
20年以上にわたる衛星観測データの分析により、世界の陸地から淡水が劇的なスピードで失われていることが明らかになった。
アリゾナ州立大学を中心とする国際チームによると、主な要因は「地下水の過剰利用」「温暖化」「干ばつの深刻化」で、その影響で北半球には4つの「メガ乾燥地域」が広がりつつあるという。
この状況は食料・水の供給や生物多様性を脅かすだけなく、海面上昇にもつながり、さらには世界の安定を揺るがすと懸念され、研究チームは世界が協調して水資源を管理する必要があると訴えている。
この研究は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adx0298]』(2025年7月25日付)に掲載された。
毎年日本の面積の2倍以上の地域が乾燥している
アリゾナ州立大学を中心とする国際チームによる今回の研究は、アメリカとドイツが共同運用した人工衛星「GRACE」と「GRACE-FO」が2002年から収集した22年分の観測データを分析し、陸上に存在する水の変化を調べたものだ。
ここでの陸上の水とは、「陸上総貯水量(terrestrial water storage)」を指し、地表にある液体の水だけでなく、地下水・氷雪・土壌や植物に保持されるものなど、陸地にあるあらゆる形態の淡水が含まれる。
分析の結果、陸上の乾燥地帯は、毎年日本の面積の2倍以上も拡大しており、しかも乾燥の進行速度は湿潤地域の増加をはるかに上回っていることが判明した。
その影響は、101か国で暮らす世界人口の75%に及んでいるという。
国連は世界人口が今後50~60年間にわたり増加すると予測しているが、その一方で私たちが利用できる淡水は劇的に減っていく可能性があるということだ。
淡水喪失の大きな要因は地下水の過剰利用
陸上の水が喪失している理由について、「気候変動」や「極端な干ばつの増加」があげられるが、特に注目すべきは「地下水の過剰利用」だ。
研究によると、淡水喪失の68%が地下水を汲み上げすぎていることに起因するという。
研究の中心人物、アリゾナ州立大学のフリシケシュ・A・チャンダンプルカル氏は、「どれほど多くの再生不可能な水を失っているのかに驚かされます」と述べている。
同氏によれば、氷河や地下水はいわば「古代の信託資産」のようなもので、長期の干ばつなど、やむを得ぬときにのみ使うべき資源だ。
だが現代社会は、それを当たり前のように利用し、雨が多い時期にそれを補充しようとすらしない。結果として、「淡水の破産」へと突き進んでいると警鐘を鳴らす。
また、汲み上げられた地下水は、やがて海に流れ着くために、海面を上昇させる結果となる。
2014年が転機となり大陸規模の乾燥化が進行
こうした危惧すべき状況は、2014~2015年の「メガエルニーニョ」が転換点になった可能性がある。
これ以降、気候変動が加速し、それに伴って地下水の利用も増加し、大陸全体での乾燥が、氷河や氷床が溶ける速度を上回るようになった。
また、これまで南半球に集中していた乾燥地帯が北半球へと移り、その逆に湿潤地帯は南に移るという興味深い変化も見られている。
とりわけ北半球の中緯度では、干ばつの深刻化が著しく、例えばヨーロッパ・カナダ・ロシアでは過去10年間で雪・氷・永久凍土の融解が大きく進んでいる。
その結果として、従来は地域的な乾燥地帯だったものが互いにつながり、以下に挙げる大陸規模の4つの「メガ乾燥地域」が出現している。
1. 北米南西部・中米:ロサンゼルスやメキシコシティなどの大都市、フェニックス・ツーソン・ラスベガスなどの砂漠都市、アメリカ南西部の農業地帯など
2. アラスカとカナダ北部:山岳地帯や高緯度地域、ブリティッシュコロンビア州やサスカチュワン州などの農業地帯
3. ロシア北部:ロシア国内の高緯度地域
4. 中東・北アフリカ・パンユーラシア地域:ドバイ・テヘラン・カイロなどの砂漠都市、ウクライナ・北西インド・華北平原などの主要な農業地帯、バルセロナ・パリ・ベルリン・北京などの主要都市など
地球規模の水管理が急務
こうした世界的な淡水の喪失は、農業・食料安全保障、生物多様性、水の供給を脅かし、世界の安定をも揺るがす危険なリスクとなっている。
この結果を受け、研究チームは、各国が協力し合い、持続可能な水資源管理政策を早急に行う必要があると呼びかけている。
現時点で気候変動への対策もうまくいっているとは言い難い状況だが、それでも地域や国家が連携し、地下水の過剰利用に歯止めをかければ、この深刻な状況を食い止めることはできるとのことだ。
なおこの研究は、世界銀行が今後発表するレポートにも反映され、各国が受ける影響や取るべき具体的な対策が示される予定であるそうだ。
References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adx0298] / News.asu.edu[https://news.asu.edu/20250725-environment-and-sustainability-new-global-study-shows-freshwater-disappearing-alarming]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。