真を撮るだけ。
アプリに組み込まれたAIが画像を分析し、バナナの皮、卵の殻、花の茎、コーヒーかすなどを判別する。
その後、これらを材料としてどのような製品が作れるか、いくつかの「レシピ」が提案される。
ユーザーは、テンプレートとして用意されたコースターやカップなどを選ぶことも、自分でオリジナルデザインを作成することもできる。
また、使用する素材に応じて、色合いや質感のカスタマイズも可能だ。
選んだアイテムに合わせて、プリンターは天然の添加物を加え、素材をペースト状のバイオプラスチックに変換する。
その後、3軸式の押出成形システムによって加熱・成形され、完成品が出力される。
素材を入れてから完成まで、ボタンを一つ押すだけという手軽さも魅力である。
誰でも使える簡単設計、衛生面の配慮は?
ツァオ氏は「この柔軟な設計によって、3Dプリンターの知識がない人でもすぐに使いこなせる」と説明している。
価格や製作時間については現時点で未公表だが、将来的には家庭でも導入しやすい製品になることが期待されている。
ただし、家庭で食品廃棄物を扱うにあたり、衛生面に対する不安もある。
現在のところ、具体的な殺菌処理や安全対策についての詳細は公開されていない。プリンターには加熱機能が備わっており、ある程度の殺菌効果が期待されるものの、家庭での使用時には適切な管理が必要になる可能性もある。
今後の技術開発や情報公開によって、この点の配慮が明かされることになるだろう。
食品から医療まで、広がる3Dプリントの可能性
近年、3Dプリント技術は大きく進化しており、食品分野でもその応用が広がっている。
2023年にはコロンビア大学の研究チーム[https://www.nature.com/articles/s41538-023-00182-6]が、植物ベースの食用食品インクを使い、チーズケーキなどのデザートを出力する3Dプリンティング技術を発表。
2016年、ロンドンでは、全ての料理や器が3Dプリントされたポップアップレストラン「フード・インク(Food Ink)」が話題を呼んだ。
さらに、医療分野でも3Dプリンターは人工皮膚や血管などの製造に使われており、将来的には完全な人工臓器の製造も視野に入っている。
こうした動きは、素材の多様化と技術の普及によって、身近な暮らしの中にも3Dプリントの波が広がりつつあることを示しているのかもしれない。
追記:(2025/07/28)本文を一部訂正しました。
References: Birucao[https://www.birucao.com/foodresai]
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。